表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/560

一時限目

一時限目は、マナーの授業。


貴族社会のマナーについては、家にいた頃からさんざんお母様に教え込まれていたけれど、私はこれを覚えるのが超苦手だった。

覚える事が多すぎるんだもん!

同じ事でも、相手の性別、年齢、身分、ケンカした過去の有無とかで、内容変わってきたりするんだもん。


そりゃあ日本でも、エレベーターの中での上座と下座とか、上司に提出する書類の印鑑の角度とか、謎ルールはいっぱいあったけどさ。

こっちの世界でも、ほんとどーでもいいような細かいルールが多い。

先生がみんなの前で手本を見せてくれるけど、とてもじゃないが覚えきれない。心の底から、筆記用具とメモ帳とスマホで動画撮る機能がほしい。


「では、今やった事を同じ様にしてください。」

と、先生が言ったので、私ではない他の子が指名されるといいなーと思っていたのに


「では、最初にエーレンフロイト令嬢。」

と言われてしまった。


なぜ、私に当てる?私ならできると思ったのだろうか?

どう見てもできそうにないと、見りゃ分かるだろうに。


で。


もちろん、マナーを司る精霊が、いきなり体を乗っとって、手足を勝手に動かすというファンタジーな現象が起きるわけがないから、私は失敗した。ええ、それはもう見るも無惨なほど。


周囲の子供達は、呆れてクスクスと笑い出す。

という精神状態を遥かにぶっ超えてしまった様で、まるで見てはいけないものを見てしまったかの様に、表情は無我の境地だった。


「エーレンフロイト令嬢!貴女は、私がした事をちゃんと見ていたのですか‼︎」

と先生にはキレられた。


「・・・はあ、一応。」

「まず、『申し訳ありませんでした』と謝りなさい!」

「大変申し訳ありませんでした。」

と言って、私は頭を下げた。


どよっ‼︎


と、周囲に衝撃が走る。


どうした?私は何か地雷を踏んだのか?おじぎの角度がおかしかっただろうか⁉︎


「・・・・・。」

シュトラウス先生も、絶句なさっていらっしゃる。

辛い・・・。

穴があったら、熊の冬眠用のでもいいから入りたい。


「ユリアーナ・レーリヒ嬢。手本を見せてあげなさい。」

と、先生が言った。

ユリアは、一瞬怯えた様な表情をしたが、消え入りそうな声で

「・・・はい。」

と言って、一連の所作を行った。


完璧だった。


そして、とっても優雅。彼女の方が、よっぽど貴族の御令嬢の様だ。


誰もしなかったから、やらなかったけれど、心の中では拍手喝采。

『全私』がブラボーっ!と叫んでいた。


「素晴らしかったですよ。では、次に・・・。」

と、先生が他の子を指名する。ユリアが後ろに下がり、違う子が一人、前へ出た。

でもって、その子は私よりややマシ、な程度のダメっぷりだった。


ええ、正直に言います。嬉しかったです。私だけじゃなかった。仲間がいたって。

ユリアの時とは違う意味で喝采をあげてしまいました。心の中で。


「全くダメです!」

と、再び先生の激しい叱責がとぶ。


そして、その直後。

なんで、さっき私が謝ったら、皆の間に衝撃が走ったのか分かった。

失敗した子は、むすーっとブーたれてて謝んないんだわ。先生にどれだけ「申し訳なかった」と言えと言われてもだ。

どれだけ叱られても、聞こえないフリをする。ある意味、心がちょー強い子だ。


先生の方が先に諦めた様で、次に違う子が指名された。

そして、その子もダメダメだった。


先生が溜息をつき、口を開こうとした途端、その子は「わあっ!」と火がついた様に泣き出した。


「◯◯様、泣かないで!」

「泣いていないで、謝りなさい!」

「◯◯様が泣いたら、私も悲しい!」

「泣く前に、まずは自省を・・・。」

「えーん、えーん。」


泣いている少女、慰める友人、叱る教師。教室内はカオスだ。


仕方なく先生が、次の子を指名する。

そして、その子もさっぱりだった。

先生が叱ると。

「私はこういう風に、お母様が選んでくださったマナーの先生に教わったんです!」

と、逆ギレした。


いや、それはないって・・・。

社交の場でのマナーに統一基準がなかったら、そもそもマナーとして成り立たないじゃないか。


先生というのも大変だな。私だったら教師を辞めたくなるな。


しかし、失敗しても誰も「申し訳ありませんでした」って言わないから、そう言った私にみんな衝撃を受けたのか。

みんな、貴族としての誇りが邪魔するのかなあ?

でも、おかしいな?

私が、すぐ謝ったのは旧日本人だからってわけじゃないよ。

むしろ、孤児だった文子より、母親のいるレベッカの方がしょっちゅうお母様に叱られて、しょっちゅう謝らされているのだけど。



数少ない成功者と、おびただしい数の失敗者を出しながら、一時限目の授業は終了した。

学校は始まったばかりだというのに、なんか疲れた。

次の授業は歴史である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ