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黙学室にて(2)

そんなこんなで、ほのぼのしていた私達。

「夜、寄宿舎に帰ってからお渡ししようかと思ったのですけれど、早い方が良いかと思って。」

「ありがとう、助かるわ。今、する事なくてどうしようかと思ってたとこだったの。授業が終わったら、図書室へ行くつもりだったのに、まさか週に2日しか行けないだなんて思わなかったから。」


アカデミーにも図書室があるが、混乱を避ける為に『初等部』『中等部』『高等部』の生徒が1週間のうち二日ずつ利用する事になっているのだ。

ちなみに1週間は7日間。

1星日

2星日

3星日

4星日

5星日

6星日

天星日

という。

もしかして、暦を作った頃、C国の人が異世界転生してきたのだろうか?

授業があるのは1〜6星日で、天星日はお休み。

図書室も、天星日は閉まっていて、1、2星日が初等部、3、4星日が中等部、5、6星日が高等部が使用できる事になっている。

今日は2星日なので、中等部の私は図書室に行けないのだ。


週に2日しか行けないのは残念だけど、図書室で、ルートヴィッヒ王子とバッタリ!とかいう事にはならないのは気が楽かな。

「レベッカ様は、読書がお好きなのですか?」

とユリアが聞いてくる。


「うん、大好き。鼻血吹くくらい好き。」


比喩ではない。本当に鼻血を出した事があるのである。

新年祭のちょっと前の事。朝から晩まで、本ばっかり読んでいたら、ある日鼻血が止まらなくなったのだ。


お医者様曰く。人間は疲れすぎると、鼻血が出るタイプと、血尿が出るタイプがいるらしい。私は、鼻血派だったというわけだ。

それ以来両親に、1日の読書時間は4時間まで!と、決められてしまった。


「だから、アカデミーに行ったら、思う存分読書しまくってやる!と思ってたのに。」

なにせこの世界には、スマホもテレビもネトゲもないのだ。

読書くらいしか楽しみがないというのに、それを制限されたら、他に何をすれば良いというのか⁉︎


「・・4時間読めたら、結構な長さでは。」

とユリアが言う。

「えっ!1日は24時間もあるのに?」

「そ・・そうですね。でも、私も本が好きなので、レベッカ様も本がお好きと聞いてとても嬉しいです。レベッカ様は、どんな本がお好きなのですか?」


・・・・難しい質問だ。

一番好きな本のジャンルはミステリーだが、それを言ってしまって大丈夫だろうか?

いや、そもそもこの世界には『ミステリー』というジャンルがあるのだろうか?


ユリアも本が好きだからといって、油断をしてはならない。

なにせ同じ森でも、違う沼にはまっていたら、末代まで祟りあう間柄になる。それがオタクというものなのである。


「ええと、家には歴史や法律の本が多かったから、そういうのを読んでいたわ。」

お父様が法科大学へ行ったので、うちは、法律書の品揃えはやたらよかったのだ。

今の私は、刑法や国際法だけでなく、商法とか、特別措置法にも詳しいよ。


「物語系だと、そうね、最後がめでたしめでたしで、ハッピーエンドで終わる話が好きかな。」

「そうなんですか。私もなんですよ。どんな本が特に好きなのか、題名を教えて頂けませんか?」

やたらユリアがぐいぐいくる。

「ええ・・と、この世界・・じゃなかったぁ、ここの図書室にあるかどうか・・・。良かったら、アカデミーの図書室にある本でユリアが好きな本を私に教えて。」

苦し紛れに、質問に質問を返してみた。

「私の好きな本ですか。そうですね、私が一番好きなのは『森の王国』です。」


知らない本だ。題からしてたぶん歴史物だろう。


「水と風の精霊が造った、森の王国と呼ばれる国があって、ある日王様が子供達に『最も強い精霊と契約した者を、次の王にする』って言うんです。それで、王子様や王女様達は精霊を探す冒険に出かけるのです。作品の中にはたくさんの精霊が出てくるのですけれど、特に強い力を持つのが『創世の森の精霊』と呼ばれる6人の精霊で、水、風、火、闇、音、文字の精霊なんですけど・・。」


ファンタジーだった。

ユリアは本の話になると止まらなくなる性格らしい。

いつも、私と話す時は小さな声でどもりがちだったのが嘘のようだ。


「・・はっ!すみません。私ったらこんな話を長々と。」

「ううん。興味深かったよ。もう完結してる話で、本編が6巻、外伝が2巻出ているのね。明日、図書室に行ったらその本、探して読んでみるわ。」

でも、その前にこの紙の束を読まなくっちゃね。と、考えていた私は、周囲の人達がちらちらとこちらの様子を伺っていた事に、全然気づいていなかった。

その視線の中に、恋愛絡みの激しい嫉妬の視線があったという事も・・・。



寄宿舎での夕ごはんは6時から。

寄宿舎の食堂で、女子生徒みんな一緒に夕食だ。


それから寝るまでは自由時間。談話室でおしゃべりしていても良し、遊戯室でゲームをしても良し、自室でぼーっとしていても良し。

何をしても自由である。

ただし、他の寄宿舎生の個室を訪問するのは禁止なんだけどね。トラブル防止の為らしい。


とりあえず、まず、私がするべき事といえばお勉強。机の側に座ってユリアに貰った紙の束をひたすら読む。


紙の束の半分以上は歴史の授業の物。つまり、過去の偉人の生涯についてだった。


偉大な政治家、偉大な軍人、偉大な学者、前衛的な芸術家、詐欺師じゃないかと疑ってしまうような哲学者などなど、偉人なんだかそうでないんだかよくわからない人々の経歴が書いてある。読み物としても十分に面白い。

そんな偉人達のうちの一人の経歴を、私はいつに間にか夢中になって読んでいた。


『聖女エリカ』の、生涯を。

ちなみに作者は血尿派です。

尿路感染症になったのかと思って、慌てて泌尿器科に駆け込んだら「過労でしょう」と言われた、あの衝撃!


それ以来、疲れ過ぎないよう自分に甘く生きています。そんな作者に、頑張れ、応援してやるよ!などと思って頂けましたら、是非ともブクマや評価をお願いします。

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