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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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森の影(5)(ルートヴィッヒ視点)

「別に良いけど。」

「ありがとうございます。では。」

と言って、黒いローブの中からグラウハーゼは、黒ウサギと白ウサギのパペット人形を取り出した。そういう物を、標準装備しているのかっ⁉︎


パペット人形を右手と左手にはめ、グラウハーゼはしゃべりだした。器用に男の声と女性の声を使い分けている。どうやら黒ウサギがフィルで、白ウサギがユリアーナ・レーリヒらしい。


『そのお気持ちよくわかります。私も同じように思う事がありますから。ユリアーナ、という名前は、私を産んだ時に亡くなったお母様と同じ名前なんです。お父様も伯母様も、私の名を呼ぶ度にお母様の事を思い出しているのだろうと感じるのです。』

『そうなのか。それは・・悲しいな。』

『ええ・・・。悲しいです。』

『君はなぜ、僕に声をかけたのだ?僕がレベッカ姫にした事は知っているのだろう?』

『アーレントミュラー様が何かの罪に問われたわけではありませんわ。』


正直、僕は何を見せられているのだ?と思った。夜中にパペット人形の人形劇を自分の部屋で見ている姿を、母や妹には絶対見られたくないと思った。それに・・。

「レベッカ姫も側にいるのか?」

「エーレンフロイト姫君は、他の人達にレモネードを配る為、離れられました。」


人形劇に対する興味が10分の1減した。


『レベッカ様は私にとって、とてもとても大切な方なんです。レベッカ様は、私が一人ぼっちで寂しくて寂しくて堪らなかった時、側で寄り添ってくださいました。もしかしたら、アーレントミュラー様も同じように第二王子殿下の事を大切に思っておられるのかなって、思ったんです。申し訳ありません。』

『どうして謝るんだい。その通りだよ。だから、エーレンフロイト姫君の事が受け入れられなかった。彼女にルーイを取られてしまったようで。』

『わかります。私も王子殿下がレベッカ様の周囲をうろちょろするとイラっとするんです。権力を振りかざしてレベッカ様を私から奪おうとするなんて。』


振りかざしてないだろ!不敬罪だぞ、あの女!そもそも「私から奪おうとするなんて」って、レベッカ姫はお前のもんではないだろうが!


『僕にとってのルーイも同じだ。僕も一人で寂しかった。父は母にしか関心がないし、母は人間に関心がない人だから。本当は母は結婚なんかしたくなかったのだと思う。でも、僕が出来たから仕方なく結婚したんだ。両親が結婚したのは8月で、僕が生まれたのは次の年の3月だ。僕は両親の結婚から7ヶ月ほどで生まれてきたんだ。子供は俗に十月十日で生まれてくるって言うだろう。実際は計算の起点などの問題で9ヶ月母親のお腹の中にいるかいないからしいけどね。つまり、僕は両親が結婚する前に出来た子供というわけだ。そして子供が出来たから仕方なく母は結婚をしたのさ。」


そうだったのか。でも、それはフィルが責任を感じる事ではないと思う。両親がそーゆう事をしたからそーゆう結果になったというだけの事だ。

むしろモヤっとするのは、幼馴染の僕にではなく、ほぼほぼ初対面のユリアーナ・レーリヒに明け透けに心情を吐露している事だ。

なぜなんだ?

さっき、僕の事を大切に思っていると言ってくれたはずだよな?

なぜ、僕にはそういう話をしなかったんだ?


相手がユリアーナ・レーリヒだと思うと尚更モヤっとする。


『僕が生まれて来なければ、母は公爵夫人になることもなく、社交界のつまらない雑事に煩わされる事はなかった。数学研究にもっと没頭出来たはずだ。数学界にとっては悲劇だろうな。』

『誰かがそうおっしゃったのですか?公爵夫人が結婚された事は数学界の悲劇だ。公爵夫人が可哀想だ。と?』

『・・少ししゃべり過ぎてしまった。エーレンフロイト姫君の手伝いをして来たらどうだ?大切な姫君に他の子供達がむしゃぶりついているよ。僕ももう帰ろう。』


「以上でございます。」

と言って、パペット人形達は気取った礼をする。別に拍手する気にはならなかった。


「その後は家へ戻られ、また部屋に閉じこもられました。」

「両親から暴力を受けたりとはなかったんだな。」

「ご両親共に、三日の間一度も顔さえ合わせられませんでした。アーレントミュラー公子に不自然な怪我などもございませんでした。」

「そうか。」

「調査は延長なさいますか?」

「・・もう一週間ほど調べてくれ。」


レベッカ姫の野菜の無料配布に参加したというなら、レベッカ姫からお礼状とか届くかもしれない。そして、それをきっかけに文通とか始めるかもしれない。野菜畑で他の野菜が実ったら、その無料配布にも参加しないかとレベッカ姫やユリアーナに誘われるかもしれない。


断じて。そう断じて、レベッカ姫の側をうろちょろするかもしれないフィルに嫉妬しているわけではない!

ただ、フィルとレベッカ姫がまたケンカとかしたらいけないよな。と心配しているだけだ。

それに、フィルの事を調べていたらまた何かレベッカ姫の情報が手に入るかもだし。


「承知致しました。では、一週間後の夜九時。報告にあがります。」

そう言ってグラウハーゼは出て言った。普通にドアから。なんかあーゆー職業の人って、煙のようにかき消えるのかと思っていたが、そんな事あるわけないよな。むしろ、かき消えられたら不気味というものだ。


まあ、とりあえずフィルは元気なようだ。

それを嬉しいと思っているのか寂しいと感じているのか?自分の気持ちがよくわからなかった。


僕の祖父に当たる先代の国王には息子が五人いた。他にも何人かいたようだが幼い時に死んでしまったらしい。


僕の父も僕と同じ第二王子で、第一王子と後継者の座を巡って争っていた。

そしてフィルの父であるアーレントミュラー公爵は第五王子だった。母親は正式な妃ではなく、第一王子の母親である第二妃の侍女だった。だから、彼は第一王子派の王子という風に見なされていた。

ちなみに第三王子は『第二王子派』第四王子は『第一王子派』だったらしい。


だが第五王子だったフェルディナンド叔父上は、第二妃から冷遇されていた。第二妃は夫を寝とった侍女の事を憎み、その子供であるフェルディナンド叔父上に辛く当たった。第一王子もフェルディナンド叔父上を弟とは扱わず、自分の家来のように扱っていたそうだ。


フェルディナンド叔父上は、第一王子の側にいたのでは自分に未来が無い事がわかっていた。彼は『駒』であり、しかも捨て駒だった。

第一王子が権力の頂点を掴んだとしても感謝される事はなく、むしろ粛正の対象にされるだろう。

なので、フェルディナンド叔父上は秘密裏に第二王子である父上に近いた。そして間諜として、第二妃と第一王子の情報を流し続けた。


結局、第一王子は伝染病に感染して死んだ。なので不戦勝で父上が王太子の地位についた。

父はフェルディナンド叔父上を重用し、自分が国王になると叔父上に公爵位を授けた。『公爵位』を手にした弟は一人だけだった。

第三王子は狩りの最中に雨に濡れ、それが原因で肺炎になり若死にした。第一王子派だった第四王子は、外国の公女と結婚しその国に移り住んだ。その地で病になり既に死亡したと聞いている。


第二妃と第二妃派の貴族達は、裏切り者であるフェルディナンド叔父上を憎んだ。

そしてディッセンドルフ公爵を始めとする王妃派貴族もフェルディナンド叔父上を「一度裏切った者は何度でも裏切る」と言って邪険にした。


だが、フェルディナンド叔父上に他にどのような生き方が選べたというのだろうか?

王子として生まれなければ、公爵家や侯爵家に生まれていればしなくても良い生き方だった。あるいは、第二妃の侍女ではなく他の妃を母として生まれていれば。


フェルディナンド叔父上は、今のフィルよりずっと幼い頃から、風を読み空気を読み、他人の顔色を窺い、嘘をつき作り笑いをして懸命に生きていた。頼れる母もなく、母方の親族もなく、ただ生き残る為に生きてきた。

そんな風に生きてきて、そして今もそうして生きている叔父上にとって、無思慮に無分別に行動する息子は危険な存在であり憎悪の対象だろう。

クレマチスの塔の中で叔父上が、フィルを殴ったという話は僕も聞いている。反逆罪を疑われ国王に目をつけられる、などという事は叔父上にとって最も恐ろしく、最も起きてはならない事だったはずだ。


ただ、その後叔父夫婦はフィルを勘当したり、修道院に送り込んだりもせずただ館の中で軟禁状態にしている。

光輝会員の中には、実際に勘当されて家門と縁を切られたり修道院に送られた者が何人もいる。だが、叔父はフィルに対してそうしなかった。

その為司法大臣などは「対応が甘い。もっと厳しく当たるべきではないのか?廃嫡しないのは、息子に王位を継がせたいという野心があるからではないのか?」などと言っているらしい。

フィルは一応『無罪』になったのにだ。

「おまえが口を出す事ではない!」

と言ってやりたい。


僕達がまた、昔のような関係に戻れる日が来るのだろうか?

ぼんやりと僕はそう考えていた。

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