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新しい家族達(25)(アルベルティーナ視点)

「何か特別な土地なの?」

「デューリンガー家のセカンドハウスの裏の土地なの。」

リエの言葉の意味がわからず、私は首を傾げました。


「私、エイラの親が働いている商会の商会主に会ったでしょう。」

エイラはリーシアの腹心の侍女です。彼女が虐待を受け衰弱していたリーシアを家から連れ出しました。その件で、リーシアの継母がエイラの親が働いている商会に理不尽な圧力をかけないよう、リエは先に手を打ちました。

エイラの親と商会主を呼び出し、エイラの行動を褒めちぎり、もしデューリンガー家が何か理不尽な事をしてきたら自分に相談するよう言いました。他にも何でも相談にのると胸を叩きました。

すると商会主は

「お金を貸してください。」

と、頼んできました。


その商会は、中級貴族や下級貴族を多く顧客に持っているのですが、お金を踏み倒される事例が増えているそうです。リーシアの親も金貨何百枚分もの売掛金を払ってくれないらしくて、商会は倒産の瀬戸際に立っていたそうです。

それを聞いたリエは

「貸してもいいけれど、担保として、デューリンガー家の借用証書をちょうだい。」

と言いました。商会主は二つ返事で借用証書をくれたそうです。


「その証書と引き換えに土地と屋敷を奪ってやろうと思ってね。リーシアをいじめていた報いよ。命以外の全てを奪って、不幸のどん底に叩き落としてやる。」

「それと先生の家に何の関係があるの?」

「リーシアの親の土地と合わせたらまあまあの広さになるの。実はリーシアの親の土地の隣と更にその隣ももう借金のカタに差し押さえていてね。全部合わせたら広いわよー。その土地あと数年したら、かなり高値で転売できると思うんだ。」

「誰に売るつもりなの?」

「新興貴族よ。今は大変な国難の時よ。戦争が起こっているのと同じようなものだわ。そういう時って、『手柄』をあげた平民が、新たな貴族に後々ばんばんとり立てられるのよ。私が思うに『種痘』の専売権を国に無償譲渡した商人や、患者の治療を献身的に行った医者とかが必ず新たな男爵になるわ。そして新たに男爵位を手にした人達は、貴族街に館を欲しがるものなのよ。そういう人達に貴族街の土地を売るの。特にアルト同盟の商人達は、大金を持っているんだから金に糸目をつけずに広い土地を欲しがるはずだわ。そういう人達に高く売ろうと思ってるわけ。」


リアリティーのある話です。怪しげな先物取引とは違います。確実に儲かりそうな話です。


「で、話を先生の家の事に戻すけど、賃貸契約についてだけでも何とかしようと思って、先生の長女さんは司法省まで夫に会いに行ったんだって。なのに夫は逃げ回って会わなかったそうなの。長女さんは、面会室でずっと待ってたのによ。で、無神経な女共が『真実の愛の邪魔をして恥知らずな女ね。みっともないったらありゃしない』とか言ってクスクス笑ったんだって。結局長女さんは夫に会えずに泣きながら家に帰ったらしいわよ。」

「そんな詳しい内情誰に聞いたの?」

とメグが聞きます。


「バイルシュミット子爵家の娘よ。司法省で働いている。あそこの領地、南北東全部の領地に天然痘が出て、陸の孤島になってるからね。エーレンフロイト領からの食料援助が無くなったら秒で干上がるもの。聞いたら何でも調べて教えてくれたわよ。」

情報源は、トルデリーゼ令嬢ですか。なるほどだったらかなり信頼できそうな話です。


それにしても。聞けば聞くほど脳内が怒りで沸騰しそうな話です。


大変な時代だから、自由に生きたかった。って、そんな大変な時代に妊娠していて体調の悪い妻と四歳の幼子を捨てるなんて、あんまりです。

きちんと話し合い、慰謝料を渡し、というのならまだともかくとして、手紙一つで相手を捨て、話し合おうとする妻から逃げ回るなど鬼畜の所業ではありませんか!


私の夫は、伝染病で苦しむ人達が不幸にならないよう力を尽くして駆け回っています。


しかしその男は、人を不幸にしておいて、それを伝染病のせいにしているのです。到底許せる事ではありません。

人の不幸の上に築いた愛情は、そんなにまでも幸福ですか⁉︎と聞いてやりたいです。


私の恩師の娘の話でなくても、たとえ敵対する貴族家の令嬢の話だったとしても、そんな話を聞いたら妻の方に同情します。


というか、『心のままに生きる』という願いを叶えたのだから、思い残す事なく天然痘で死ね!と呪いをかけてやりたいです。


もしかしたら、伝染病が流行らなければ、その男もそこまで非道な事はしなかったかもしれません。

だとすれば、これもまた、失業や飢え、口減しや身売りなどと同じ、伝染病に関連した悲劇なのです。

そんな不幸な人達の全てを救う力は私にはありません。しかし、全員が救えないのだから、一人も救わないなどと考える気はありません。


幼かった私を助けてくれた恩師の家族なのです。


レベッカは、友人達を救う為に友人の家族達と戦い、ローテーブルが一つ戦死しました。

未成年の娘が、それほど力を尽くしたのに親である私が惰眠を貪っているなんて真似ができるでしょうか⁉︎


「私、オルヒデーエ先生の力になるわ!」

私はリエとメグにそう宣言しました。

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