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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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エーレンフロイト領の戦い(25)(フランツ視点)

「ひっ!」

と叫んで、ゲルハルトは後ずさった。


「な、なぜ?盗み聞きをしていたのか⁉︎」

「貴殿が使者として領館に来た、との報告を聞いた時ジークレヒトに言われたのだ。『僕、ゲルハルトの顔と声が超好みなんですよ。どこかに隠れて盗み見をさせてもらえませんか?』とな。」

私は一言一句、同じように言ってやった。


勿論、ジークレヒトの性格はよくわかっている。もしも本当に好ましい、と思っている相手なら、こんなセリフを赤裸々にしかもコンラートの前で言う事はないだろう。

本当に思っているなら、ただ黙っていて目も合わさない。そして、ふと短い時間だけ横顔を見つめる。それだけだ。ギルベルト・イステルにそうしたように。


私はゲルハルトという男に会った事がない。だが信用できない相手なのだろうとわかった。ジークレヒトが、こっそり隠れて側にいたい。と言うのなら、考えられる理由は二つだ。ゲルハルトが凄腕の暗殺者で私を暗殺に来たか、あるいはヒルデブラント家に思うところがあって、私にヒルデブラント家の悪口を吹き込み不信感を与えたいかだ。


そしてゲルハルトに会って想像は確信に変わった。ゲルハルトの顔も声も10代の若者に憧れられるようなものではなかった。ゲルハルトはやけに顔の横幅が細い男で、顎も細くそのせいで歯並びが悪かった。目も小さく、対照的に鼻が大きい。鼻が高いので鼻の穴がやたら大きく見える。芝居がかった話し方は耳障りだし、歯並びが悪くて上手に歯磨きができないのか歯茎がやたら赤く腫れていて、口を開けるたびにその歯茎があらわになるのに、生理的嫌悪感を感じた。

ジークレヒトが男で男色家で、本当にこういうタイプの男が好きなのだとしたら、もう二度と我が家には遊びに来させない。ジークレヒトが実は女の子だったとしても、こういう男が好みなのだとしたらレベッカとは二度と友達付き合いさせないつもりだ。


「残念だったな、ジークレヒト。顔も悪いが性根はもっと悪い男のようだぞ。」

と私が言うと、ジークレヒトは「ふふふ」と笑った。

「僕、けっこう悪い男が好きなんですよ。ゲルハルト殿。こちらのバルコニーで、ゆっくり二人で過ごしませんか?とりあえず、あんたの鼻の穴に指を突っ込んでバルコニーからぶら下げさせてください。」


ジークレヒトは笑顔だが、ゲルハルトは真っ青になっている。

コンラートが、ちらりとゲルハルトを見てからジークレヒトに言った。


「ひょうたん半島の火葬場の窯に火をつけて来る。今なら何体死体が焼かれたって、誰も気に留めないからな。」

「わ・・私に何かあったら、典礼大臣が黙っていないぞ!」

とゲルハルトが叫んだ。


「わー、良かったじゃん。あんたが死んだらちゃんと復讐してくれる人がいるなんて、幸せ者だね、あんた。安心して逝けるね。」

と言ってジークレヒトが笑う。

「エーレンフロイト様!何か言ってください。」

とゲルハルトは私に助けを求めて来た。


「鼻の穴に指を突っ込むのは汚いから、目の玉にしておけ。」

「りょーっかいっす。さあ、ゲルハルト君、カモーン!」

「ひいぃっ!」

ゲルハルトは壁まで後ずさった。小物感のすごい男だ。別にヒルデブラントという名前は出していないのだから、しらばっくれれば良いのに、すっかりジークレヒトの迫力に圧倒されている。


「エーレンフロイト様!」

「貴殿は先刻、『病衣』の話をしたな。病の染みついた衣は悪疫を撒き散らす。同じように、魂が病んだ者の発する言葉は他人の魂を蝕んでしまう。焼いて消毒する以外無い。」

「誤解です!わたくしは!」

「誤解?ここにいる全員がきちんと理解をしているぞ。この地は今戦場なのだ。そこに『病衣』を持ち込んだ者が許されると思うのか?」

「違うのです!わたくしの話をお聞きください。」

「私は相手を怒らせているのに謝罪をせず、言い訳ばかりする奴の話は聞かない主義だ。」

「侯爵!」

「しかし、我々が手を下すのも馬鹿らしいような小人物だ。処罰は典礼大臣に任せよう。全てを詳らかに王家と司法省にも報告し、男爵自ら処罰を下すか、エーベルリン男爵一族全てが罰を受けるかどちらかを選ばせよう。」

「い・一族全てが罰を受けるなど、私がいったい何をしたというのか⁉︎私が具体的に何をした?証拠があるのか!」


ようやくその事に気がついたらしい。


「男爵が其方を罰さないというなら、エーレンフロイト家はエーベルリン男爵家にだけ食料を渡さない。」

「!」

「私が理由を話して渡さないと言えば、本音では食料を出したくない他の家門もエーベルリン男爵家に食料を渡さないはずだ。領主一族の不始末で、自分達の領地だけが食料を配給されないと知った領民はどう反応するかな?配給された食料を横流しして金を手に入れられなくなったら、エーベルリン男爵家はどのくらい持ち堪えられる?」

「そのような事許されると思っているのか、侯爵⁉︎」

「どうして許されないと思っているんだ。貴殿らの領地は、どうか食料を恵んでください。と請い願っている立場だろう?主導権がそちらに、というかお前自身にあると思っているのか?侯爵家の当主である私が、どうして男爵の傍系であるおまえに、到底許せないような無礼を働かれても笑って許し、平身低頭してそちらが望む物を渡さなくてはならないのだ?逆らったら私はいったいどうなるというのだ?」


「勿論、ヒルデブラント家だって食べ物は渡さないよ。」

「シュテルンベルクもだ。」

ジークレヒトとリヒトがそう言った。


ゲルハルトはますます真っ青になって、床に膝をついた。


「おまえのような奴が領地内をうろうろすると、善良な領民達に迷惑がかかる。一時間以内に領地から出て行くか、永遠に領地から出ていかないか、好きな方を選べ。」

「あ、ちょっと待って。ゲルハルト君。王都に帰る前に僕からの愛の印を受け取ってくれ。」

そう言ってジークレヒトは。ゲルハルトに近づいた。手に持っている物は、筆と何かの溶液が入った小瓶。ジークレヒトは溶液に筆をつけゲルハルトの顔の上を滑らした。


何かの劇薬か?と思ったが違ったようだ。一応、普通のインクに見える。それでジークレヒトは

『私は、最低最悪の大嘘つきな馬鹿男です』

と書いたのだ。顔に。


「ああ、顔の横幅が狭いから書きにくいなあ。」

「ジークレヒト。そのインクは何だ?」

と私は聞いた。


「ミッフィー君に貰った、トゥアキスラントではメジャーな染料です。お祭りとか記念日に、腕とかデコルテとかに美しい紋様や絵を筆で描くんですって。半年程で消える刺青みたいな物ですよ。結婚式の日には花婿と花嫁がお互いの名前を手首に書くのが伝統だそうです。」

「・・それ半年消えないのか?」

「顔に焼き印とか押さない僕って、何て優しいんでしょう。」


そんな物を標準装備しているおまえは優しくないよ。


「後、50分。」

と私が言うとゲルハルトは転がるように部屋を出て行った。


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