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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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エーレンフロイト領の戦い(17)(フランツ視点)

ハインリヒの騒ぎから10日が経った。


赤いプツプツだらけだったハインリヒの顔もようやく回復してきた。

ダニは蚊に比べてなかなか腫れと痒みが引かないし、痒さのあまり掻きむしったみたいで、とびひが出来てしまったのだ。

とびひの症状は、天然痘と似ていない事もないので「やっぱり天然痘ではないか?あの医学生の女、誤診したんじゃないか⁉︎」とうるさかった。

とびひは悪化すると敗血症になって死ぬ事も稀にあるので、希少な薬を処方したが、その薬代を請求するとブチ切れられた。

結局、コンラートに睨みつけられて大人しく薬代を払ったが、それもあってずっと機嫌が悪く、周囲に八つ当たりばかりするので私もげんなりしている。

さっさと王都に帰れよ!

と思うのだが、どうやら司法大臣や財政大臣に『エーレンフロイトが、種痘を外国人に横流しする現場を押さえて来い』と命令されているらしく、証拠を目撃するまで彼も帰れないらしいのだ。


王都の人間はどうやら、トゥアキスラント人が毎日のように次から次へとやって来ていると思っていたらしい。

だけど現実には、三隻船が来ただけで止まっている。ハインリヒが待てど暮らせど、トゥアキスラントからの船は来ない。

「なぜ来ないんだー!」

とこの前、海に向かって叫んでいるのを目撃した。うるさい男だ。


船が来なくなったのは、状況が好転しているか、もうどうしようもなく悪化しているのかのどちらかだろう。

お隣の国がどうなっているのか私も心配している。だけど、一応国境を封鎖しているので情報が入って来ない。もしかしたら、大使館があって、新聞記者達が駆けまわっている王都の方が情報が入っているくらいかもしれない。フェイクニュースも多いかもしれないけれど。


私が庭を散歩していると、ハインリヒが部下を怒鳴りつけている現場に遭遇した。ハインリヒの従僕は、ひょうたん半島のホテルのスイートルームの中にジークレヒトに閉じ込められた時、何か主人に暴言を吐いたらしくて殴られたうえに解雇された。

それ以来、ハインリヒの身の周りの世話をするのも、八つ当たりをされるのも司法省の部下達だ。

ハインリヒにいびられている部下達が、ストレス発散の為に領館の使用人や孤児院の子供達に八つ当たりをしないか見張る為、定期的に私は領館内を散歩しているのだ。


私の姿を見ると、ハインリヒは部下に行け!と合図をした。名前も知らないハインリヒの部下が、私とカイとウルリヒの側にやって来る。


「エーレンフロイト侯爵。食事の事でガルトゥーンダウム様が抗議したいと言っておられる!」

言わされる彼も大変だな。と私は少しだけ同情した。


「毎日毎日、魚の団子のスープと白飯おにぎりなど、おかしいではないか⁉︎あんな物は王都では家畜さえも食べはしない。まともな食事を出す事を要求する!」


ハインリヒは私には直接文句を言っては来ない。本物の剣士であるコンラートに「燃やすぞ!」と脅されたのがよっぽど恐ろしかったらしく、部下と海にしか怒鳴れなくなってしまったのだ。


「おかしいも何も、閣下も全く同じ物を食べているのですが。」

とカイが言った。その通りだ。私も魚のスープとおにぎりを食べている。まあ、私のスープに入っているのは団子じゃなくて切り身だし、おにぎりの中には焼き鮭が入っているけどね。


「今、領都内は非常の時なのです。城門も閉じている状態で王都と同じ物が食べられるわけがないでしょう!」

「しかし、毎回毎回魚と妙なツルのスープなど。」

「妙なツルではなく芋ヅルです。見れば分かるように、孤児院の子供らが作っている畑もようやくスプラウトが出たばかりで、生い茂っているのは芋ヅルだけです。領都外の村から野菜を入手する事が出来ないのだから仕方ありません。緑の物があるだけ有難いと思ってください。」


レベッカとヨーゼフが大好きな南海芋を、孤児院の子供達は領館内の畑に植えてくれた。そしたら、ちょっとびっくりするくらいツルが生い茂ったのである。

その芋ヅルを刻んでスープの中に入れている。勝手に居座っているのに、幼い子供達が一生懸命作っている物を当然のように奪い取り、文句ばっかり言っているのだから腹が立って仕方ない。


しかし、部下も言う事を言わなければまたハインリヒに怒られるからか、文句を言うのをやめようとしない。

「領館の裏庭の池ではたくさんのアヒルが飼われているではないか?1羽、処分するだけで十分な肉がとれるだろう?ガルトゥーンダウム様に敬意を払おうと思わないのか⁉︎」


さすがにイラッとして、私が前に出た。

「あのアヒル達は、卵をとる為に孤児院の子供達が飼っている孤児院の財産だ。領主と言えども無理矢理接収する事はできない。」

「だったら、卵料理を出して欲しい。」

「アヒルも卵も孤児院の財産だと言っているだろうが!それに今、卵はひょうたん半島で苦しんでいる病人達に食べさせてあげて欲しい、と子供達に言われていて、全部病院に寄付している。何もしていない者に食べさせる卵は無い!」

「ガルトゥーンダウム様だって病人だ。侯爵の不手際であのような事になったのだぞ。」

「・・ほう。私の不手際。」


私の怒りのオーラを感知したのか、ハインリヒの部下が怯えた表情をした。ウルリヒなどは殺気を放っている。


そんな私達を、スコップやカゴを持った孤児院の子供達が遠巻きに見つめていた。


「領主様と一緒にいるあのおじさん誰?」

「おじさんじゃないよ。貴族様だよ。ひょうたん半島でダニに刺された貴族様さ。」

「ああ、ダニ貴族か。」


・・・・。

子供というものは、なんてナチュラルに無邪気に大人の逆鱗に連続チョップをくらわせるものなのであろうか?

私は吹き出すのを懸命に堪えなければならなかった。


「侯爵!あの子供達の無礼な態度はなんだ。貴族を侮辱するなど厳しい罰を与えろ!」

とハインリヒがついに私に怒鳴った。


「無礼?本当の事を言っているだけではないか?『ダニに刺された平民』とか『カメムシに刺された貴族』と言っていたら、叱らなければならないが、本当の事を言う事の何がいけないのだ?そもそも人は刺される時は誰だって虫に刺されるものだ。だから、虫に刺された、という言葉が侮辱に当たるというのは自意識過剰というものだろう。」

「・・・!」

ハインリヒが歯軋りをする。

そんな私達の所に、騎士のヨアヒムが走って来て報告をした。


「閣下!港に、船が来ました。」


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