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新しい家族達(20)(アルベルティーナ視点)

食事のマナーを厳しく教え込んでいるレベッカでさえ苦労する料理です。あまり家で、カトラリーの使い方を練習して来なかった他の子達のマナーは散々なものでした。


ミレイは必死になってカトラリーを使っているのですが、うまく『身』がとれず、ガシャガシャと耳障りな音をたてています。コルネは早々に肉を食べるのを諦めたようで、付け合わせの焼きネギやニンジンのグラッセ、揚げ芋ばかり食べています。

不思議なのはリーシアです。ボリボリバリバリと何だか変な音がするのです。・・もしかして骨ごと食べてる?


他の子達より比較的マシなユリアも、中の詰め物に苦労しているようです。本日の詰め物は大麦と豆なのです。どちらもポロポロとしていて非常に食べにくい食材です。口元までフォークを運んだのに、結局ボロっと半分くらい落として青ざめています。


そしてレベッカも、聞き苦しい音をたててナイフとフォークを肉に突き立てていました。

「これ、手で持ってかぶりついたらダメ?」

「良いわけないでしょう!」

と私はレベッカを叱りつけました。


はー。と大きなため息をついて、レベッカが再び肉に力いっぱいナイフを入れます。その瞬間ウズラ肉はぴょーんと飛び跳ね、レベッカの隣に座ってたヘレンのリゾット皿に飛び込みました。リゾットが皿から飛び跳ね、周囲のテーブルクロスやヘレンの顔に飛び散りました。


「このウズラまだ生きてる!」

「馬鹿な事を言っているのではありません。ヘレンに謝りなさい!大丈夫、ヘレン?」

「・・はい。」


もうリゾットはだいぶ冷めているようで火傷はしなかったみたいです。

「済まぬ。」

と言いながら、レベッカがハンカチでヘレンの顔を拭いてあげていました。


「そんな食べ方をしていたら、ウズラがウズラの楽園に行けませんよ!」

と私はレベッカを叱りつけました。


「『ウズラの楽園』って何ですか?」

とエルヴァイラ夫人が聞かれました。「話せ」と私は、目でレベッカに合図します。手と口を同時には動かせないレベッカが、手を止めて話し始めました。


「人間に食べられる動物は、神様が人間の為にその身を尽くしたご褒美に、その動物だけで暮らす楽園に動物を連れて行ってあげて、その楽園で動物は永遠に幸せに暮らすんです。でも『これ嫌ーい』とか『お腹いっぱい』と言って食べ残された動物は、人間に尽くせなかったとみなされて、楽園に行けないんです。」


「まあ、何て感動的なお話でしょう!」

エルヴァイラ夫人が目を輝かせられました。私もこの話をレベッカから始めて聞いた時は驚きましたよ!


二年くらい前の事だったでしょうか?急にヨーゼフが

「動物を殺して食べるのは残酷だよ。僕もう、お肉食べない!」

と言い出したのです。


気持ちはわかりますが、成長期のヨーゼフにとって、お肉は大切な栄養素です。親として何と言ってやるべきか私も旦那様も悩みました。


そしたらレベッカが、今と同じ事を言ったのです。その時の食事で食卓に並んでいたのは七面鳥のお肉でした。

「ヨーゼフがそのお肉を食べ残したら、その七面鳥は七面鳥の楽園に行けないんだからね。」


そう言われるとヨーゼフは、バクバクバクッと七面鳥のローストを口の中に放り込みました。


「そのお話は、どなたから聞かれたのですか?」

とアルテ令嬢が尋ねられます。


「おじいちゃ・・様ですね。」

「おじい様・・って事は、お父様⁉︎」

とリエが言いました。


レベッカには祖父がいません。旦那様の父親も私の父親もレベッカが生まれる前に亡くなったからです。なのでレベッカが『おじいさま』と呼んでいた相手とは、年の離れた私の兄なのです。リエとメグにとっては父親です。


「まあ、お父様ったら私達にはそんな話、してくださった事なんかないのに。」

「やっぱり、レベッカは特別可愛がられていたのね。」

とリエとメグが言います。

そうだったのか。と私も思いました。てっきりレベッカが考えた作り話だと思っていました。

「ははは」と、なぜかレベッカは乾いた笑いを見せました。


レベッカの話を聞いて、コルネやミレイが再びウズラ肉の皿に挑戦を始めました。


ウズラはそんなに大きな鳥ではありません。大人達は皆ほとんど食べ終わっています。先生方は優雅にカトラリーを動かしながら子供達の様子を見ています。

大人達が上手にウズラ肉を食べているのは『年の功』。

ではありません。

実はちょっとしたカラクリがあるのです


このウズラのローストは『右半身』と『左半身』ではありません。『上半身』と『下半身』なのです。

そして、骨付きの鶏の唐揚げを食べた事がある人ならきっとわかると思いますが、トリ肉の食べにくいパーツとは、肋骨の周辺と手羽なのです。つまりトリ肉は下半身より上半身の方が圧倒的に食べにくい食べ物なのです。

そして、ウズラ肉を食べている子供は五人。大人も五人。私は子供達の皿に上半身をのせ、大人達の皿に下半身をのせたのです。


キシキシ!という皿とカトラリーがぶつかる音や、ビチャっとソースがはねる音をずっと聞いていると、私は気持ちが悪くなってきたので部屋を出る事にしました。

「ゾフィー。セナにデザートはプランBでと伝えてくれる?」

「かしこまりました。」


デザートも二種類用意していました。一つは、サクランボのミルフィーユです。

クラッカーのように薄いパイ生地にクリームと果物を挟むこの菓子は、ものすごく食べにくいのです。

しかし、この菓子を出すのはさすがに可哀想になりました。というより、これ以上駄目な面を見せると先生方に

「指導はとても無理です。」

と言われかねません。

なので、違う菓子を出す事にしました。サクランボジュースで作った寒天菓子です。これなら食べやすいでしょう。

でも一つだけ意地悪で、生のサクランボをトッピングする事にしましょう。

はて、あの子供達は。口の中に入れてしまった種はどうしたら良いのかマナーをちゃんと知っているかしら?口の中に残った種をどうしようかと、目を白黒させている子供達の事を想像すると、クスリと笑えてきました。

もうちょっと様子を見ておけば良かったかな。とちょっとだけ後悔しました。


動物の楽園の話をしてくれたのは、猟師をしている、文子の親友のおじいちゃんです。

でも、それを言うわけにはいかないので、何だか妙な態度をとってしまっています。

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