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エーレンフロイト領の戦い(24)(フランツ視点)

内容はようするに

『王都が封鎖されて、王都の周辺に領地を持っている貴族が困窮しているので、去年の国税支払い額TOP 10の領地は食料を供出するように』

というものだった。

ちなみに我がエーレンフロイト領の払った国税の順位は第四位らしい。

同じ書簡が、リヒトにも届いたという事はシュテルンベルク領もTOP 10以内に入っているのだろう。


ふざけるな!と叫びたかった。

去年は去年。今年は今年だ。去年は領地運営が順調だったとはいえ、今年は地獄を見ているのである。それなのに食料を出せ!など弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂だ。


私は自分が見ている文章が、リヒトの見ている文章と同じかどうか確認する為声に出して読み上げた。そして文章は一緒だった。シュテルンベルク領の順位は第九位であるらしい。


「たった数ヶ月で困窮とは、周囲の領地は何をしているのだ⁉︎」

と私は叫んだ。


「お怒りはごもっともですが、王都の周囲の領地は、国境を他国と接した領地とは違います。王都の民に生鮮食料品を提供する為、生野菜や生乳、新鮮な肉、卵など傷みやすい食材を多く作っているのです。なので王都が封鎖され、王都内に入るには二週間の待機期間を置くと定められれば、収入の道は閉ざされてしまいます。そして、王都周辺の領地の民は万が一にも他国からの侵攻があった場合、王都の中に避難し籠城するよう定められています。その時に備蓄していた食料が敵の手に渡らないよう、敢えて備蓄をしない事になっているのです。その為に、このような事態では、直ぐに困窮してしまうのです。普段王都民を支える為に身を犠牲にしている人々を、どうか同じ国民である方々に支えて頂ければと、国王陛下は希望しておられます。」


言っている事は一見まともなようではあるが、冷静に考えると突っ込みどころ満載である。

ヒンガリーラントが建国されて三百余年。王都が攻撃された事なんか一回も無いだろうが!


戦争はいつだって、国境沿いの領地で起きて来た。いつだって戦争で辛い目に遭って来たのは辺境だ。それらの領地は戦争が急に起きた時の為、常日頃から食料を備蓄しておくよう要求されている。なのに、王都周辺の人々は戦争や非常の事態が起きても安全に守られ、食料は他の領地から請求するって、どう考えてもおかしいだろう!王都が負担しろよ!


だいたい、買取じゃなくて供出とはどういう事だ!

食料が無いから食料を無償で出せ!って強盗の言うセリフではないか!


エーベルリン男爵領も、ガルトゥーンダウム伯爵領も王都の側にある。ディッセンドルフ家の手下の為にどうして貴重な食料を無償で渡さないとならないのか⁉︎

もちろんディッセンドルフ公爵領はTOP 10の中に入っているだろう。ディッセンドルフ公爵家も食料を出すのだ。とディッセンドルフ家は言うかもしれない。しかし、寄子の援助は寄親が全てするのが当然なのだ。ディッセンドルフ家は本来自分達が全部引き受けなければならない負担を、他領に押し付けているのである。


独立したい。と内心思った。

高い国税を払って、更に食料を分取られなんて理不尽過ぎる。

ヒンガリーラントに所属しているから、種痘が提供されたんだろうが?と思われるだろうが、我が家の寄子にはコルネリアがいる。彼女がいてくれたら、種痘はいくらでも手に入れられたのだ。

国がこれだけ混乱していたら、討伐軍が差し向けられる事もない。


でも駄目だ。王都には私の愛する家族がいる。家族の身にもしも何かあったら、と思うと王都には絶対に逆らえない。

それに、王都民である国立大学医学部の医学生達がエーレンフロイト領を助けてくれたのは確かだ。彼らの献身的な働きという恩に仇で返す事はできない。


王家や13議会は何もしてくれないが、個人レベルで良くしてくれる王都民はいるのだ。王室直轄地のブルーダーシュタットに住んでいるダニエル・レーリヒもその一人だ。

それに、「食料は絶対に渡さない!」と言っても、王都周辺の領主達は痛くも痒くも無いだろう。飢えるのは彼らではない。領民だ。弱い立場の平民だ。彼らが苦情の叫びをあげたら

「エーレンフロイト領や他の貴族が食料を買い占めて他に渡さないから食料は無いのだ。」

と責任をなすりつけるに決まっている。


たとえ他領の民とはいえ、平民を飢えて死なせるわけにはいかない。

だけど、食料を渡したらちゃんと平民の元に届くだろうか?強欲な領主が横流しをして、私腹を肥やしたりしないだろうか?

他所の領主達を信用できなかった。


黙り込んでしまった私達の前でゲルハルトがため息をついた。

「このような内容の使者を務める事わたくしも心苦しいのです。しかし、ハインリヒが『エーレンフロイト領はたくさんの財を蓄えていて、食料の備蓄も潤沢にある』と中央に報告したばっかりに。ハインリヒは、エーレンフロイト様やシュテルンベルク様、それにヒルデブラント様を随分と逆恨みしておりましたから。エーレンフロイト様やヒルデブラント様に病に罹っているという濡れ衣をかけられ、危うく焼き殺されるところだった、と涙ながらに語っておりました。陛下もハインリヒに深く同情しておられたようでした。」


まあ、ハインリヒならそれくらいするかもしれない。ただ、それで国が動くほどハインリヒが、王族やディッセンドルフ公爵に目をかけられていたとはとても思えないが。


「無論、陛下は天然痘が蔓延したエーレンフロイト領にも深く同情しておられます。ただ、それと同時に訝っておられました。なぜ、エーレンフロイト領がこのような悲劇に襲われたのだろうか?と。」

「・・・どういう事だ。」

ゲルハルトは身を乗り出して来て言った。

「古来、兵法には『病衣』という策がございます。」

「・・・。」

「疫病の侵された者の体液などが付着した衣服を敵陣に送りつけ、敵の内に伝染病を蔓延させるいう兵法です。」


偉そうに説明する姿に失笑しそうになってしまった。

私は勿論、医療大臣であるリヒトがその言葉を知らないわけがないだろう。

この男はきっと自分の事をすごい天才だと思っているのだろうなと思った。そして自分以外の人間を馬鹿だと思っている。


「何者かが悪意を持って、エーレンフロイト領に病魔を振り撒いたのでは、と危惧しておられました。」

「陛下がそうおっしゃったのか?」

「はっきりと口になさったわけではありません。しかし、陛下の御心の内を推察するのが側近の務めでございます。」


それ、言ってないって意味じゃないか?


「で、ハインリヒが疫病をばら撒いたとでも?」

「あの男にそのような能などございません。それに古来よりこう申します。『放火魔は最前列で火事を見る』と。」

「・・・。」

「閣下、この一件で、誰が最も利を得たのかよくお考えください。それは、かの女男爵様ではありませんか?お優しい閣下が、人を疑われるのは心苦しい事なのだとお察し致します。しかし、閣下は領主として冷静な目で周囲を見なければなりません。」


何で、コイツこんなに偉そうなの⁉︎

同じセリフをカイやリヒトに言われるならわかるけど。二人は私より年上だし人生経験も豊かだし、まるで実の兄のような存在なのだから。

なのに年下で、今日初めて話をする奴に、まるで教師の教えを受ける生徒のようにこうも私見を押し付けられないとならないんだ?


「『かの女男爵』とは誰の事だ?」

「賢明なるエーレンフロイト侯爵閣下には当然お分かりになられる事でございましょう。」

「つまり卿は、ヒルデブラント小侯爵が怪しいと言いたいのか?」

「そういえば、かの領地は薬学のエキスパートでございましたね。」

ゲルハルトは話をはぐらかす。


ゲルハルトはさっきから話を断定しようとはしない。ただ匂わせるだけだ。

こういう話し方を貴族的と言うのだろう。ただ、伝染病との戦いで疲れている私を励ます為ではなく、むしろもっと疲れさせる為に言葉を操っている。正直、もううんざりだ。


私は、話を終了させる事にした。


「こんな事を言われているけれど、どう思う?ジークレヒト。」

「そうですねえ。」

と言いながらカーテンを開け、窓の外にあるバルコニーからジークレヒトとコンラートが部屋に入って来た。

続きは今夜投稿します。

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