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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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新しい家族達(11)(アルベルティーナ視点)

手紙の行方(4)で初登場の、リーシアとエイラの話になります。

馬車からまず、レベッカが降りて来ました。ぐったりしている女の子を横抱きにして抱いている姿は、まるで英雄譚の主人公のようです。


それからユリアとコルネが降りて来て、その後ろからケバケバしい派手な茶会服を着た少女が、カレナとメイド服姿の少女に支えられて降りて来ました。

品の無い厚化粧のせいで一瞬わからなかったけれど、あれはリーシア嬢です!


「あの派手な子、誰?」

とリエが聞きます。

「・・下品なドレスだこと。」

とメグも言いました。


私も状況が分かりません。レベッカ達が屋敷内に入って来る音がしました。


「一旦、私の部屋へ行こう。ユリア。ゾフィーの許可をとって、客室を整えて。コルネ。厨房に行ってセナにヘレン様とリーシア様の為に消化の良い料理を作ってもらって。エイラさんの分も何かもらって来て。カレナ、ありがとう。お腹空いたでしょう。後は私に任せて昼ごはんを食べて来て。」


「ビルギット。カレナを呼んで来てちょうだい。何があったか知りたいわ。」

ビルギットが直ぐにカレナを呼んで来てくれました。


「かけてちょうだい。話が聞きたいわ。」

私は、自分の目の前にあったジンジャークッキーの皿をカレナに渡しました。カレナもお腹が空いていたら頭が回らない事でしょう。

しかし、カレナはクッキーに手をつけず


「奥様。お願いします。リーシア様とエイラさんをお助けください。お願いします!」

と言って頭を下げました。

「そうするかどうかを判断する為に話が聞きたいの。何があったの?」

カレナはぽつぽつと話し始めました。


リーシア嬢は普段は、屋敷の離れに住んでいます。離れと言っても、窓ガラスは割れているし、ドアは壊れて閉まらなくなっているようなぼろぼろの離れです。食事は料理人が用意してくれるのですが、いつもメイド達が盗み食いしてしまうのでリーシア嬢は食べられません。ベロニカ夫人はとってもケチで、自分達は良い物を食べるのに、使用人には黒パン一切れと茹でた豆をちょっとだけしか食べさせないのです。それでメイド達はいつもお腹を空かせているので、リーシア嬢の食事を盗んで食べてしまうのです。

だから、リーシア嬢とエイラはいつも、エイラの分のパンと豆を分けて食べていたそうです。


そんなリーシア嬢達の家に昨日、リーシア嬢の再従兄弟にあたるデューリンガー小伯爵が訪ねて来ました。

リーシア嬢の両親と義妹のマレーネ嬢。そしてリーシア嬢は茶会服を着て小伯爵のテリュース卿を迎えました。


こういう時必ず義母は、マレーネ嬢に質素だけど上品な服を着せ、リーシア嬢には派手で下品なドレスを着させます。四人は頭を下げてテリュース卿を出迎えました。


テリュース卿がお土産に持って来たお茶を飲みながら、テリュース卿とリーシア嬢の父親は当たり障りの無い話をしました。その後突然テリュース卿はこう言いました。


「このお茶は、珍しいお茶なんだ。どこ産の物かわかるかい?」


マレーネ嬢が答えました。

「今、東大陸には西大陸の船は入れないのでしょう?だったらきっと、南東諸島産の紅茶で一番高級だと言われているワート地方の紅茶よ。だってとっても良い香りがするもの!」

「マレーネは、物知りだね。とても勉強熱心ですごいなあ。」

テリュース卿は、溶けそうなほどデレデレな表情でマレーネ嬢を褒めました。


「リーシアはどう思う?」

と、とってつけたようにテリュース卿は聞きました。


「蘭の花のような香りがしますし、スモーキーフレーバーもわずかながら感じます。以前、エーレンフロイト様のお茶会で飲ませて頂いた『先』国の天藍山で採れるという、天藍茶の『夏摘み茶』(セカンドフラッシュ)と香りも水色もよく似ています。時期から考えて、天藍茶の『春摘み茶』(ファーストフラッシュ)、もしくは昨年の秋に採れた『秋摘み茶』(オータムナル)ではないでしょうか?」

「その通りだよ!すごいなリーシア。」

テリュース卿は興奮して叫びました。


「天藍茶のオータムナルを、南東諸島経由で運ばせたんだ。じゃあ、リーシア。どうして、これが『珍しいお茶』なのか知っているかい?」

「チャノキは、暖かい地方でなければ育たないのに、天藍山はかなり北の方にあるって聞きました。天藍山にある木が世界最北の木だ。ってベッキー様は言っておられました。」

「そうなんだよ。チャノキは今まで、北緯45度より北では育たないと言われていた。だけど、天藍山は北緯50度の場所にあるんだ。北緯45度以上の地で育つ、これは唯一の紅茶なんだよ!」


「すごいわ、お義姉様!」

とマレーネ嬢は言いました。

でも、その次の瞬間マレーネ嬢は悲しそうな顔をしてすすり泣き始めました。


「ごめんなさい。・・でもお義姉様が羨ましい。たくさん贅沢な物に触れて、いろんな珍しい経験ができて・・私は贅沢な物なんか見る事もできないから。」


何言ってんだ⁉︎

と側に控えていたエイラは思いました。

いつも派手な絹服を着て肉料理を食べて、甘いお菓子をふんだんに食べて、広くて豪華な部屋でたくさんのアクセサリーやら人形やらに囲まれて暮らしているのに⁉︎


リーシア嬢は雨漏りのする離れで、食事も満足に食べさせてもらえず、服は母親がいた頃に買ってもらった服を、継ぎ足し継ぎ足し、なんとかして着てるのに。だけど加工ももう限界で、見かねたエイラが古着屋で服を一枚買ってプレゼントしたのです。ペラペラな木綿の服なのに、リーシア嬢は「ありがとう。ありがとう!」と泣いて喜んだのです。


というか、「贅沢品なんか見た事ない」って失礼でしょ!今、贅沢な紅茶飲んでるでしょ!


でも、テリュース卿はマレーネ嬢の言葉の矛盾にも気づかずすっかりマレーネ嬢に同情ています。

「可哀想に、マレーネ。」

と言って

「リーシア。マレーネはこの家の正式な養女だ。君の妹なのだから、もう少し配慮してやったらどうなんだ。だいたい、どうして君だけがネックレスやブレスレットをつけていてマレーネはつけていないんだ?おかしいじゃないか?マレーネはネックレスを持っていないのか?」

「ううん。亡くなったお祖母様の形見のネックレスを持っているわ。今日もそれをつけようと思ったの。でも、お義姉様がつけたらダメだって・・・。」


そんな事一言も言ってませんよ!

ネックレスなんか百個くらい持っているくせに。持っていないのはリーシア様です。今つけている物は、ベロニカ夫人方自分のアクセサリーの中から派手なのを選んで無理矢理つけさせているんです!

と、エイラは叫びたくなりました。


「可哀想にマレーネ。ごめんね。お母様が何もしてあげられなくて。」

と言って、ベロニカ夫人まで泣き始めます。


「そんな事を言ったのか!リーシア、おまえは最低な娘だ!」

そんな事があるはずがないとわかっているのに、父親がわざとらしく怒ります。

デューリンガー家の将来の後継者を前に、家族三人が団結してリーシア嬢を貶め、悪女に仕立て上げているのです。

リーシア嬢はいつもの通りの、諦観の表情で目の前の光景を見ていました。


「おまえはもう下がっていろ!」

と父親はリーシア嬢に言い、リーシア嬢は離れに戻りました。

一緒に下がったエイラは

「ひど過ぎます!奥様も旦那様もマレーネ様も!」

と叫びました。

「私、小伯爵様に本当の事を叫ぶところでした!」

「そんな事をしたらダメよ。」

とリーシア嬢は優しく言いました。


「そんな事をしたら、あなたのお父さんや商会主様のご迷惑になるわ。」

エイラの父親は、デューリンガー家御用達の商会で働いているのです。


「それに言っても無駄よ。テリュース様は私の事を信じておられないから。」

「リーシア様。」

「でも、別に良いの。私もあの人の事信じていないから。」

リーシア嬢は、そう言って悲しそうに微笑みました。


「エイラがいてくれるから私は大丈夫よ。それにきっと、もう少しすればアカデミーが再開するわ。早くアカデミーに戻りたいわね。ベッキー様達にお会いしたいわね。大丈夫・・。私は大丈夫よ。」


そう言った時です。

離れのドアが開いて、本館の侍女長が現れました。


「奥様と旦那様がお呼びです。」

「・・・。」

「さっさとしなさい!奥様をお待たせしないで!」


リーシア嬢とエイラは本館へ行きました。リビングに入ると、父親とベロニカ夫人、マレーネ嬢が待ち構えていました。

そして音高く、マレーネ嬢がリーシア嬢の頬を平手打ちしました。


「よくも恥をかかせてくれたわね。リーシアの分際で!」

そう言って倒れ込んだリーシア嬢の髪を鷲掴みにして引っ張りました。

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