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新しい家族達(5)(アルベルティーナ視点)

それから、数日が経ちました。


子供達には「あなた達が子供の名前を考える必要はない」と言ってあるのに、赤ちゃんの名前はあんな名前がいい、こんな名前はダメ!と考えるのがが止まらないみたいです。

レベッカもヨーゼフも浮かれた気分が抑えられないらしく、それが顔に出ていて、畑の手伝いに来たデリクやレントに

「お二人共、何かあったの?」

とコルネやユリアは聞かれたそうです。答えようがないので困ったと二人は言っていました。


本当に困った子供達だこと。

と思っていた私の元に、更に困った手紙が届きました。差出人は、芳花妃ステファニー様です。


娘のレベッカは、ステファニー様がお産みになったルートヴィッヒ王子と婚約をしています。つまり、後何年かしたら娘は王族になるのです。社交界には、美しく非の打ち所がない淑女がたくさんいますし、我が家より身分の高い姫君も多いので、私は正直何年かすれば、ルートヴィッヒ王子も現実を正しく認識して娘との婚約を破棄されるだろうと思っていました。


しかし、意外に義理堅い性格なのか、はたまた目か趣味が悪いのか、王子は婚約破棄をされる事なく今に至ってしまいました。

娘も今年で14歳です。本来なら未来の王族として、王宮に行儀見習いに入らなければならないような年齢です。

しかし、天然痘が流行して以来、王宮は新規の侍女の採用を控えています。

なので、王宮に出仕した経験のある貴婦人を家庭教師にして、王宮の礼儀作法を学んでみませんか?とステファニー様が提案されたのです。


『提案』と言っても、これは事実上命令です。国王陛下の寵愛が最も深い側妃であるステファニー様の指示に逆らえるはずがありません。

その事を私は理解していますし、納得もしています。

しかし、娘が納得するかどうか・・・。

そもそも娘は、礼儀作法とか刺繍とかピアノとかダンスとか、そういう貴族の令嬢に必須の教養を学ぶのが大嫌いなのです。

暇を持て余している身なら、渋々でもするでしょうが、今は野菜作りに夢中になっています。半月ほど前に、畑の拡張を許したので娘は土に即座に堆肥を混ぜ、つい数日前に種を蒔きました。そしたら、芽がすくすくと出てきたらしく娘達は大喜びしています。芽が出たのを発見するのは農業人にとって、収穫に次ぐ喜びです。テンションが天高く上がっている状態で、礼儀作法を勉強しろと言っても首を縦に振らないでしょう。


だからといって、話をしないわけにはいきません。

そして案の定、レベッカは猛反発しました。


「お母様!今がどんな時なのかわかっているんですか⁉︎恐ろしい伝染病が国の至る所に蔓延しているんですよ!その対策が急がれる時に、何が礼儀作法ですか⁉︎明日の命がどうなるかもわからない状況で、そんな事をやっている場合ですか?お母様が言っている事は、海のど真ん中で沈みかけている船の中で、マナーの勉強をしろと言っているようなものですよ。優先すべき事はそれじゃないでしょう!命を守る為に緊急感を持って行動しなければならない時にバカな事を言わないでください。それに、妊娠していて『種痘』を受けられないお母様がいるこの館に、他人を出入りさせたくありません!私は絶対、そんなくだらない事に時間なんか使いませんからね。もしも、教師達がこの家に押しかけて来たら、叩き出してやりますから!それで王室が文句を言ってくるというのなら、遠慮なく『婚約破棄してください』と言ってやってください!」


取り付く島もありません。


だけど正直言って。私も同じ気持ちなんです。

今ですか?今じゃないでしょう⁉︎

と思うのです。


エーレンフロイト領は、今伝染病と王都の権力者達からの攻撃で地獄を見ているのです。

それなのに、王都に残っている私達がのんきにダンスやお茶会の作法の勉強をしている場合でしょうか?

王族としての必須の教養と言われても、もしかしたら旦那様が王室の命令に逆らい反逆するかもしれないほど私達の領地は追い詰められているのです。もし反逆罪に問われたら、王族との婚約は当然白紙です。勉強が全く無意味になるだけでなく、家庭教師として来てくださる方の身にも危険が及ぶかもしれません。


どうしよう?

と私は頭を抱えました。

ゾフィーは私の横で、手紙と一緒に送られて来た家庭教師達の身上書を読んでいます。


「奥様大丈夫ですか?」

「正直、頭が痛いわ。」

「まあ、それはいけませんわ。どうか、お休みになっていてください。お嬢様は私が説得して参りますから。」

ゾフィーがそう言って、部屋を出て行きました。私はため息をつきました。


本当に、どうしたものかしら。

頭ごなしに命令してもレベッカが聞くと思えません。

『泣き落とし』をしてみようかしら?お腹が痛い、とか吐き気がするとか言って・・。


いえ、駄目です。それでは、義姉と同じになってしまいます。

それに『泣き落とし』はあまり効果がないのです。義姉もリヒトに、度々泣き落としを仕掛けていましたが、効果が無いばかりか、むしろ一層関係が拗れていました。義姉が泣き落としをすると決まって、リヒトは家出をしていたのです。もしも、旦那様がいないこの時に、またレベッカが家出をしたら大変な事になります。


私は身上書を手にとりました。

推薦されている方の人数は三人。


エルヴァイラ・フォン・ネーフェ夫人。

モニカ・フォン・リールクロイツ夫人。

アルテミーネ・フォン・ミレッカー令嬢。

です。


ネーフェ夫人は、私と同じ年齢の方のようです。驚いたのは、一男六女、七人のお子様がいらっしゃる事です。ご主人は国立大学、工学科で講師をしておられるとの事です。七人もお子様がおられるなんて、子育てが大変だろうと思いますが、未亡人になられた実の母親が同居しておられるようなので、きっと子育てを手伝ってくださっているのでしょう。一番下のお子様が二歳のようなので、子育てについてぜひ相談をしてみたいと思う方です。


リールクロイツ夫人もネーフェ夫人と同じ年のようです。ご主人は王都にあるリリエンタールホールの専属演出家なのだそうです。観劇が大好きなゾフィーが会うのを喜びそうな相手ですね。

夫人に子供はいないようですが、夫には複数の愛人と六人の子供がいて、その六人全員と養子縁組をしているようです。

ヒンガリーラントでは庶出の子供は立場が弱く、父親が貴族でも生みの母親が貴族であっても庶出子である限り、貴族とは認められず身分は平民となります。しかし、実父と正妻の養子になると貴族籍を手に入れる事ができるのです。正妻が養子縁組してくれるかどうかで愛人の子供は運命が全く変わります。しかし、夫の不義の子を自分の養子にする女性は多くはありません。

リールクロイツ夫人は相当に慈愛深い女性なのでしょう。愛人の一人は子供をリールクロイツ卿に押しつけて、違う男性と結婚したらしいので、その愛人が生んだ子供は手元に引き取り養育しているようです。私には、とても真似が出来ません。


ミレッカー令嬢は王宮の侍女だった人ではなく、宮廷画家だった方のようです。年齢はまだ20代前半ですが、宮廷画家になれる才能のある人は十歳になる前から王宮の工房に出入りしますので、年齢が離れていてもステファニー妃と親交があったのでしょう。

ただ四年前に、宮廷画家は辞職しておられます。亡くなった両親の代わりに育ててくれたお祖母様が病気になり、看病をする為故郷に戻ったそうです。そのお祖母様も二年前に亡くなられ、王都に戻って来て友人が経営をしているジュエリーショップで、ジュエリーデザイナーをしておられるとの事です。コルネが興味を持ちそうな方です。正直私も会ってみたいです。


私はまたため息をついて、身上書をテーブルの上に戻しました。

その時、ドアをノックする音がしました。

「奥様。体調はいかがですか?」

と言いつつゾフィーが入って来ました。さっき出て行ってまだ15分も経っていません。やはり、駄目だったか。と思いつつ

「大丈夫よ。」

と私は答えました。


「家庭教師の件ですが。」

「ええ。」

「お嬢様は三人とも受け入れる。とおっしゃいました。」


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