森の影(3)(ルートヴィッヒ視点)
グラウハーゼ。『灰色ウサギ』という意味だ。
『灰鷹』とか『灰狐』というメンバーもいたりするのだろうか?それとも『ユキウサギ』とか『パンダウサギ』という名前だったりするのだろうか?
「彼をおまえにつけよう。何でも調べてもらうと良い。彼のもたらす情報は信頼して大丈夫だ。」
「・・ありがとうございます。」
「ふふ、まあそんなに深刻に考えるな。第一王子にも一人ついているし、クラウスにもつけるつもりだ。私が父に『森影』を紹介されたのは18歳の時だった。まだ、おまえは17歳。クラウスは16歳だが、今は国家の非常の時だ。少し早いがつける事にした。」
クラウスは僕の異母弟だ。弟と言っても半年しか年は違わない。母親は夏の離宮に住む『蛍野妃』テオドーラ妃だ。
「何を調べてもかまわないぞ。ちなみにおまえの兄は一番最初に、別れた女の現在の恋人について調べたそうだ。」
・・まだ、あの人妻に未練があるんかい!と呆れてしまった。
第一王子である兄は人妻の女優と不倫していたが、その女が更に新しい恋人と浮気をしたので別れたのだ。兄の周囲は一安心したようだが、兄はまだその女に未練があるらしい。その執念深さに感心してしまった。
というか、何を調べさせるかは父に筒抜けなのか。となると、かなり慎重にならねばならない。
何を調べるか?グラウハーゼをどう使うかによって、僕に『国王』になれる資質があるかどうかを、父は確認しようとしているのだ。
王太子の地位が近づくか遠のくのか。これは重要な試験なのだ。
「よろしく頼む。」
と僕はグラウハーゼに言った。
「二人で話しなさい。」
と言って父は部屋を出て行った。
「何かお調べになりたい事がございますか?私も人間ですので、全てを調べられるわけではありません。しかし、力は尽くさせて頂きます。」
とグラウハーゼは言った。声からして、まだ20代くらいだろうか。
一瞬
「レベッカ姫の近況。」
と言いそうになってしまった。いや、しかしそれを言ったらなんか変態っぽい感じがする。
もっとこう、未来の国王に相応しいすごい情報を!
・・・思いつかん。
「無いようでしたら、私は下がらせて頂きますが。」
「ちょっと待て。・・なら。」
少し考えてから僕は言った。
「従兄弟の、フィリックスの情報を。」
「アーレントミュラー公子、フィリックス様の事でしょうか?」
他にいないだろ。と思うが、確認は重要だ。双方に勘違いがあったら、情報によっては悲劇的な事になってしまう。
「ああ、そうだ。」
「具体的に、どのような情報でしょうか?24時間全てについてでしょうか?それとも公子が起きている間だけでしょうか?誰とどのような連絡をとりあっているかでしょうか?好きな女性や脅迫に使える弱みについてでしょうか?」
・・まあ、ある程度絞らないとグラウハーゼだって困るよな。24時間全てを報告されても僕も困るし。
「元気に過ごしているか、誰とどのような連絡をとりあっているか、両親との関係はどうなっているのか調べてくれ。」
「承知致しました。どれくらいの期間調べましょうか?三日か一週間か一年間かで、殿下にいつ報告にあがるかが変わります。」
「なら、とりあえず三日。」
「承知致しました。では、三日後の夜九時、殿下の部屋に報告にあがります。」
グラウハーゼが出て行った。
僕はカップの中の紅茶を一人でぼーっと見つめていた。
フィルは従兄弟であり親友だった。
その親友を僕は、去年反逆罪の共犯として逮捕させた。
後の裁判でフィルは無罪になった。だがフィルは今も自宅で軟禁状態だ。アカデミーも休学扱いになっている。
彼の両親は彼にどう接しているのか?
彼は僕を憎んでいるだろうか?
そうだとしても。
僕は彼の支えになりたかった。なぜならレベッカ姫が言ったから。彼が立ち上がるまで支えてあげて欲しいと。(※作者注・言ってません。)
僕は、冷めた紅茶を残したまま立ち上がった。
三日後。グラウハーゼが持って来た情報は、脳の血管がブチ切れそうな内容の物だった。
ルートヴィッヒ王子は『王子が家にやって来た』で、間が持たなくてレベッカが言った世間話の一般論を、いいように勘違いしています。ルートヴィッヒ王子は、そういう人です。彼の脳内でレベッカは、限りなく心の美しい優しい女性に変換されています。
 




