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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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エーレンフロイト領の戦い(13)(フランツ視点)

「・・抜け道って何だ?」

シュテルンベルク家の騎士が出て行った後、私はリヒトに聞いた。


「ジークレヒトが来たら話す。」

「コンラートに呼び出されたのならともかく、おまえに呼び出されてすぐ来るかどうかわからないじゃないか⁉︎『今忙しい』とか言って、24時間後に現れるかもしれないのに待てるかっ!」

「・・・。」


リヒトは嫌そうな顔をしてため息をついた。しかし、否定はしなかった。


「実は、コルネリアとジークレヒト、そして商人達が国に提出した種痘の専売権は10割じゃないんだ。全体の9割だ。」

専売権は、商人達が6割、コルネリアが2割、ジークレヒトが2割持っていたと聞いている。


「誰が1割出すのを拒否したんだ?」

「ジークレヒトだ。そもそもジークレヒトは、専売権を1割しか持っていなかった。」

「どういう事だ?」

「ジークレヒトは、資金は2割分出したが、1割分の権利を自分、もう1割を叔母であるアレクサンドラ女男爵の名義にしていた。なので、女男爵の権利はジークレヒトには勝手に譲渡できなかった。」

「どうして、そんな事を?まさか、こういう状況になると分かっていたのか?」

「本人が言うには、グラハム博士の母国にいちゃもんをつけられた時、『主犯は叔母です』と言い逃れ出来るようにとの事だった。アレクサンドラ女男爵のいるヴァイスネーヴェルラントには海が無い。北大陸にあるグラハム博士の母国と政治的、商業的繋がりが無いし、報復戦争を仕掛けようにも海が無いから海軍が侵攻できない。・・と言っていたけれど、本当は予期していたのではないかな。ヒンガリーラントが全ての種痘を独占したら、他の国々に一切種痘を渡さない事で、自分達の手を汚す事なく他国の人々を大量死させ国力を削ぐ事が出来る。戦争をして危険を犯し莫大な資金を注ぎ込まなくても、西大陸の独裁者になれるんだ。・・そんな事になるのが嫌だったのではないかと思う。私やおまえと同様に、ジークレヒトにだって愛国心はあるはずだ。しかし、国を愛する事と他国の人々が苦しみながら死んでいくのを黙って見ているのは同じ事じゃない。」


その通りだ。だから私は、救いを求めて来たトゥアキスラント人達を助けたのだ。


「おまえはさっき、金で解決出来るならする、と言っていただろう。アレクサンドラ女男爵に金を払えば、種痘は売ってもらえるはずだ。どれだけふっかけられるかは予想できないが。種痘一つにつき自分の書いた本を一冊買え。とか言われるかもしれないぞ。それでも、自分とは縁もゆかりも無いトゥアキスラント人の為に金を払うかどうか。決めるのはおまえだ。」


「ああ、そうだな。というか、種痘一つにつき本一冊なら安すぎだろう。アレクサンドラ女男爵の著作には資産としての価値がある。同じ値段で転売できるんだから。」


私達が笑い声をあげたところで、ジークレヒトが到着したという報告があった。



リヒトに呼び出されたジークレヒトは当初

「すぐに来い、とか無理。僕は忙しいんだ。ハインリヒのアホに嫌がらせをする方法を考えなくちゃならないんだから。」

とほざいたらしい。

しかし、側にいたコンラートが


「突然ガルトゥーンダウム卿が来た事といい、何があったのか気にかかるな。父上に会いに行って来る。」

と言ったので、コバンザメのようにくっついてきたのだ。ありがとう。コンラート!


ジークレヒトは、ハインリヒが来た理由を黙って聞いていた。そして

「すごいですね。」

と言った


「13議会の連中分かってるなあ!エーレンフロイト侯爵の愛人よりも遥かに、閣下の事を理解してるんじゃないですか。」

「愛人なぞいない!人聞きの悪い事を言うなっ!」


「それで、僕に何をしろと?ハインリヒを事故に見せかけて海に突き落としましょうか?」

「一番の悪手をとるな!アレクサンドラ女男爵の契約書を持って来てくれ。そして彼女と連絡をとってくれ。売買契約を結びたい。契約書はどこにあるんだ?」

とリヒトが聞いた。


「ブルーダーシュタットの銀行の貸金庫の中です。」

ジークレヒトは、かつて王都の銀行は信用ならない、と言ったそうだ。その気持ちはよくわかる。王都にある銀行は全て、王妃の実家ディッセンドルフが経営している銀行なのだ。王都にある銀行の貸金庫に物を預けるという事は、ディッセンドルフの懐に預けるというのと同義である。

だが、商業都市であるブルーダーシュタットには、ディッセンドルフ系の銀行だけでなくアルト同盟が経営している銀行がある。ジークレヒトはそっちの銀行の貸金庫に契約書を預けていたのだ。


「ブルーダーシュタットか。貸金庫って契約者が直接行かないと開けられないんだよな。でも今エーレンフロイト領にいる人間はブルーダーシュタットに入れないし、困ったな。」

リヒトが天を仰いで考え込む。


ジークレヒトが珍しく、言いづらそうな口調で言った。

「正確には『契約者』じゃなくて『登録者』ですけどね。」

「ん?自分の名前で登録しなかったのか?」

「自分の契約書ではありませんから。」

「という事は女男爵の名前で登録したのか?」

「いえ、叔母も忙しい人ですから。叔母の秘書の名前で登録しました。」

「じゃあ、ヴァイスネーヴェルラントに連絡して秘書に来てもらって欲しい。何て名前の秘書なんだ?」

「・・・ギルベルト・イステルです。」


その名前をジークレヒトが口にした途端、何か空気がピキっとなった。

別に何かを言ったり、表情を変えたわけではないのに、リヒトとコンラートの、ついでに言うとシュテルンベルクの騎士達の身にまとうオーラが何か変わったのだ。


「?」

私は首を傾げた。変な沈黙が続く。仕方なく私が口を開いた。

「そのイステル氏に、ブルーダーシュタットに行って更に我が領に来てもらう事はできるだろうか?」

「・・まあ、できるとは思いますけど。」

珍しくジークレヒトの歯切れが悪い。


「ブルーダーシュタットのベンヤミンの病院に手紙を送って、そこからヴァイスネーヴェルラントに届けてもらうから早くても二週間、遅いと一ヶ月以上かかるかもですけど。」

「わかった。よろしく頼む。ブルーダーシュタットに手紙を送るのはレーリヒ商会の我が領にある支店の人間に頼もう。人の往来は無理でも手紙のやり取りはできるらしいから。」


いたる所で、都市や道の封鎖が行われているかもしれないから、もしかしたらもっと時間がかかるかもしれない。それに、悪疫の蔓延するヒンガリーラントには行きたくない、とその秘書に思われるかもしれない。でも、トゥアキスラントからの亡命者を助ける為に他に方法が無かった。

どうか助けて欲しい。人は善なる存在なのだと、まだ信じていたかった。



その後、手紙を書く為ジークレヒトが出て行き、リヒトとコンラートが出て行った。

私はカイに質問してみた。


「さっき、リヒト達の様子おかしくなかったか?」

「ヒルデブラント様がおかしくなかった時が、一度でもあったでしょうか?」

「・・・。」


むしろさっきは比較的マシな方だったぞ。と思う。彼はレベッカやアルベルと仲が良く、しょっちゅう王都のエーレンフロイト邸に入り浸っているが、はっきり言っていつも突拍子のない事を言ったりやったりしているからな。


「私も一つフランツ様に、以前からお聞きしてみたいと思っていた事があるのですが。」

「何だ?」

「ヒルデブラント侯爵令嬢は今どこで何をしておられるのですか?」

「知らん。」

「平民の使用人と駆け落ちしたという噂がありますが、相手の男は何という名前なのですか?」

「・・・知らん。」


・・カイが本当は何を聞きたいのか。何が言いたいのかわかった。


ギルベルト・イステルという男が、くだんの間男ではないか?と言いたいんだ。


そしてきっと、そうなんだろう。

シュテルンベルク家としては事件当時、いろいろと情報を集めたはずだ。当然、間男の名前も分かっていたはずだ。


うちのレベッカみたいな子ならともかく、深窓の令嬢が家を出て長きに渡って行方をくらませるなんて真似不可能だ。当然誰かを頼っただろうし、家門と縁を切っている、しかも金持ちの叔母なんて頼る相手としては理想的だ。


今更シュテルンベルク家としては、よりを戻したいなんて気持ちは無いだろう。

ただ、駆け落ちした妹や間男とジークレヒトが今でも繋がりを持っているというのは面白くあるまい。

あれほどコンラートを慕って、尻尾を振っているのに、その実間男達とも深い繋がりがあるなんて、裏切りのように感じてもおかしくない。というか、立派な裏切りだ!


そして、その間男がうちの領地にやって来る。


なんか、ぞわわっとした。頼むからうちの領地で騒ぎを起こさないで欲しい!私は伝染病の事だけでいっぱいいっぱいなのだ。そこに13議会の嫌がらせとかあって、もうこれ以上悩むスペースが精神の中に無いのだ。


私が腕をさすっているとカイが

「お寒いのですか?雨が降りそうな天気になって来ましたからね。」

と窓の外を見て言った。


嵐が近づいて来ている。そう思った。


その日の夜は雨が降った。

そして、翌朝。ひょうたん半島で大事件が起こった。


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