黙学室にて(1)
以上にて、本日の授業終了。
と、言ってもまだ寄宿舎の自室には帰れない。これから、4時まで『黙学室』で、今日の授業の復習をするのだ。
『黙学室』と言ったって、誰一人として黙ってお勉強していない。それぞれ、友達グループに分かれてひたすらおしゃべりをしている。
だいたい、授業中ろくに勉強していないのだから、復習をしろと言われてもやりようがないだろう。
ちなみに、黙学室は女子寄宿舎の中にあるので、今この場には女子しかいない。弟のヨーゼフがいてくれたら、話し相手なってくれるんだろうけど、今現在、私はぼっちだ。
一番大きなグループは、エリザベート様のグループだ。ジークルーネもそのグループ内にいる。次に大きいのは、コンスタンツェ様のグループかな。ところでユリアの姿がないけれど、トイレにでも行っているのだろうか?
嗚呼、それにしても辛い1日だった。
正直私は、文子だった頃12年も学校に通ったのだから、学校くらいどうにかなるだろうと思っていた。
甘かった。
この学校を卒業できる自信が無い・・・。
家に帰りたい。それよりも、21世紀の日本へ帰りたい。
気持ちがどんどんと沈んできて、私は机に突っ伏した。適応障害になる日も近いかもしれない。
と、そこへ
「レベッカ様。」
と呼びかける声がした。
『様』付けで呼ばれるのが、今たまらなくウザい。この声の主がユリアだとわかってしまったからなおウザい。
とりあえず、作り笑いをして私は顔を上げた。廊下で何か運動でもしていたのか、ユリアの息が軽く乱れているような。
上気した顔で、手には紙の束を持っている。
「あ・・あああの。・・これ。」
そう言って、私に紙の束を差し出してくる。
「・・・。」
「良かったらどうぞ。」
「・・・?」
「今までの授業を書き留めた物です。ご覧になりたいと言っておられたので。」
「・・・!」
何と!私が、朝同級生達に言った言葉を覚えていて、ノートをどっかに(たぶん寄宿舎の自室に)取りに行っていたらしい。
何ていい娘さんなんだっ!お世辞にも愛想良く無い私なんかの為にわざわざそんな事を。まるで聖女のようだ。
「・・ありがとう。」
と言って私は紙の束を受け取った。この国では珍しい植物紙だ。それにびっしりと、綺麗な文字で整然とした文章が書かれている。
嬉しかった。
・・しかし、次の瞬間「げっ!」と思った。
この世界には、コピー機が無い!
どこのコンビニにも常備されていた、たった10円で時間と労力を代行してくれる夢の利機。
それの無い世界でこの紙の束。どうすればいいの・・・。
いや、どうしようもない。時間と労力を使って書き写すのみだ。
「ありがとう。急いで書き写すね。何日か、かかるかもだけど。」
「いえ、どうぞ。差し上げます。私、全部記憶していますから。」
何とっっっ!さすが、成績1位。恐るべき頭の良さだ。
そして、この優しさ。聖女を通り越して女神のようだ。
「ありがとう・・・。」
感動した。ものすごく嬉しかった。涙が出そうなくらい嬉しかった。