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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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王都の攻防戦(1)(フランツ視点)

お父様視点の話で、『我が家へと続く道』からの続きになります。


朝目覚めて、窓の外を見ると見慣れた我が家の庭が広がっている。


ただそれだけの事でも、帰って来たのだ。と感慨深い気持ちになった。

私の名前はフランツ・フォン・エーレンフロイト。ヒンガリーラントの歴史ある侯爵家の当主だ。


私はつい先日まで、ヒンガリーラントの南西部にある領地に戻っていた。そして昨日やっと、王都の家族の元に戻って来たのだ。

ここに立っていると、一ヶ月前までの諸々が、嘘だったのでは、とさえ思えてくる。

平和な王都と違って、領地は悪夢としか言えない状況だった。


かつて西大陸の七人に一人の命を奪ったとさえ言われるほど人類を蝕んだ伝染病、『天然痘』がエーレンフロイト領で発生したのだ。

当初は発生元がわからず、ただ発症者と濃厚接触者をマニュアルに従って隔離するしかなかった。

それでも、150年前に流行した時と状況が違ったのは予防薬である『種痘』があった事だ。これがあったおかげで、治療に当たる医者も、患者の移送を手伝う騎士団も恐れる事なく職務を全うする事が出来た。私自身も、領館に引きこもる必要もなく領民に指示を出す事が出来た。


正直、天然痘がらみの諸々よりも、王都の敵対派閥からの嫌がらせの方が、私の正気と忍耐力をガシガシと削ってくれたくらいである。


病はたくさんの死者を出したが、それでも領都内では天然痘を完全に封じ込めた。

なので、私は二週間の待機期間を経て王都に戻って来た。


一つの戦いが終わった。

これから新たな戦いが始まるのである。



やっと王都に戻って来たのだから、愛する妻や子供達とまったりのんびり過ごしたいところだが、現実にはそうもいかない。

昨日は、家族とのお茶の時間もそこそこに、私がいなかった間の報告を聞く事に忙殺された。


一番重要な報告は、司法省から告訴状が届いたというものだ。

私だけに届いたのならまだ良いが、ジークにも出ているらしい。そして愛娘レベッカにも届いている。


レベッカは、館に押しかけて来た司法省職員に、池の水をぶっかけ、ザリガニを使って怪我を負わせたらしい。

「お嬢様もわざとやったわけではなく、偶然の果ての不幸な事故だったんですよ。」

と執事は言ったが、相手が出血するほどの障害を負わせたのは事実だ。

これは仕方ない。仕方ないが、お前らが呼んでもいないのに押しかけて来たりしたからだろうが!と腹が立たないわけでもない。


もっと腹が立つのは、妊娠している妻に連中が集団で詰め寄り脅した事だ。どれだけ恐ろしく心が動揺した事だろう。

お腹の子供に何かあったらどうしてくれるのか!と逆に相手を訴えたいくらいだ。

話を聞いた時は、頭に血が上り司法省に殴り込みをかけに行こうかと思ったくらいだが、それは出来なかった。


帰って来てすぐ王城から

「日を決めて通達するので、その日に王城に出仕するように。それまで、卿も姫君も司法省に出頭する必要は無い。」

と伝達が来たからだ。

どうやら、司法省からの出頭要請は司法省の暴走で、王室とは無関係らしい。

王城より先に司法省へ行くな。と命令が出た以上勝手に行くわけにはいかない。そして王城は、私が絶対に天然痘の原因菌を持ち込んでいないと確認がとれるまで、私に会う意思は無いらしく、まだ出仕する日にちが決まらない。

私としては、領地とその周辺で起きた事について早く報告をあげたいのだが。


とりあえず、私は私が王都にいなかった間に溜まっていた仕事の処理に忙殺される事になった。



私が王都にいなかった間に溜まっていた仕事のうちの一つは『新しい家族達』に面会する事だ。

私がいなかった間に、レベッカやヨーゼフの友人達がたくさん我が家に滞在していたし、住み込みの家庭教師や乳母など、使用人が増えている。彼女達の現状と、ここへくる事になった経緯を聞くのも重要な仕事だ。


面倒な問題自体は、既にアルベルとレベッカが解決済みだ。私の最大の仕事は彼女達の給料と生活費を工面する事だ。しかし、それはまあなんとかなりそうだ。エーレンフロイト領の税収は伝染病のせいで激減するだろうが、領地にはまだ余力がある。その余力のほとんどはレベッカの力だ。レベッカは伝染病が発生する前から大量の食料を備蓄していたのだ。おかげで今高騰の一途を辿る食料を、かき集める必要が無い。なので、その分の資金が他に回せるのだ。本当に私は良い娘を持った。


邸宅内の報告を受けた後は、王都の現状の報告を受ける。その後、昼食を『新しい家族達』と一緒にとった。レベッカの友人達には面識のある子もいるし無い子もいる。無い子の一人が、ローテンベルガー侯爵の姪リーゼレータ嬢だ。彼女は、僕の記憶の中のテレージア嬢と瓜二つだった。リーゼレータ嬢の父親には、エーレンフロイト領でものすごくお世話になった。その事を伝え感謝すると、リーゼレータ嬢はとても嬉しそうに微笑んだ。その天真爛漫な笑顔は、本当に母親のテレージア殿にそっくりだった。



昼食をとった後、私は外出をした。するべき書類仕事はまだ山のようにあるが、それでも私は外に出かける事にした。

エーレンフロイト領で医療ボランティアをしてくれた人達の家族に預かっていた手紙を届けに回る為だ。


彼らは、見知らぬ土地で命をかけて働いてくれた。本当はシンフィレアでのボランティアが終わり、家に帰る途中だったのにエーレンフロイト領の為に働いてくれたのだ。彼らは更に、新たに天然痘が発生した土地、ブルーダーシュタットに旅立って行った。

彼らが、どれだけエーレンフロイト領の人々の為に身を粉にして尽くしてくれたか、それにどれだけ感謝しているかを領主である私は伝えて回る義務があると思ったからだ。


彼らの住所は医療省に問い合わせればすぐにわかる。国際ボランティアを申し込むには、名前と住所を医療省に申告しないとならないからだ。私は一人一人の家を回った。


ボランティアの人間は20人以上いたが全員が、家族宛の手紙を書いたわけではない。地方から王都の大学に進学したので、家族が王都にいないという人もいた。他の理由から家族がいないという人もいた。手紙を預けてくれたのは七人だった。


私はその七人の家を一件一件回った。私の正体は隠して

「エーレンフロイト侯爵家から来た者です。」

とだけ名乗った。当然、正体はバレなかった。侯爵自ら手紙を配って回っているとは誰も思わないのだろう。私もわざと、エーレンフロイト騎士団の騎士服を着ていた。


皆手紙を見てとても喜んでいた。

子供や、弟妹の話を聞きたいので、どうぞ中に。と言ってくれる人もいた。でも

「まだ、配る相手がいるので。」

と言って断った。その代わり、伝えられる事は出来るだけ伝えた。どれほど、苦しむ患者達の為に尽くしてくれたかを、身振り手振りで説明した。「もし、何か困った事があった時にはぜひエーレンフロイト家に相談してください。」とも言っておいた。

ユーバシャール孤児院長か、デイム・クリューガーを通してくれれば話が通りますので。と言い添えておいた。


ボランティアの人達の、バックグラウンドは雑多だった。

お金持ちそうな人もいたし、貧民街の片隅に住んでいる人もいた。大家族という人もいれば、母一人子一人の母子家庭という人もいた。

だが、共通していたのは、皆立派な家族達だった。という事だ。

皆礼儀正しく品があり親切だった。子供からの手紙を見て泣き出す人も多かったが、基本ポジティブで前向きな人が多かった。

心配したり、他の人に迷惑をかけていないだろうかと口では言うが、誰もが子供を信頼し愛し、誇りに思っていた。


「さすが、ボランティアに行くという人の家族は立派な人達ばかりだなあ。」

と私が言うと、護衛のウルリヒが

「立派でない家族をお持ちの方は、家族宛に手紙なんか書かないのではないでしょうか?」

と言った。・・それもそうか。


そんな家族の中に一人。少し意外な相手がいた。

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