新しい家族達(28)(アルベルティーナ視点)
そう言うレベッカの手に皿があり、シフォンケーキがのっています。
「まあ、その前にケーキどうぞ。ゾフィーとビルギットの分もあるよ。」
「何が入っているの、そのケーキ?」
色が毒々しいオレンジ色をしているのです。
「すりおろしたニンジン。試しに作ってみたんだけど意外にイケたんだよ。他に作ったのが、お酒に漬け込んだドライフルーツのケーキと紅茶のケーキだからさ。今のお母様にアルコールやカフェインは良くないと思って、それは持って来なかった。」
ニンジンのケーキ!見た事も聞いた事も無いお菓子です。どういう思考回路の果てに思いついたのでしょう?
「ニンジン、あんまり好きじゃなかったけど、自分が作った。と思うとなんかおいしいんだよね。だから、ケーキにも合うんじゃないかと思ってさ。」
「私は、野菜作りはノータッチですけれど、確かにあなたの作る野菜やイモはおいしいですよ。多分、堆肥を惜しみなく撒いているからではないの?貧しい農村では、肥料なんかほとんど撒けませんからね。」
「あ、なるほど。」
とレベッカは、納得しています。
その間に私はケーキを一口食べてみました。
おいしい!
ニンジンというより、栗とかに近い風味があります。青臭さとかは全くありません。本当に普通においしいです。私は元々ニンジンが嫌いではないのですが、たとえ嫌いな人でもこれはおいしく食べられるのではないでしょうか⁉︎
「野菜嫌いのヨーゼフでも、これなら食べられるんじゃないかしら?」
「それも考えてなんだ。ヨーゼフ、私が作ったニンジンもネギも『好きじゃない』って言って食べてくれないんだもん。」
お菓子の販売会で、販売するケーキのレパートリーが一つ増えました。嬉しい事です。
「話って、ニンジンのケーキの試食?」
「ううん、そのケーキは賄賂。リーシアの腕の怪我もだいぶ治ってきたし、そろそろリーシア達を畑に連れてってあげようと思ってるの。アグネス達も行きたがっているし。となると、作業用の服がいるんだけど、ルカをうちに呼んでいい?大人数でルカの店に行くと目立つからさ。」
ルカは我が家御用達の仕立て屋です。彼の店は商業区にあるので、十人くらいの子供が馬車に乗ってぞろぞろ行ったら確かに目立つでしょう。
「ええ、いいわよ。そうだ、このケーキ、ルカに食べさせてあげなさい。彼、甘い物が好きだから。」
「わかった。」
と言った後、レベッカは目を泳がせて黙っています。
「どうしたの?」
「いや・・。赤ちゃんのベビードレスさ。そろそろ注文しないと間に合わなくなるんじゃないかなと思って。ユスティーナ様の姪っ子ちゃんは、二週間も予定日より早く生まれてきたんだって。そういう事もあるわけだし。いつ戻って来るのかわからない、お父様を待っていると間に合わなくなっちゃうよ。」
まだ出産予定日は四ヶ月以上先なので、問題無いと思います。ただ単にレベッカがみんなに話したいだけではないの?と思います。
私の妊娠は、まだリーシア達にも内緒にしているのです。
でも、旦那様がいつ戻って来るのかわからないのは事実です。そして、三日後に『乳母』がうちに来たら、リーシア達にも私の妊娠はわかってしまいます。だったらもう『家族』に黙っている必要もないかもしれません。今我が家にいる子供達もですが、ゾフィーの弟であるルカも私にとって家族のようなものです。
「それに、お母様だって、そろそろ体型が変わってくるでしょう。マタニティドレスがいるじゃない。私やヨーゼフを妊娠していたのは十年以上前の話だし、その頃に着ていた服を今また着るのは、ちょっと痛々しいと思うなあ。」
むかあ!っとしました。図星を指されたからです。
レベッカを妊娠していた頃、世の中では淡い色のドレスが流行っていました。私には淡い色の服は似合わないのですが、流行に乗って私は空色とか薄ピンク色のマタニティドレスを作りました。あの頃の服は捨てずにとってありますが、30代後半になった今、あの可愛らしすぎるドレスを着る勇気は確かにありません。
というか、あのドレス。ヨーゼフを妊娠していた時も着たけれど、まだ三歳だったレベッカに『痛い!』と思われていたというの⁉︎
「だからね。私がお母様に新しいマタニティドレスをプレゼントしてあげる。」
「え?」
「よくよく考えてみたら、私赤ちゃんが出来たってお母様に言われた時『やったー』とか『嬉しー』とか言ったような気がするけど、お母様に『おめでとう』と言わなかった気がする。お母様、おめでとう!そしてありがとう!
お祝いにぜひ私にドレスをプレゼントさせて。」
イライラポイントも多々ありますが、レベッカは善意から言ってくれているようです。それはわかります。
「そうね。」
と私は言いました。
「お金貯め込んでいそうですものね。『原告側のタヌキさん』は。」
そう言うと、レベッカはアワアワアワ!!!とパニックを起こし始めました。
「な・ななな何を言っておられるのか・・・⁉︎」
「私が気がついていないと思ったの?」
『原告側のタヌキさん』は、新聞に創作料理をしばしば投稿している創作料理家です。投稿している人達は何人かいますが、『原告側のタヌキさん』と『フロイライン・プラムパイ』という創作料理家がツートップでよく新聞にのるのです。
新聞に料理のレシピが掲載されると、投稿者には新聞社から礼金が出ます。微々たる額ではありましょうが、塵も積もれば山となるのです。『原告側のタヌキさん』は相当額の礼金を稼いでいるはずです。
『原告側のタヌキさん』は、お米を使った料理が大好きです。オムライス、ドリア、肉巻きおにぎり、スップリといった料理を今までに紹介してきました。お魚と揚げ物料理も大好きです。コロッケやフライドポテトという我が家でよく出てくる料理も投稿していました。
そして何よりも『タヌキ』というのは、我が家で飼っている愛犬の名前なのです。
タヌキは、東大陸で語られる空想上の動物です。(※作者注 レベッカママは、タヌキを架空の動物と思っています。)
かつてレベッカが語った『タヌキのお父さんの話』に感動した旦那様が、仔犬を飼い出した時、仔犬に『タヌキ』という名前をつけました。
つまり、タヌキは我が家ではともかく、西大陸でメジャーな生き物ではありません。
しかも『原告側』です。これも一般的な単語ではありません。法律用語であり、弁護士とか裁判官が知人や家族にでもいない限り思いつくフレーズではないでしょう。
以上の事からして、どう考えても『原告側のタヌキさん』はレベッカです。そうに決まっています。
別にいいんですけどね。本名で投稿されていたら、それはさすがにまずいですし、『被告・キツネ』とか『囚人・アライグマ』とかよりかは全然マシなネーミングです。法を犯しているわけでも、倫理上いかなるものかと思う事をやらかしているわけではありません。
ただ隠し財産をあまり増やされると、また家出されるかもしれないので、適当なタイミングで没収しなくてはなりません。
せっかくですので、ドレスをプレゼントしてもらって隠し財産を目減りさせましょう。
「ゾフィー。ルカに店にある中で一番高い絹織物を持って来てくれるよう言ってちょうだい。」
と言うとゾフィーは
「承知しました。」
と、それは良い笑顔で答えてくれました。
さて。
娘に『痛い』と言われてしまったマタニティドレスは、ラヴェンデル嬢にでもプレゼントする事にしましょう。
三日後。オルヒデーエ先生の家族がうちに来てくださりました。
私と先生は抱き合って再会を喜び合いました。
「先生。全然変わっておられませんね。」
「アルベル様も。というのは、おかしいかしら。お別れした時は貴女は十歳でしたものね。」
相変わらず、先生は茶目っけがあります。
「素敵な貴婦人になられて。」
「先生のおかげですわ。」
私達は泣きながら再会を喜び合いました。
そうして、我がエーレンフロイト家は『家族』がたくさんに増えました。
レベッカやヨーゼフのお友達。レベッカの家庭教師の先生。そしてオルヒデーエ先生と二人のお嬢さん、ラヴェンデル嬢とヤスミーン嬢。ラヴェンデル嬢の息子のディーター。先生の家で20年働いているというメイドが一人。
ラヴェンデル嬢の子供が生まれて、私の子供が生まれて、そして旦那様が護衛騎士達と一緒に戻って来てくださったら、ますます邸内は賑やかになるでしょう。
冷や水を浴びせられるような気分になる事件があったのは、それから間もなくの事でした。
『タヌキのお父さんの話』は、『絵本作り(2)』にのっている話です。
新しい家族達の話も残り二話の予定です。最近、ブクマがじわりじわりと増えてきて、ものすごく嬉しいです。
これからも、どうかどうかよろしくお願いしますo(^▽^)o
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