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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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ライゼンハイマー領の災害

土砂崩れの情報を私に教えてくれたのは、情報大臣の娘のアグネスだった。


「この雨のせいで、ライゼンハイマー伯爵領で大規模な土砂崩れが起きたのですって。」

昼食の席でアグネスがそう言った。昼食はいつも家庭教師の先生方と一緒に、マナーチェックを受けながら食べるのである。


ライゼンハイマー伯爵領か・・。私は暗い気持ちで思った。

私は、土砂崩れが起こる場所として、幾つかの領地に当たりをつけていた。

ハーゼンクレファー公爵家が、支援の為にチャリティー音楽会を開いたという事はハーゼンクレファー家の親戚か寄子の領地が被害に遭ったという事だ。私は家庭教師の先生方に、高位貴族の縁戚関係について教えてもらい、ハーゼンクレファー家の親戚についても調べておいた。

そうして、ハーゼンクレファー家の親戚の家門の領地の場所を調べ、もし支援するならどういうルートを通って、というのをシュミレーションしておいた。


勿論、どこの家門であっても助けに行くというつもりでいたわけではない。ハーゼンクレファー公爵のお姉様の旦那さんはディッセンドルフ公爵らしいが、ここなら金持ちだし、うちと仲が悪いし、助けの手を差し伸べるつもりはなかった。助けるつもりでいたのは、あまりお金を持ってなさそうな家門だけである。そして、ライゼンハイマー伯爵領はそのうちの一つだった。


ライゼンハイマー伯爵は、ハーゼンクレファー公爵の従兄弟に当たる。母親同士が姉妹なのだそうだ。だけどライゼンハイマー家は、先代が投資で失敗したとかであまり裕福な家門ではなかった。その為、ライゼンハイマー伯爵夫人が、結婚し出産した後も、宮廷画家として王宮で働いている。


「それは大変ですね。」

「心配ですわね。」

と、友人達は口々に言った。ライゼンハイマー伯爵夫人は、アカデミーで絵画講師の仕事もしておられる。私は選択授業で『絵画』の授業を選択した事が無いので伯爵夫人との面識が無いのだが、友人達の何人かは親しくしていたのだ。


「どのくらいの被害が出たの?亡くなった方はいるの?」

と私は聞いたが、そこまで詳しい事はアグネスもまだ知らないようだった。


ライゼンハイマー領は、王都を流れる大河フェルゼ河沿いを船で一日の場所にある。かつて私がブルーダーシュタットへ向かう旅の途中、ネズミの丸焼きを食べた場所だ。領民のほとんどが農民で、王都との距離、アクセスの良さから王都向けの農作物や畜産品を多く生産している。それだけに、王都が封鎖された事で大打撃を受けている地域だ。


かつて旅の途中、ネズミやらイナゴやらを食べた時の、その地で生きる皆様の屈託のない笑顔を思い出すとやるせない気持ちになった。

できない事までする必要はないが、できる事はしよう。そう決意した。


災害被災地に、まず必要な物は『食べ物』『着る物』『薬』である。


『食べ物』は、王都が完全封鎖された時の事を考えて、貸し倉庫を借りてその中に備蓄していた食料があるので、そこから出す。

『着る物』は、王都内の経済状況が悪化するにつれ、たくさんの人達が古着屋に服を売るようになり、古着屋の倉庫に中古の服が山積みになっているらしいので、以前からそれを安く買い取っていた。

と言っても、私はお金を出していただけで、実際の買取はレーリヒ商会に頼んでいた。理由は、伝染病のせいで困窮している人達に寄付する為。と言っていた。


上着は中古品でかまわなくても、下着は新品が着たいのが人情だろう。なので、下着はルカに頼んで新品を数百着用意してもらっていた。

これも、困窮している人達への寄付用と言ってあった。


薬もレーリヒ商会を通して、前々から備蓄していた。胃腸薬や解熱剤などだ。他にも石鹸や消毒用アルコールなども用意しておいた。破傷風やコレラが流行ったらどうにもならないが、ちょっとした擦り傷や腹痛ならなんとかなるだろう。他にも、ガーゼ、包帯、歯ブラシ、生理用品など衛生用品も備蓄しておいた。


馬車や徒歩でしかアクセスできない領地だと運ぶのが大変だと思っていたが、ライゼンハイマー領なら船で行ける。運んでもらうのはレーリヒ商会の船に頼んだ。本当にレーリヒ商会様々である。


ただ、食べ物は生米や生麦を大量に送っても意味がない。そういうものもやがては必要になるだろうが、今すぐ必要なのは、道具も要らず煮炊きの必要も無い食べ物だ。干し肉や干し芋などである。

だが、三食干し肉と干し芋ばかり食べていたのでは、栄養も偏るし何より楽しくない。ほっとする物は暖かい食べ物だろう。


先日作った、お湯漬けおにぎりもおいしくて良いのだが、米は人によって好き嫌いがあるし食べるのに深皿とスプーンがいる。

なので、大量のペミカンを作ることにした。ペミカンなら、お湯に溶いてスープにもできるし、食器が無ければ直接かじる事もできるからだ。


ペミカンの材料は何でも良い。本場では、ヘラジカやアメリカバイソンの肉が使われるらしいが、脂分がそれなりにある肉なら何を使っても良いのだそうだ。私が一番最初に本で読んで知ったペミカンはベーコンだったし、良い出汁が出そうなので、ベーコンが良いかなあ、と思う。それに、イモとタマネギとニンジンをベーコンと同じ大きさのキューブ状に切って、大量のバターと一緒に炒める。火が通ったら冷やして固めて出来上がりだ。

これをお湯で溶けば手軽にスープができるのだ。


正直、これでスープを作っても21世紀のグルメな日本人には味が物足りない。なので、ペミカンを食べる登山家や冒険家は追加でシチューの素や味噌を入れるのが普通だ。しかし、あまりおいしくないスープを食べているヒンガリーラント人なら、たぶん許してくれるだろう。


なんて言っているが、実際にペミカンを作るのは私じゃない。なぜなら今の王都で大量のペミカンが作れるほどの大量のバターは手に入らないからだ。

なので、イモとタマネギとニンジンを大量に送りつけて後は丸投げする。誰にって?


友人(?)のカリンさんにだ。


カリンは『光輝会事件』で知り合った子で、現在王都から徒歩30分の場所に住んでいる。彼女の家の周囲には牧場がたくさんあって、王都で売れなくなったベーコンやバターが安く売られているのだそうだ。彼女の家には今、食い詰めた旅芸人がたくさん身を寄せているというし、その人達と協力してペミカンを作ってくれ。と頼む予定だ。お礼に小麦粉やライ麦粉をたくさん贈ろうと思う。


私はユリアにお願いして、諸々の荷物を運んでもらった。まあ、現実に荷造りや荷運びをしたのは、日雇い労働者の方々だけど。

その方々には

「一つの箱に、服と毛布とリンゴと、みたいな入れ方をしたらアカンよ。」

とは伝えておいた。そんな入れ方をして食べ物が腐ったら、他の支援物資が全て汚染される。災害被災地への支援物資は、『一つの箱内には全て同じ物』が原則だ。ちょっとずつ、いろんな物を入れてあげよう。という考えは逆に迷惑になるのである。


そうして私は、できない事や面倒な事は金で解決しつつ、支援物資を用意した。

最後に、ユリアにこう念押しした。

「私の名前や、エーレンフロイトの名前は出さないでね。レーリヒ商会からの支援という事にして。」

「どうしてですか?これだけのお金をかけて善行を施すのに、それを公表なさらないなんて。私共は、名声を横取りするような真似はできません。」

「ハーゼンクレファー家より先に、支援に駆けつけたと噂になるのはまずいんだよ。貴族はいろいろとしがらみがあるのだから。その点レーリヒ家は商家だし、ライゼンハイマー伯爵夫人と面識があるし。」

「でも・・。」


ハーゼンクレファー家はなんとなく不気味な家門だ。一周目と二周目で公爵夫人が違うというのも不気味だし、息子のエディアルトは元、光輝会員だ。光輝会員の創立者の一人でありながら、くだんの事件の折には風邪を引いてお茶会を欠席し、逮捕を免れた。彼は自分の友人達が裁判にかけられた時、いったいどんな気持ちだったのだろう。彼自身も、あの事件以来社交界とは一線を引いているという。

彼の存在も不気味だった。


そして、レーリヒ家の船が王都をたった頃。

アグネスがまた、噂を耳に入れて来た。


「ハーゼンクレファー家で、チャリティーの仮面舞踏会が開かれるそうですよ!」


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