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決意新たに

12月が終わると、地球には無かった13月が始まった。


5日後には、新しい年がやって来てヒンガリーラントの3大祭りである『新年祭』が始まる。


ただ、貴族同士が親交を結ぶ建国祭と違って、新年祭は家族や親族と一緒に新しい年が来た事を祝う祭りだ。

王宮での集まりも、舞踏会が1日あるだけだし、領地持ちの貴族は領地に帰ったりもする。


実は我が家も、例年この時期は領地で過ごしていた。

しかし、この度は新年祭が終わるとすぐ、私と弟のヨーゼフがアカデミーに入学する事になっているので、領地に戻らず王都で過ごしていた。前々から入学が決まっていたヨーゼフと違い、急に編入の決まった私は準備が大変なのだ。

制服や靴を急いで作らないといけないし、同い年の子供達と比べて、あまりにもバカだと恥ずかしいので、急遽家庭教師の先生に来てもらって、教養と常識を教え込まれている。


ただそのおかげで、自分が住んでいるのがどういう国なのかを、改めてよく知ることができたんだけどね。




私が住んでいる国の名前はヒンガリーラントである。西大陸の北西部にあり北側と西側が海に面している。


世界には、3つの巨大大陸がある。『西大陸』『東大陸』『北大陸』だ。その他にも、なんちゃら諸島とかかんちゃら群島とか、呼ばれる島々がある。

その全ては北半球にある。

赤道の向こう側、南半球にどんな大陸があるのか、人が住んでいるのかはわからないらしい。

住人が皆、北半球に住んでいるわけだから、時計は右回りだし、暴風も右回りに吹く。


3つある大陸の中で一番大きいのは北大陸、それに西大陸、東大陸と続く。

しかし、北大陸の上3分の2は永久凍土に覆われていて、大陸全体で人が住める所が少ない。よって、北大陸の人口は3大陸の中で最も少ない。一番多いのは東大陸。西大陸はこれまた真ん中だ。


何もかも真ん中な西大陸。しかし、最も強く、最も賢く、最も豊かなのは西大陸だと教師は言った。

あやしいものだ。

北大陸や、東大陸の人の意見も聞いてみたいものである。



数百年前、この国の名前は『ゾンネラント』といった。とゆーか、ゾンネラントの一部だった。ゾンネラントは『太陽の国』という意味だ。


ゾンネラントは、西大陸の半分くらいを占める大きな国だった。

その大きな国には、様々な民族、言語、文化、信条があった。

やがて、権力者の腐敗が進むにつれ、民族の分離独立の動きも強まっていく。100年以上続いた民族紛争の果てに、ゾンネラントは11の国に分裂した。そのうちの1つが、ヒンガリーラントだった。


国土の西と北に海があるので、魚介類や塩が取れるし、外国との交易も盛んだ。

しかし、ヒンガリーラントの王都は、海から馬車で何日もかかる距離にあるので、新鮮なお魚は王都の人の口には入らない。

物価も、海沿いの土地より王都の方が二割り増し高い。産業は少ないのに物価が高いのだから、王都の存在を除けば、国土は北西の方が豊かで南の方が貧乏だ。

寒さすらも、実は南の方が厳しい。

海の側の街は、海流の影響で暖かいのだが、南側は五千メートル級の山脈から吹き下ろす空っ風のせいで極寒なのである。


ヒンガリーラントの王都は、標高六百メートルくらいの場所にあるので、冬の寒さは中々のものだ。

今も、窓の外には小雪がちらちらと舞っている。


いっそ冬眠でもしてしまいたいこんな季節に、学校に行かなきゃならないなんて寒くて辛い。


窓の外を見ながら鬱々としていると、執事が部屋へやって来た。

お母様が私を呼んでいるらしい。

どうやら、アカデミーについてきてくれる侍女さんが決まった、とのこと。


アカデミーには、男の子は一人で行かないといけないが、女の子は一人侍女を同伴できるらしい。

女の子は、髪を結んだり着替えたりが一人じゃできない子もいるからね。男と違って。


あと、防犯の為ってのもあるらしい。

女の子の方が、圧倒的に男の子より少ないからだ。


私としては恐怖の魔窟へ向かうのだから、心のオアシスになるような気のおけない相手がいいと思って

「アーベラがいい。」

と、お母様に言ったのだけど


「仲の良すぎる相手だと、あなたの暴走が止められないからダメです。あなたを厳しく見張り、監督し、押さえつけ、指導しつつ淑女としての範を示してくれる人でないと。」

と言われてしまった。

なぜ、暴走する事が前提なのだろう⁉︎


寒い廊下を歩いて、お母様の書斎へと私は向かった。

ガン、ガンとノックをしてから、中へと入る。

「ドアはもう少し静かに叩いてちょうだい。」

と、お母様に叱られた。自分では自覚がないが、私の行動はいちいち乱暴らしい。


書斎には、お母様とお母様と同じくらいの年齢の女性、そして女の子と男の子がいた。


その女性の顔を見て、私は立ちつくした。

そうだ。彼女が我が家へやって来たのは、過去でもちょうどこの頃だった。冬の、寒い季節に来てくれたのだ。

どうして忘れていたのだろう。

私の目から涙がこぼれ落ちた。


「ユ・・ユディ。」

ユーディットが、驚いたような顔をした。


「まあ!あなたユーディットを覚えていたの⁉︎」

お母様が、びっくりした様子でそう言った。


「わ・・忘れないよ。私が、高い熱を出して苦しんでた時、ずっと側で励ましてくれて・・・。」

涙が後から後からこぼれてきて、ついでに鼻水も出そうになる。


ユーディットは、私の乳母だった。つまり、母乳を飲ませてくれた人だ。

私が生まれた時、お父様は、お隣の国のアズールブラウラントの法科大学に通っていた。そこで国際法の勉強をしていたのだ。


なので、アズールブラウラント人の乳母を雇った。大学の教授が紹介をしてくれたらしい。

それがユーディットだった。

ユーディットには、旦那さんがいるし、1歳になる娘もいる。だから、私が2歳になるまでという契約で雇われた。

そして、私が3歳の時、私達家族はヒンガリーラントに戻った。


私が11歳の冬。夫を亡くしたユーディットは娘のベティーナと、息子のマリウスを連れて我が家へやって来た。

職を探していて、お母様に助けを求める手紙を出し、お母様がヒンガリーラントに呼び寄せたのだ。

ユーディットとベティーナは私付きの侍女になり、私に本当に尽くしてくれた。


結局、それが良くなかった。

二人は私が天然痘になった時も、献身的に看病してくれた。そのせいで、私から天然痘がうつった。

ユーディットとベティーナ。そして、ヨーゼフの1つ年下のマリウスの三人とも、天然痘で死んでしまったのである。


どれだけ、悲しかっただろう。どんなに後悔しただろう。

その時の事を思い出すと、涙が止まらなかった。


「レベッカ様。」

と言って、ユーディットがうるうると涙ぐんだ。

「あの、どうぞ。」

と、言ってベティーナが私にハンカチを差し出してくれる。


「ありがとう。ベティー。」

「えっ!私の名前をご存知なんですか⁉︎」

と、ベティーナが驚いた。


ああ、そうか。ベティーナとマリウスにとって、私は初対面なんだ。

一度目の記憶があるのは私だけ。

ユーディットにとっても、私は2歳の誕生日に別れたバブー状態の幼児なのだ。


ユーディットが、私を優しく抱きしめてくれる。

ユーディットはとても暖かかった。


この優しい人達を、今回は絶対に失わない。

心の中で私は固く誓った。

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