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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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新しい家族達(9)(アルベルティーナ視点)

私が書斎に入ったのは11時半。

そして、11時40分には、娘の手紙を持った使者がエーレンフロイト邸を出て行きました。

三通も手紙を書いたにしては、やけに時間が早いです。私が許可を出す前から、手紙を書き始めていたのかもしれません。

もしくは、ミミズが痙攣しているような汚い字で書きなぐったのか。そんな文字では、受け取った側も内容が読めないでしょうが、むしろ判別できない手紙の方が、無視される事なく確実に返答がもらえるかもしれません。


出かけて行ったのは三人の少女達と面識のある、ユーディット、カレナ、ドロテーアです。

少女達は三人共、第二貴族街に住んでいて、第二貴族街は我が家からは徒歩で20分ほどです。

第一貴族街は、中流貴族や歴史ある家門の邸宅がある地区ですが、第二貴族街は新興貴族の邸宅や、第一貴族街に館を持っている人のセカンドハウスとかがある地区です。第一貴族街に比べて歴史がありませんが、それゆえに地区全体が新しく美しい街並みになっています。


レベッカは、馬車で行くよう勧めたようですが、歩いて行くとちょうど良い運動になる。という事で三人は徒歩で出かけました。

途中のエリアに治安の悪い場所は無いので、レベッカも反対しなかったようです。


そして12時から私達は、昼食を食べ始めました。

今日は体調が良かったので、私はレベッカとヨーゼフ、リエとメグとメグの息子のルオ、そしてユリアとコルネと一緒に食事をとりました。飼い始めたアヒルやウズラがたくさん卵を産んでくれるので、卵料理がたくさん並んでいます。

食事が終わり、食後のお茶を飲んでいた頃、ユーディットが戻って来ました。

「お嬢様に至急、お伝えしたい事があります!お嬢様を呼んでください!」

ドアの外で、ドアを守っている騎士にそう叫んでいる声が聞こえました。


レベッカが

「お先に失礼します。」

と言って立ちあがろうとしました。しかし、私は座っていなさいと言いました。そして、私の護衛騎士であるビルギットに

「私も話を聞きます。ユーディットを呼んで来てちょうだい。」

と頼みました。


ビルギットが出て行きました。それとほぼ同時にユーディットの声がしました。

「申し訳ございません。奥様に今近づく事はできません。」

むっ!としました。私には話せないと言うのでしょうか⁉︎

だけど、続く言葉を聞いて納得しました。

「わたくしが手紙をお届けした、へレーネ様は胃腸炎を患っておられました。もしかしたら細菌性の空気感染する胃腸炎かもしれません。万が一の事を考えると、奥様のお側に近寄るわけには参りません。」


・・それは私も近寄られたくありません。


レベッカが無言で立ち上がり出て行こうとしました。ユリアとコルネ、そしてレベッカの後ろに控えていたアーベラがレベッカについて行きます。

「私にも聞こえる声で話して。」

と私が頼むと、レベッカは小さくうなずき、ダイニングを出て行った後、ドアを細く開けておいて話し始めました。


「ヘレン様の体調はどうなの?重症なの?」

「重篤です。」

「医者は何て言っているの⁉︎」

「医者にはかかってないんです!」

「今直ぐ、アードラー家に乗り込んでやるっ!」

「アードラー家からは連れ出しました。へレーネ様も『死ぬ前に、ベッキー様やユリア様やコルネ様に会いたい』と言われまして。」

「ヘレン様は今どこに?」

「特区門の、貴賓用控室です。へレーネ様を背負って連れ出したのですが、ずっと背負っていては通行人の注目を集めますし、へレーネ様のお身体の負担になります。それで、辻馬車を止めて乗り込みました。しかし、辻馬車は王城特区内には入れません。なので、特区門の前で降りて、門番にへレーネ様を預け私は走って戻って参りました。お嬢様、馬車で迎えに行って差し上げてください。それと、申し訳ありませんが、辻馬車代を・・・。」

「直ぐ行く!」

「レベッカ!エデラーか、フローラを連れて行きなさい!」

と私は叫びました。我が家の侍女が連れ出した子供が死んだら、死亡の責任を押しつけられるでしょう。絶対に死なせるわけにはいきません。

「私が呼んで参ります。お嬢様、少々お待ちください。」

とアーベラの言う声が聞こえてきました。


「胃腸炎になった原因は何なの?」

「昨日の夜食べたスープが、酸っぱかったような気がしたらしいのでそのせいかも、という事です。」

「他の家族や使用人に胃腸炎は出てないの?」

「はい。昨日、御父上が久しぶりに王城から戻って来られたらしく、そして御父上が戻って来た時はいつも、へレーネ様は離れから出てはならない。という事になっているのだそうでございます。それで、ずっと離れにいて。誰も食事を運んでは来てくれなかったそうなので、御父上が王城に戻った深夜、キッチンに忍び込んでスープをこっそり食べたそうです。そしたら・・。」

「昨日は蒸し暑かったですものね。」

と言う、ユリアの声が聞こえてきました。


「食べてから数時間経って、嘔吐が止まらなくなったそうです。朝までとにかく我慢していて、そしたら朝になって、いつまで寝ているつもりだ!朝の掃除はどうした⁉︎と、メイド頭が離れに怒鳴り込んで来て・・。」

「朝から掃除させられてんの?」

「へレーネ様は医者を呼んで欲しいと頼んだそうですが・・。」

「が?」

「メイド頭が、アードラー夫人を呼びに行って、そしたら夫人が「おまえにかけてやる医療費などありません。」と言ったそうで。なので、そのまま横になっていたそうですが・・・。わたくしが訪問した時、『あの小娘はあそこの離れにいるから会いたきゃ勝手に入りな。』とメイド頭に言われて、中に入るとへレーネ様は、もう意識が朦朧としていて、側の桶には血まみれの吐瀉物が・・・。」

ユーディットの声は最後は涙で震え、よく聞こえませんでした。


「一晩でそんなにも悪くなるだなんて・・・。」

そう言うコルネも涙声です。

「へレーネ様は、とても痩せておられましたわ。きっと、ずっと、満足に食事を食べさせてもらえなかったのだと思います。それに、腕が腫れ上がっていて、たぶん折れているみたいで、それもしばらく前から放置されていたみたいで。」

「どうして、折れたんですか⁉︎」

とユリアの声がしました。

「息も絶え絶えで、よく聞こえなかったのですが、どうやら弟君に踏まれたみたいで。」


「・・あの、クソガキ。」

ずっと黙っていたレベッカの声が聞こえました。母親の私でも、ゾクっとするほどの怒りと憎悪がこもった声でした。貴族令嬢らしからぬ汚い言葉ですが、叱ることもできないほどの怒りが宿っています。でも当然です。数える事しか会った事のない私でも怒りで目の前が真っ赤になるような話です。友人としてアカデミーで共に過ごして来た、レベッカの怒りはどれほどのものでしょう。


正直、私は妻であり母親でもある立場なのでセレウキア夫人の気持ちもわかります。

浮気性の夫を持ち、夫が他の女に生ませた子供を養育するのはどれほど辛い事でしょう。夫を盗んだ女とその子供など不幸になればいい。幸せに暮らしているなら、この手で不幸にしてやりたい。と思う気持ちも私はわかります。でも、まだ子供のレベッカにセレウキア夫人の気持ちはわからないでしょう。共感するのは、何の罪も無いのに虐げられる子供の苦しみだけです。


それを踏まえて考えても、ひどい話です。死にそうなほど体調の悪い人間を放置するのは、立派な殺人未遂です。それに夫人の酷薄さを考えると、ついうがった見方をしてしまいます。本当に、単なる胃腸炎なのでしょうか?スープを盗み食いするよう誘導し、そのスープに毒を仕込んだのではないでしょうか?

昨日夫と何かがあって、夫と養女に対する怒りが爆発したのかもしれませんし、夫や周囲の人間にへレーネ嬢の腕が折れている事がバレたくなくて、とか理由はいろいろとあり得ます。

だいたい、『踏まれて腕が折れる』って、どういう状況ですか⁉︎その時、へレーネ嬢は床に腕をついていた事になります。こかされていたのか、あるいは土下座でもさせられていたのか・・・。


どちらにしても、使用人はその時何をしていたのでしょう?誰も助けようとしなかったのでしょうか?我が家なら、私が娘に扇を投げつけようとしたら、すぐさまビルギットが身を挺して娘をかばったのに。


「エデラー医師を待ってられない。行く。後から来てと伝えて。」

と言ってレベッカが遠ざかって行く足音がしました。


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