新しい家族達(19)(アルベルティーナ視点)
「大声をあげないでちょうだい。はしたない!」
心の中では「やったわ」と思っていた私でしたが、口ではそう言いました。
ちなみに昼食会に参加するのは、子供達六人、先生方三人、リエとメグ、モニカ夫人の養女で9歳のリゼラ嬢です。私はまだ、吐き気がひどくて肉料理は食べられません。なので、側で見学するだけです。後からゆっくり、ヨーゼフとメグの息子のルオと食べる予定です。
リゼラ嬢は、さっきの場にはおらず食堂からの合流となったのですが、ここで一つの事件がありました。リゼラ嬢は、少々小汚い何の動物かよくわからない動物のぬいぐるみを持っていたのですが、それを見たレベッカが
「わー、可愛い。」
と意味不明な事を言って
「ちょっと見せて。」
と言ってぬいぐるみに触ったのです。
すると
「嫌っ!」
と叫んで、リゼラ嬢はレベッカの手を振り払いました。
正直、失礼な子。と思いました。ぬいぐるみを見せるくらいいいじゃないですか?他の人に見せびらかす為に手に持っているのではないの?身分はともかくとして、レベッカの方が年上なのに。
その失礼な態度に一番怒ったのは、モニカ夫人でした。
「リゼラ!」
と鋭い声で怒鳴りつけます。リゼラ嬢が、真っ青になってうるうると目を潤ませました。モニカ夫人の大声に、リーシアやヘレンも真っ青になっています。
「レベッカ様に対して失礼でしょう。謝りなさい!」
「ご・・ごめんなさ・・・。」
「ううん、いいの。ごめんね。私が悪かった。」
レベッカは、リゼラ嬢の側にしゃがんで目線を合わせ何度も謝りました。
「大事なお友達だったんだよね。それなのに触られたくなんかなかったよね。許可もとらずに触ってごめんね。私が悪かった。」
我が子ながら、幼子には聖女のように優しい娘です。娘の今の姿を見たら、テリュース・フォン・デューリンガーなどは顎が外れるほど口をぽかんと開けて驚くのではないでしょうか?
「お・お母さんが、家を出て行く時くれたの。でも・・何回も何回も壊されたの。焼かれそうになった事もあるの。・・だから。」
ぽろぽろと泣きながらリゼラ嬢が言いました。リゼラ嬢の母親は他の男性と結婚する為、父親にリゼラ嬢を押し付けて出て行ったと聞いています。
「壊されたって誰に?」
「お兄さんや、妹や、お兄さんのお母さんに・・。」
「そうか。それは辛かったね。」
「うん・・。」
リゼラ嬢は、わああ!と泣き始めました。レベッカがリゼラ嬢を優しく抱きしめます。
周囲は感動のるつぼです。ユリアとコルネなど宗教画を見るような神聖な瞳で打ち震えています。
それは三人の先生方も同じですが。
勿論レベッカはわざとやっているわけではありません。でも、この状況でこの神対応って、要領が良すぎです!
元々、おまえが余計な事をしたから起きた騒動なのに!
やはり、プランAにして良かったと思いました。
今限りなく上昇しているレベッカの『株』を、ここで叩き落としておかないとこの子自身の為になりません。
私は、食堂に料理を運ばせました。
と言いましても、まだ胃腸の調子が本調子ではないヘレンは、干しエビと根菜の豆乳リゾットです。利き手にヒビを入れているので、左手で食べなくてはならず、時間がかかるしスプーンを落としたりもします。彼女のマナーは何も言わないで欲しいと先生方にお願いしておきました。つまり、他の子のマナーについてはガンガン言ってくれてかまわない。という意味です。
そして、まだ幼いリゼラ嬢には腸詰とオムレツを出しました。比較的食べやすい料理のはずです。
そして、残りの大人五人と子供五人は・・・。
「う・ううううぅっ!」
とレベッカがうめき声をあげました。
皿の上に乗っているのは、レベッカが最も苦手としている料理です。
『嫌い』なわけではありません。『苦手』なのです。
その料理とは
『ウズラのロースト』です。
小骨の多い魚や、エスカルゴもレベッカは苦手なのですが、断トツで苦手にしているのがウズラ、丸々一羽のローストです。
今日は、人数が多い事もあり半身にしましたが、ナイフとフォークを使って食べるうえでの難しさは変わりありません。
「何でこの料理なのー!」
「肉が手に入りにくくなってきているこの御時世、先生方に新鮮な肉料理を食べて頂きたいと思ったからです。」
「だったら、ニワトリの唐揚げとか、鴨のスープとか。」
「食べ物に文句をつけるのではありません!食事のマナーも重要な勉強です。美しくカトラリーを使いながら会話を楽しむ練習をしなさい!」
「煮込み料理ならまだしも、焼きで口と手を同時に動かすのは無理ー!」
でしょうね。煮込み料理なら簡単に骨から身が外れるけれど、ローストは外れませんからねえ。
何事にも、要領の良いこの子もこれには苦労するはずです。
そして実際、食事会はひどいものになりました。




