文子の頃の思い出
皆さんは『貴族のお嬢様』と聞いたら、どんな髪型を連想しますか?
骨董的価値があるくらい、昔の少女マンガに出てくる感じの、ドリルのような縦ロールでしょうか?
結論から申し上げますと、そんな髪型のお嬢様はいません。
ツチノコと同様、人々の空想の中にだけ存在するファンタジーです。
なぜかというと、今わたくしが生存しているこの貴族社会には、ドライヤーもヘアアイロンもスタイリング剤もパーマ液も無いからです。
実は、文子時代の知り合いにいました。髪が縦ロールの知人が。
別に、上級国民でも、夜の街勤務の人でもありません。普通の庶民でした。
とゆーか、バイト先だった熱帯魚ショップで、バイトリーダーをしていた人でした。
その人は、マンガの様な縦ロールで出勤してくる為にまず。
① 美容院で、縦ロールになる様パーマをかけ
② 寝る前に、ヘアケア商品を塗りたくってカーラーを巻き
③ 朝起きて、スタイリング剤を塗りまくって、ヘアアイロンで固定。
④ それが1日中持つ様に、ヘアスプレーをぶちまく。
という事をしていました。そこまでしないと、髪型が決まらないんです。どれか一個でもうっかりさぼったら、ただのうねうねヘアになっちゃうんです。
私には真似できねー、って思ってました。
そんな事をするくらいなら、1秒でも長く寝てたいもん。
なので、この世界には縦ロールヘアの美少女はいないのだ!
パーティーとかでは、髪結いの人に頼んで髪を巻いてもらう人もいるらしいけどさ。そういう人達って、ガチのヘアアイロン、つまり、超高温の金属の棒とかで髪を巻いて型をつけるらしい。
それを、学校へ行く為だけに毎朝やる子供はいない。もしもいたら、多分1週間ほどでキューティクルがボロボロになって髪が死ぬだろう。
じゃあ、皆さん、どういうヘアスタイルなのかというと。
一番多い髪型。それは、三つ編みです。
さっきも言ったけれど、この世界にはドライヤーやヘアアイロンが無い。
美容院でストレートパーマをかけたりもできない。
だから朝起きて、寝癖がついていてもそれを直すのはほぼ不可能。髪を濡らして、櫛ですく以外どーしよーもないのだが、真冬にがっつり濡らして、乾いていないまま部屋の外に出ると風邪をひいてしまうので、ちょちょっと水を振りまくくらいしかできないのだ。
そんな残念な髪を、どうにかするには三つ編みこそが無双!
ドライヤーが無い時代の外国のドラマで、子供が三つ編み、大人が引っ詰め髪にしているのは合理的な事だったんだなと、最近になって気がついた。
そう。美容法だの基礎化粧だのが、未成熟な社会においては素材の良さ・・というより丈夫さが、美醜をはっきり分けるのである。
そんな中、私はある意味髪だけは丈夫だった。
21世紀の日本の物と比べると、B級感がただようシャンプーとリンスしかないけれど、髪はそこそこ艶があるし、洗った後濡れたまま放置していてもフケもわかないし、それに寝癖とは全く縁の無い、乾麺の様にコシのあるストレートヘア。
だから私は、髪をハーフアップにしているのだけど、今ここにいる女の子達の半分が左右に分けての三つ編み。4割が後ろに1つにまとめての三つ編みにしている。その違いは毛量が関係しているようである。
正直、太平洋戦争中の女学生みたいなダッサい髪型だ。
そして、恐るべきことにユリアは、そんな髪型をしていてもすっごい可愛いんだよな。
蜂蜜色の髪も真珠のような肌も、宇宙から見た地球のように青い目も、キラキラしていて、さすが王族の恋人候補になる人は、世の有象無象とは違うと、感心してしまう。
ところで。ここまで読んでくださった方は、美男美女ばかり出てくる世界だなあ、と思っておられるかもしれませんが、決してそんな事はありません。
普通の人、及び普通以下の人もたくさんいます。
一番多いのは、歯並びが残念な人です。歯列矯正不可能な世界なので。インプラントとかも無いので。
先程も言ったように、ほんと生まれ持った運と丈夫さが美しさに直結するのです。
長々とすみません。話を戻します。
まず一時限目は、マナーの授業です。