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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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王都の攻防戦(4)(フランツ視点)

ユーバシャール孤児院を出た後、私は王都内で一番行ってみたかった所に行ってみた。第二地区にある、エーレンフロイト家の別邸である。


中に入ってさすがに驚いた。建物の南側、東側、西側と三方に見事な畑が出来ている。変則的な形なので定かではないが、2ヘクタールはあるのではないだろうか。


畑の三分の一は、南海芋の畑だ。エーレンフロイト領の領館でも、孤児院の子供達が作っていたので葉や蔓の形に見覚えがあった。

残りの三分の一には収穫目前の野菜が植えられている。ナスにキュウリ、トマトに大豆だ。南海芋の隣には、見た事の無い植物が植えられていた。

そして残りの三分の一はびっしりとスプラウトが生えていた。野菜に詳しくないので、見ただけでは何のスプラウトなのかはわからない。


「お父様ー。」

と、畑の雑草をむしっていたレベッカが、立ち上がって手を振った。真っ黒に日焼けして、顔に泥とかついているけれど、世界で一番可愛い!と思う。


「見事な畑だな。大豊作じゃないか。」

実際には、まだ青い実ばかりで食べられるのはもう少し先かもしれないが、数日後には大豊作だろう。


そこいらの農家より1アール辺りの収穫量は上だろう。もはや素人の趣味のレベルではない。この畑を財政省の税務調査官に見られたら、多分税金をかけられる。


「土も柔らかくてふかふかだ。すごいね。」

「えへへ。」

とレベッカは笑って、額の汗を手で拭った。こういう事をするから、顔に土がつくのである。そんなドジなところも可愛らしい。


「ニコールとリーバイのおかげだよ。ものすごい量の堆肥を撒いたから。」


コルネが

「あ!侯爵様だ。」

と言ったので、畑中の人間達に私の正体がバレた。皆が手を止めて跪く。私は

「必要ない。作業を続けてくれ。」

と言った。


レベッカが畑の作物の説明をしてくれた。

南海芋の側に生えている作物は『落花生』というらしい。豆の一種だそうだ。

生えたばかりのスプラウトは、ニンジンとカブだという。


「ナスとキュウリは、もうじき収穫出来そうだね。」

「そうなの。楽しみー。本当はね。ウリ科の作物を作るなら『冬瓜』を作ったらどうか、ってニコールには勧められたんだよね。夏が旬のウリなんだけど、皮が硬くて冬まで保存できるから『冬瓜』って言うんだって。飢餓対策には日持ちする野菜の方が良い。って言われたんだけど、でも私がキュウリを食べたかったの!生で食べられる野菜が食べたかったの!いやまあ、ニンジンやナスだって生でかじろうと思えばかじれるんだろうけれど。」

「いいじゃないか。お父さんもキュウリは大好きだよ。だから嬉しいよ。」

「本当⁉︎良かった。まあ、もし来年も伝染病が流行っていたら、来年は冬瓜を作ってみるよ。あ!勿論流行ってないと良いな。って思っているよ。」

「そうだね。」

と私は言ったが、多分終息はしないだろうと思っていた。

かつて、天然痘が流行した時も何波にも渡って都市を襲ったのだ。終息したように見えても、他の街で流行っていたら、結局また流行り出す。それが、伝染病だ。

エーレンフロイト領の領都だって、どうなるかはわからない。ただ領都では七割近い人達が種痘を受けている。

変異株でも出ない限り、大規模に流行する事はもう無いと思う。


「ところで、あの畑は何?」

私は森のすぐ側にある畑を指差した。少し離れた場所に小さな畑があり、葉物野菜が植えられている。周囲は柵で囲まれ畑全体が目の細かい網で覆われていた。


作ってみたいと言っていた、葉物野菜を植えて厳重に害虫対策をしているのかと思ったが、その割に野菜は穴だらけだ。雑草も一緒に伸び放題になっている。


「ああ、あれはね。エスカルゴを養殖しているの。」

「えっ!」

確かに。目を凝らして見ればカタツムリがうじゃうじゃいる。


「孤児院の子供達が食べる為に、大事に育てているんだ。六十匹に増えたら持って帰るんだって。」

「そ・・そうか。エスカルゴはおいしいからね。」

リップサービスである。現実にはバジルバターで味付けされたエスカルゴはバジルバターの味しかしないと思っている。

それにエスカルゴは、殻が付いている状態の時は可愛らしいが、殻から出した途端に可愛くなくなる。正直積極的に食べたい食材ではない。

なので。


「あ!お父様、エスカルゴ好きなの?じゃあ、子供達に頼んで何匹かもらってあげようか?」

とレベッカに言われて、慌てて首を横に振った。

「いや、いいよ!子供達の大事なタンパク源だ。それを取り上げるのは申し訳なさ過ぎる。」


エスカルゴが卵を産んで六十匹に増えても、子供達が食べられるのは一人一匹だ。そんな貴重な食材を徴募なんかしたら悪徳地主になってしまう。


「子供達はなかなか、お肉とかは食べられないのだろうしね。」

「そうだね。時々小川でザリガニとか捕まえたりもしているけれど、自分達が食べるわけじゃなくて、パン屋さんとかに持って行って物々交換とかしてもらってるみたい。」

と言った後、レベッカは神妙な顔をした。


「お父様、ごめんなさい。例のザリガニの事件。私、傷害罪で訴えられているんだってね。」

「レベッカ・・。」

「今でもわからないんだ。何であのタイミングでこけてしまったのか。別に足元に何かつまずく物があったわけでもないのに。」


正義を司る神様が『真実の愛男』に天誅を下そうとしたのでは?と思うが、非科学的な事を言うわけにもいかない。


「そう言う事もあるさ。わざとやったわけじゃないし、レベッカはすぐに謝ったのだろう。だったらレベッカは悪くないよ。これはむしろ、政治的な問題なんだ。」

「でも、私。お父様とお母様には、親孝行したいっていつも思っているのに、結局迷惑をかけてばかりで情けないよ。お父様。もし私が貴族籍を剥奪されて国外追放とかになったら、おとなしく従うから。素直に一人で出て行くから、国王陛下に逆らったりしないでね。」

「もしも出て行く時は、家族皆一緒だ!レベッカは迷惑なんかかけてない。レベッカは心配しなくていい。」


そう、これは政治的な駆け引きなのだ。

ガルトゥーンダウムは我が家を滅門できるものなら滅門させたいのだろう。第二王子殿下の力を削ぐ為に。そして、エーレンフロイト領を一部でも良いから手に入れる為に。我が領には宝石の鉱山があるし、海の無い領地にとって海の存在は魅力的だ。


それが不可能ならば賠償金が取りたいはずだ。ガルトゥーンダウムは

「どうか、許してください。宝石の鉱山をお渡ししますから。」

と言わせたいのだ。その為に私とレベッカと後ジークを訴えている。


ちなみにヒルデブラント家では、先代侯爵の娘のゲオルギーネ夫人が

「拷問でも処刑でも好きにやってください。最近生意気になって手がつけられなくなってきたんです。どうぞご自由に。」

と答えたそうだ。


親戚同士仲が悪いようだから、それくらい言うかもしれないが、本当に処刑は出来ないとわかっていて言っているのでは。と思う。

ジークはグラハム博士の救出を主導し、それで得た種痘の専売権を、国に寄付した英雄だ。本当に処刑できるわけがない。

そんな事をすれば、民衆が黙ってはいない。

それをわかった上で「賠償金は払わない」と言っているだけではないかと思う。


むしろガルトゥーンダウムの方が、振り上げてしまった手のやり場が無い状態なのではないだろうか?はて?ガルトゥーンダウムはどうするだろうか?


「訴えの事はレベッカは何も気にしなくていい。お父さんは弁護士資格を持っているんだから、どーんとお父さんに任せなさい。レベッカは畑に集中してくれていたら良いよ。」

元気づける為に言ったのだが、レベッカは一瞬不安そうな顔をした。


「そうだね。・・畑を守らないと。」

あれ?と思った。畑で何か問題が起きているのだろうか?


その時だった。何かぞわっ!とした。

武人としての勘に、何かが引っかかったのだ。

私は周囲を見回した。

畑では、皆が忙しく熱心に働いている。

この違和感の正体は何なのだろう?

一瞬、背後の森が暗く見えた。何かの悪意が迫ってきているような不快な感覚があった。


その感覚は正しかった。

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