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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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エーレンフロイト領の戦い(6)(フランツ視点)

リヒトは医療省の職員達、そしてコンラートと一緒だった。となると、当然ジークレヒトも一緒だ。


最近、おっさんの顔ばかり見ていたからだろうか?一瞬、襟足が長めになっているジークレヒトが美少女に見えた。いかん。明らかに脳が疲れている。

レベッカに会いたい。ついでに言うとユリアーナやコルネリアの顔を眺めて目の保養をしたい。でないといつか、エデラー老医師の顔がすごい美少女に見えてしまうかもしれない。


「リヒト、来てくれてありがとう。嬉しいよ。」

「大変だったな、フランツ。種痘を持って来た。とりあえず五百。必要なら、まだ取り寄せられる。」

「そんなにあるのか。良かった。ありがとう。」

「今のところ国内で、天然痘の報告があったのはエーレンフロイト領だけだ。だから、ここに集中できる。まだ発生していない地域では、不信感の方が大きくて接種したいという人がほとんどいないらしい。」

「だろうな。我が領でも、発症者が出た途端に接種希望者が増えたんだ。私も、まだ受けていないのだが受けたいと思っている。その方が自由に動けるからな。」


それから、領内の感染者の状況を伝えた。

「ベンヤミン、いるんだ。後から会いに行こーっと。」

とジークレヒトが言った。


「彼がいるのは、感染者病棟だ。種痘は受けているのかい?」

「もちのろんですよ。人体実験は、健康な若者からまず始めなきゃですからね。」

「第一感染者が誰かはわかっているのか?」

とリヒトに聞かれた。


「それがわからないんだ。そうだと思われる者が領外の人間と接触した痕跡が無い。いったい、どこから感染が始まったのか・・。渡り鳥が運んで来た、という事はないのだよな?」

「天然痘は人獣共通感染症ではない。かかるのは人だけだ。動物が運んで来る事はない。」

「えっ?でも、馬痘とか牛痘とかありますよね?」

とカイが聞いた。


「症状は似ているが、全く別の病気なんだ。牛痘は人にうつるが人痘は動物にはうつらない。」

「人間ばっかり不公平だな。」

つい、愚痴が口をついて出た。


「だが、グラハム博士の弟子が言うには、天然痘は人にしかうつらない事が最大の希望なのだそうだ。つまるところ、世界中の人間全てが種痘を受ければ、天然痘を世界から撲滅する事ができる。これが、狂犬病とかだったらそうはいかない。『狂犬病』と名がついているが、事実上人を含めた全哺乳類が感染、発症するからだ。全世界の全ての哺乳類、屋根裏を走り回っているネズミや、空を飛ぶモモンガに予防薬を接種させるのは絶対に不可能だ。発症すれば地獄の苦しみの果てに100%死亡する恐るべき病だが、世界から撲滅する事は絶対にできないらしい。」

「そうなのか。グラハム博士の弟子に会ったのか?」

「ああ、ブルーダーシュタットに来てくれて、希望者に種痘を接種してくれている。」


ありがたい話である。


カイがお茶を淹れてくれたので、皆でお茶を飲む事にした。しかし、お茶を飲みながらも会話は伝染病についてである。


「他の領地で、天然痘患者が出ていないという事は、やっぱりトゥアキスラントから入って来たのだろうか。」

「領地の南側が、トゥアキスラントなんだよな?」

とリヒトに聞かれた。

「ああ、そうだ。」

「で、西側は海。東側には誰の領地があるんだ?」

「キルフディーツ伯爵領だ。」

「ああ、キルフディーツ家ね。」

リヒトが半笑いをする。


キルフディーツ家は、コンラートへの縁談が持ち上がった家だ。だが、その娘が『光輝会』に所属していて、王家の怒りを買ったので話が流れた。領地は隣同士だが、うちとは別に仲は良くない。むしろ王都へ向かう通り道になっているせいで、『通行税』問題で時々揉めるくらいだ。


「北側は?」

「バイルシュミット子爵領だ。」

「バイルシュミット・・。知らないなあ。どんな人だっけ?」

「うーん。そんなに親しくしているわけではないけれど、まあ朴訥とした方だよ。」


子爵は40代で、跡取りは20代だ。なので、30代の我々とはアカデミーに通っていた時期が被っていないのだ。


「最近、令嬢とは何回か顔を合わせたな。令嬢は司法省の官僚で、レベッカが事件に巻き込まれる度に聴取に来たんだ。」

あー、あの人か。という顔をコンラートとジークレヒトがした。


「バイルシュミット領には海があるのだろう。そこからトゥアキスラント人が入って来てエーレンフロイト領に来たという可能性はないのか?」

とリヒトが聞く。


「バイルシュミット領の海は断崖絶壁と、険しい岩場しかない。だから港が無いんだ。けっこうな高さの断崖だから、密航者とかも入り込まないと思う。それに、バイルシュミット領では天然痘患者は出ていないのだろう?」

「ああ、まだ、報告は無い。」


「エーレンフロイト領の海から、密入国者が入って来たって可能性はないんですかー?」

たぶん、皆が言いたかったであろう事をはっきりとジークレヒトが言ってきた。


「正直、それしか可能性はないと思っているよ。急いで港や海岸の周辺で情報を集めてる。けど、密航船が見つかっていないんだ。冬から春にかけては、強烈な北風が吹くから小さな船ではとても渡って来れない。大きな船だと隠しようもないと思うのだが。夏だったら、沖に船を停めて泳いで来るとかできるだろうけれど、この季節にそれは無いしな。」

「北風が吹くのなら、南にあるトゥアキスラントからは来られないよなあ。そもそも、そこまでして密入国する意味がわからないよな。」

とリヒトも言う。


「政治的に迫害された亡命者とかは、どうなのでしょうか?」

とコンラートが言った。心の中で、グラハム博士の弟子達の事を考えているのかもしれない。


「そういう人がいるなら、こっそり入って来なくても歓迎するんだけどね。我が領はまだまだ領民が少ないから。領都の人口もシュテルンベルク領の半分、ヒルデブラント領の5分の1だ。ただ、人数が少ないからこそ見かけない顔の人間がいたらすぐバレるはずなのだけどね。」

「どこから入って来たのかわからない、というのが本当に不思議だよなあ。」

とリヒトが言った。


そこで一旦、お茶会は解散した。

リヒト達医療省の面々は、ひょうたん半島を視察するという。ジークレヒトとコンラートは病院側にも行くつもりのようだ。


私とカイはさっそく種痘を接種した。

ずっと領館から出られずにいたが、これでもっと動き回る事ができるようになる。と少しほっとした。港の周辺を私も捜索に行ってみようと思う。天然痘云々以前の問題として、密入国者が出入りしていたとしたら大問題である。そういう人間は大体において、良からぬ企みや良からぬ品物を持っているものだ。金や砂糖を密輸しているなら良くはないけど、まだ良い方だ。麻薬とか持ち込まれたら大変な事になる。


本当ならば、家族や領民と楽しくお祭りをしているはずの時期だったのに、こんな事になるなんて。ああ、家族が恋しいなあ。と、考えていると頭が痛くなって来た。これ以上考えていると、種痘の副作用で体調が悪くなりそうなので、その日はもうそれ以上考えずにさっさと眠る事にした。


次の日特段の副作用も無く、朝食を寝室で食べていると、カイが入って来た。


「良いニュースと悪いニュースがありますが、どちらからお聞きになりますか?」

「悪いニュースがどのレベルかによる。1から10でいくとどのレベル?」

「1ですかね。うちの領に直接の関係はないので。」

「もしかして、どこかよその領で天然痘が出たのか?」

「当たりです!よくお分かりになりましたね。」

「その程度の想像力も無いと思ってたのか⁉︎じゃあ、良いニュースを聞かせてくれ。」

「最初に感染した串焼き屋の母子が回復しました。もう、命に別状はないそうです。」

「それは良いニュースじゃないか!良かった。」

ヨーゼフと同じ年の子だ。ものすごく嬉しかった。


「それで、子供の方が話ができるくらい回復したそうですが、その子が言うには熱が出る十日程前に見知らぬ貴族に会ったそうです。」

「貴族?なぜ貴族とわかったんだ。」

「その貴族が自分で言ったそうです。」

「いったい、何者・・いや、ちょっと待て。悪いニュースの方を先に全部聞いておこう。どこの領地で天然痘が出たんだ?」

カイの口から出て来たのは意外な領地だった。

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