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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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畑作り(3)

翌日早速、私は農業科の学生さんと第二地区の別邸で面会した。

来てくれたのは二人。以前イチゴとキウイと生キャラメルをご馳走になった時会った学生さんで、男の人と女の人だった。

男性の名前はリーバイで女性の方の名前がニコールだった。


そして二人と話し始めて三分で、私の農業知識など、日本のお祭り会場の金魚すくいですくわれる金魚が泳ぐプールより浅いという事がわかった。

そもそも、農業をした事あると言っても、私がしていたのは八割収穫だ。後は田植えや畑の雑草とり、収穫した野菜の洗浄や袋詰めだった。土作りなんかした事なかった。


第二地区の別邸は、今は管理人夫婦しか住んでいない。五年前まではお母様の叔母様になるカロリーネ様が住んでいたのだが、高齢で体調を崩し、王都よりも暖かいブルーダーシュタットにある、医者や看護婦が常駐している、サ高ことサービス付き高齢者住宅に引っ越してしまった。その為庭は荒れ放題だ。管理人夫婦が草むしりをしてくれてはいたようだが、とてもではないが生えてくるスピードに追いつかない。

リーバイは一本雑草をむしってみて

「かなり深く根をはっていますね。これは馬にすき返させた方がいいでしょう。人力では根を掘りきれません。」

と言った。


「ただ、その前に土の成分を調べましょう。それによってどれくらいどんな肥料を撒くか、何の野菜を育てるかを決めましょう。」

「成分ですか?」

「ええ、土壌がどれくらい酸性よりかとかどんな栄養が足りていないかを調べるんです。元々どんな植物が生えていたのかわかりませんし、雑草の様子から見てだいぶ雑草に栄養を取られていると思います。それに、王都の土は基本酸性なのです。なのでその土壌を改良する為アルカリ性の物を撒きます。」


日本の江戸時代レベルの文明度の世界と思っていたが、『酸性』とか『アルカリ性』とか意外に科学的なんだな。とびっくりした。


それにしても、アルカリ性の物?

『アルカリ性の物』と言われて一番最初に思い出したのは、文子の頃に手作り石鹸を作るのに使った苛性ソーダだ。

まさか、アレを撒くわけじゃないよね。アレは法律で規制されている劇物で、その辺りに適当に捨ててはいけない物だった。


「アルカリ性の物って何ですか?」

「石灰です。」

とリーバイが言った。

そういえば、友達の家の倉庫に『苦土石灰』って書いてある袋があったような気がする。


「貝殻を焼いて灰にした物や草木灰を撒くんです。」

とニコールが教えてくれた。

「南海芋は酸性の土壌を好みますが、大抵の野菜は酸性の土壌では育ちません。野菜の成長の為に必要不可欠なんですよ。」

「鑑定をするのに三日ほど頂けますか?それから、育てる野菜に必要な量の石灰を撒きましょう。姫様は、どんな野菜を育ててみたいという希望がありますか?」

「レタスとキャベツとコマツナです。あと、南海芋。」

と言うと、リーバイとニコールは顔を見合わせた。


「・・・。」

「どうか、おっしゃりたい事があったらはっきり言ってください。こちらは教えを乞うている立場です。調子の良い事を言われて大失敗するよりも確実に成功したいと思っております。どうかお知恵をお貸しください。」

と、私の後ろにいたアーベラが口を挟んだ。


「わかりました。あの、ところで、どうして姫様はレタスやコマツナが作りたいのでしょうか?何か理由があるのでしょうか?特別お好きだとか?」

とリーバイが聞いた。

「都市封鎖が行われると生鮮野菜、特に葉物野菜が手に入らなくなりますよね。だからです。」

「なるほど。・・しかし、農業初心者には葉物野菜は難しいかと思います。勿論自分の食べたい物を作るというのが当然なのですが・・でも、都市封鎖後の食糧対策でしたら、芋とかカブとかニンジンなどの根菜が良いのではと思います。」

「根菜は日持ちするから、都市封鎖された後も手に入りますよね。」

「それはそうですが・・。」


「無理なら無理とはっきり言ってください。お嬢様は奥様に、最初に植えた野菜が無事収穫までいかなかったら畑作りは禁止すると言われています。ですから、成功するかどうかはわからないけれどとりあえずやってみよう。ではなく、確実に成功する野菜を一番初めに作る必要があるのです。」

とアーベラが言った。


そしたらリーバイとニコールは声を揃えて

「葉物野菜は無理です。」

と言った。

「絶対成功したいなら根菜です。」

とリーバイ。

「葉物野菜は虫がついて結局食べ尽くされる可能性が高いです。根菜も虫はつきますが、葉物野菜は根菜の比ではありません」

「その中でも特にレタスやコマツナは虫がつきやすいのです。苦味のあるほうれん草や辛味のあるネギは虫も幾分避けて通りますが、人間にとってクセがなくて食べやすい野菜は虫にとっても食べやすいのです。」

とニコールも言った。


「でも、家でもアカデミーでも普通にレタスやキャベツを食べてますよ。どこかで誰かが作っているからなんでしょう?」

と私は聞いた。


「その人達は、タバコの葉などから抽出した殺虫剤を定期的に撒いているのです。」

とリーバイは言った。

「ですが、それらの薬剤は人にとっても猛毒です。姫様が使用する事は絶対に勧められません。タバコの葉から抽出したニコチンは、スコップや鎌で僅かに出来た傷に少量付着しただけでも死に至ります。知識と経験が無ければ使いこなす事はとても出来ません。」


まあ、地球の農薬もそうだったよね。特にニコチンは猛毒過ぎて、ミステリー小説にはよく出てくる毒物だった。探偵を含めた数人でお茶を飲んだ後、殺したい相手の傷口にニコチン入りの消毒薬を塗って手当てをし、死んだ後でその人のカップにこっそりニコチンを入れるってミステリーを読んだ事がある。


「そんな危険な薬剤、絶対触っては駄目です。アブラムシは手で殺しましょう。」

とアーベラに言われた。


「レタスやキャベツがお食べになりたければ、大学で作っている物をお譲りします。エーレンフロイト家で消費する分くらいは十分お分けできますわ。」

とニコールが言った。


「・・・わかった。じゃあ、何の野菜がおすすめですか?」

「芋です。」

と即答された。

「はあ。」

「芋はお嫌いですか?」

「いえ、好きですけど。ただレタスやキャベツが無理ならせめて生で食べられるトマトを、って思ったんですけど、でも確か芋とトマトって隣同士に植えたらダメなんですよね。」

「その通りです。よくご存知でしたね。芋とトマトは共にナス科の植物で、同じような病気や害虫に襲われるので並べて植えてはいけません。その中でも特に芋とトマトは相性最悪と言われているのです。」

「生野菜がお好きならキュウリを植えたら良いのではないですか?お嬢様、キュウリが好きと言っておられましたよね。」

とユーディットに言われた。

確かにそう言った。第145話の『平均かそれ以上』で。


ちなみに、今私の側には護衛のアーベラ以外にユリアとコルネ。そしてそれぞれの侍女ユーディット、カレナ、ドロテーアもいるのだ。


ニコールが残念そうに首を振った。

「ナス科の植物とウリ科の植物は相性が悪いのです。芋やトマトの側にキュウリを植える事は勧められません。」

そうなの!

文子だった頃、児童養護施設の庭でミニトマトとゴーヤを並べて植えていたのだけど、農家の友達の家ほど実がならなかったのは、そのせいだったのか⁉︎


「他に一緒に植えてはいけない野菜はどんな物があるのですか?」

と、ユリアが聞いた。

「ピーマンですね。ナス科の植物と並べて植えると栄養の取り合いになってお互いの発育が悪くなります。」

リーバイのそのセリフを聞いて、ユリアとコルネが露骨にほっとした表情を浮かべた。君達。さては、ピーマンが嫌いだな。


「セリ科のニンジンや、アブラナ科のカブは隣に植えても大丈夫ですよ。」

そう言ってリーバイは根菜を熱く勧めてくる。

「緑のお野菜が食べたければネギはいかがでしょう。ユリ科なので問題ありません。ただ、ヒガンバナ科の野菜は連作障害を起こすので、ネギの後には植えられませんが。」

ニコールがそう勧めてきた。

「ヒガンバナ科ですか?それってどーゆーのですか?」

ヒガンバナは毒草だ。そんな科の植物を植えるのは怖い気がするのだけど・・・。


「最も有名なのはタマネギです。あとは、ニンニク、ニラ、エシャロットなどですね。」

普通の野菜だった。しかし、どれもクセが強い。


「でも、ネギは一緒に植えたらいけない野菜が多いぞ。レタスは、まあともかくとして、インゲン豆とか大豆とか。」

とリーバイがニコールにささやいたのを私は聞き逃さなかった。


大豆!

って事は枝豆!


いいじゃないか。そういう野菜が存在する事を忘れていた。

枝豆の状態の時は塩茹でにして、大豆になったら豆乳を作る。それに大豆からは油も搾れたはずだ。

大豆いいかも。と思っていたが


「馬鹿ね。貴族のお姫様が大豆なんか食べるわけがないでしょう。」

とニコールがリーバイに言った。それは偏見だ!


「一緒に植えたら良い影響のある野菜もありますよね。」

とアーベラが聞いた。


「はい、トマトとバジルや、ナスとパセリなどがあります。そういえば、南海芋と落花生もとても相性が良いのだそうですよ。南海諸島から取り寄せた本にそう書いてありました。」

とニコールが言った。


「え⁉︎落花生って・・・。」

もしかしてピーナッツ?


アーモンドやヘーゼル、胡桃は食べた事あるけどピーナッツをこちらの世界で食べた事ない!こっちの世界にもあったの?


「見た目は豆のようですが、味はアーモンドみたいでとても栄養があるんです。農学科で育てていますがおいしいですよ。」

とニコールに言われた。私は即答した。

「植えます。落花生!」


ピーナッツがとれたら、ピーナッツクリームとか作れるかも!

高校生の時調理実習で作ったけれど、あの時はフードプロセッサーで作ったんだよね。すり鉢とすりこぎで作れるかな?と思うけれど、やるしかない。ピーナッツクリーム食べたい!


農学科生から生の声を聞いて良かった。でなきゃピーナッツが存在する事を知らないままだった。

話を聞け。と言ってくれたアーベラには感謝だ。


話し合いの結果として、『ジャガイモ』『ニンジン』『ネギ』『落花生』『南海芋サツマイモ』の五種類をその並びで作る事にした。


大豆は今回は見合わせた。南海芋の芋づる以外に緑のモノが欲しかったからネギを植えたかったし、今はまだ四月だ。ネギを収穫した後の畑に植えても十分夏に枝豆は間に合うと思う。テレビの情報だが、枝豆には体を冷やす効果があり夏に火照りやすい体質の人が食べると体に良いらしい。その情報を固く信じ、更年期障害気味の児童養護施設施設長は、真夏に毎日枝豆を食べると言っていた。一緒にビールを飲んでいたらしいので、効果があったかどうかはよくわからなかったらしいが・・・。


「ネギは直播きと、苗を別な場所で育ててから植える方法とがあるはずですよ。どちらにされるのですか?」

とアーベラに聞かれた。

「そうなの?」

「はい。ニンジンやカブなどの根菜は植え替えると根割れを起こすので直播き一択ですが。」

「そうなんだー。やっぱ直播きかなあ。その方が途中で『間引き菜』をいっぱい食べられそう。よく育っているのを畑に残してさ。植え替えるとかちょっとめんどくさいし。」

「お嬢様。直播きしたネギは途中で植え替え必須の野菜ですよ。ある程度育った苗を植え替えるのなら必要ありませんが。」

「そうなの⁉︎」


私は、グルン!と振り返って質問した。

質問した相手は勿論、農学科の二人だ。


「騎士様のおっしゃる通りです。」

「騎士様お詳しいですね。」


うぅっ!

自分では『出来る子』のつもりだったのに、はっきり言って全然だ。知識量でアーベラに、全然敵わない。

しょぼぼん。と私は肩を落とした。


「ニンジンや芋で、この品種を作ってみたいというのはありますか?」

とニコールに聞かれたが、それも答えられない。だって、『男爵』とか『キタアカリ』とか『インカの目覚め』ってネーミングじゃないよね!きっと。

代わりに答えてくれたのはやっぱりアーベラだ。


「味とか見た目などどうでも良いです。病害虫に一番強いのにしてください。」

「承知しました。」

「アーベラ。頼りになるなあ。今までで一番頼りになるよ。」

「シュテルンベルク邸で、連続殺人鬼と対峙していた時よりも今なのですかっ⁉︎」


そんなこんなで、順調に畑作りの話は進んでいった。


「これからも、いろいろ助けてくださいますか?」

「ええ、喜んで。」

「じゃあ、一番大切な話を。」

と言って私は質問した。

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