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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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エーレンフロイト邸へ(4)(テリュース視点)

僕達がドアの方を振り返ると、メイド服姿の中年の女性が立っていた。

そして、僕が誰かわかったのだろう。真っ青になって、「あ・・いえ、その・・」とモゴモゴ言い出した。


「ちょうど良かった。誰かに聞きたかったんです。この部屋は誰が使っているのですか?」

マルクがにっこりと微笑んで、メイドに尋ねた。


「だ・・誰も、使ってなどおりませんよ。」

「ご婦人。もう一度聞きます。誰が使っているのですか?どうか正直にお答えください。私達はデューリンガー伯爵の指示で調査をしています。そして調査している事について複数の方から既に話を聞いています。あなたの話が、他の人の言う内容と異なっていたらそれは、伯爵家を欺く行為だという事です。それがどういう事なのかわかりますよね。しかし、もし本当の事を私達に話してくれるなら、この家の人達がどんな末路を辿る事になろうとも、あなたの立場は保証して差し上げます。」


『末路』という物騒なフレーズにメイドの顔が蒼ざめた。

その後、メイドの視線がキョロキョロと動いた。しかし、一瞬後には打算的な光を瞳に浮かべた。メイドは媚びるような笑みを浮かべ話し始めた。

それは、聞いているだけで胸が悪くなるような、虐待と暴力の話だった。



エーレンフロイト家へ向かう馬車の中で、僕もマルクも無言だった。

僕はマレーネが好きだった。一人の女性として愛していた。

マレーネは無邪気で無垢で、優しくて涙脆い、そういう子なのだと思っていた。だけど、それは幻想だった。彼女は残酷で意地の悪い嘘つきで、自分が騙した相手を嘲笑うような女だった。

足元が崩れていくかのような気分だった。もう女性を信じる事などできない。とさえ思った。

大袈裟な言いようだと思われそうだが、世界が壊れたかのように思えたのだ。


馬車はエーレンフロイト邸に辿り着いた。

僕とマルクは、再びリーシアとエーレンフロイト姫君とリーリエ夫人とローテーブルを挟んで向かいあった。

マルクが制服と教科書を渡すと、リーシアは制服を嬉しそうにぎゅっと抱きしめた。更に、大切な物かもと思ったので持って来た木綿の服を見ると目に涙を浮かべた。でも僕は、もう女性の涙が信じられなかった。


「いつから、あの離れに住んでいたの?」

と僕は聞いた。


「お母様が家を出て行かれた直後からです。」

とリーシアは答えた。

アカデミーに入学する前からという事だ。


「あんな部屋に・・・。」

リーシアが、もっと早くそれを言ってくれたら。

そうしたら僕はこんなにもマレーネを好きにならなかったのに。そう思うと恨めしい気持ちになった。


「もっと早く僕に相談してくれたら良かったのに。」



バキイイイィッ!!!!


すごい音が室内に響き渡った。


エーレンフロイト姫君が握りこぶしをローテーブルに叩きつけ、ローテーブルに蜘蛛の巣状のヒビが入ったのだ。


「おまえを信用できない!帰れっ!」


憤怒の表情で、エーレンフロイト姫君はそう叫んだ。



わけがわからなかった。

何で年下の少女にこんな事を言われないとならないんだ?

僕は、リーシアに同情したのに?


そして、このローテーブル。どんな素材で出来ていたんだ?


「申し訳ありませんでしたぁっ!」

マルクが床に手をついて謝罪した。


しかし、エーレンフロイト姫君は眉を大きく釣り上げて

「帰れ!」

と言った。


「ううっ、うっ・・。」

リーシアが泣き出した。僕は腰を浮かしリーシアに近寄ろうとした。しかし、女性騎士が僕らの間に割って入った。


「お引き取りください。」

「・・・。」

「わたくし共に摘み出される前に。」

エーレンフロイト姫君もリーシアも、それぞれの表情で僕を睨んでいる。どうやら僕は彼女達の『逆鱗』に触れてしまったようだ。


「・・若。帰りましょう。」

マルクが絶望的な声でそう言った。



「う若あああぁぁっ!」

馬車に乗り込むやいなや、マルクは喉が裂けそうなほど叫んだ。興奮の余り声調が震えているらしい。一瞬『バカ』に聞こえた。

「あなたという方は、何て事を言われるのですかっ!」


「・・何がいけなかったって言うんだ?別に僕は。」

「あなたは何をしにエーレンフロイト邸に行かれたのですか?それは、リーシア様に謝罪する為だったのではなかったのですか⁉︎謝罪をする時に言い訳をするなど、言語道断です!あなたは、ああ言う事によって事実上、悪いのは虐待をしていたアルノー様とベロニカ夫人とマレーネ様。それに虐待を受けていたおまえ。僕は悪くない。知らなかったのだから関係無い。と言ったのです!」


「そんなつもりで言ったんじゃ・・。」

「なら、どういうつもりだったのですか⁉︎若は、ほんの一時間前、必死になって虐待の事実を告白してきたリーシア様に

『信じられないな』

と言ったのですよ。それなのに、どの口が

『もっと早く相談してくれたら良かったのに』

などと言うのですか!相談したって、どうせ信じなかったでしょう。今、若が信じておられるのは、エーレンフロイト姫君が若が気づくよう誘導し、私がそれに沿って駆け回ったからじゃないですか⁉︎

私が何もしなかったら若は、制服も教科書も手に入れられず、離れの確認にも行かず、ぼけーっとした顔で、『君が正しいのかどうか、彼女達に会ってもよくわからなかったよ』って言ってたでしょ。

人に何から何までお膳立てしてもらえなければ、右の物を左にも動かさない相手に、誰が何を相談するって言うのですか⁉︎

何もしないならせめて、普通に謝るくらいすれば良いのに、聞き苦しい言い訳などして、エーレンフロイト姫君を激怒させて・・。

いったいこれからどうされるおつもりなのですか?」


「・・どうって。」

「あなたが怒らせたエーレンフロイト姫君は、あなたより格上の侯爵家の令嬢なのですよ。そして、女性としての至尊の地位につかれるかもしれない方なんですよ。そうなった時デューリンガー家の当主であるあなたはどんな立場に置かれると思っているのですか。どうして、平身低頭して謝らなければ家を危機に追い込むという状況で、醜い言い訳なんかしたのですか⁉︎」

「家を危機に追い込むって、そんな・・、。」

「ハイドフェルト家は凋落したではないですか?リーシア様の身に起こった事がハイドフェルト令嬢に起こった事よりマシだと言えるのですか?鞭で打たれ閉じ込められて、餓死させられそうになる事は、鞭で打たれて斬り殺されそうになる事よりマシな事なのですか?

あなたが謝罪して、エーレンフロイト姫君とリーシア様が許してくれるかが、デューリンガー家の今後がどうなるかを決める重大な局面だったのにあなたという方はもう・・。」


「それならそうと先に言っておいてくれよ!」

「言われなければわからないのは、結局あなたが自分は悪くないと思っているからでしょう。自分に責任が無いと思っているからでしょう。むしろ、自分も被害者だと思っているからでしょう。あなたはご自分の貴族としての立ち位置も、人間の真実もわかっていない。本来何の責任も無く、何の関係も無いエーレンフロイト姫君があれほど真摯に行動しておられるのに。」

「・・・。」

「クビになさるというのならしてくださって構いませんよ。言いたい事は皆言いましたから。あなたは良い人です。悪人では無く善人です。だけどあまりに無思慮なのです。できる事ならいっそ悪人であって欲しかったです。そうだったら、あなたがエーレンフロイト姫君にどのような目に遭わされても、心が痛まずに済んだのに。」


正直、なぜここまで罵られなくてはならないんだ?と思う。だって本当に僕のせいではない。僕だって騙されていたんだ。

でも騙されていたとはいえ、リーシアにひどいセリフを今まで何度も言ってきたのは事実だ。

そして、僕は怒らせてはならない強大な力を持つ少女を怒らせてしまったのだ、という事はわかった。デューリンガー家は大変な事になるかもしれないと、じわじわと不安が迫って来た。

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