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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第六章 伝染病襲来

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グラハム博士の現在

シュテルンベルク伯爵リヒャルト様は、文字通り応接室に駆け込んで来た。息子のコンラート、姉のリーリエ様、妹のマルガレーテ様も一緒だ。

去年、伯爵夫人であるエレオノーラ様がアントニアに殺されていた。という事が分かった時、伯爵の姉妹達全員が戻って来た。その後長女のエリカ様と三女のローゼマリー様は、遠い自宅へと帰って言ったが、シュテファリーアラントに住んでいるリーリエ様と、アズールブラウラントに住んでいるマルガレーテ様は、いろいろな問題を解決する為に残り、そのうち移動が難しくなる冬になったのでずっと伯爵邸で過ごしていた。春になったので、そろそろ帰ると言って挨拶に来たのが昨日の事である。その時何か忘れ物でもしたのだろうか?


「ユリアーナ君、コルネリア君。聞いたか?トゥアキスラントで天然痘が発生したそうだ。」


そんな事はわかっている。わからないのは、なぜそれを二人に聞く?という事だ。


「トゥアキスラントって、エーレンフロイト領のすぐ隣にある国ですよね。」

とコルネが言った。コルネ。聞かれているのはそこじゃないよ。


「本当に天然痘で間違いないのですか?」

と、ユリアが震えながら聞く。


「間違いない。なので、国王陛下は種痘の緊急輸入を決定された。」

「えっ!」

と私は声が出てしまった。

「『種痘』を発明したグラハム博士は、流刑にされてしまったのではないんですか?」

「グラハム博士は流刑地から逃走した。レベッカ、知らなかったのか⁉︎」


知るわけがないっ!というか、何で私が知っていると思うんだ?


「そうなのか⁉︎今どこにおられるのだ?」

とお父様が聞いた。


「最初はシンフィレアに亡命した。シンフィレアは、亡命者に寛大な国だからな。シンフィレアの王都があるのとは違う小さな島に研究所を作り『種痘』をはじめとする研究を再開した。だが、昨年末シンフィレアで大火が起こっただろう。シンフィレアが混乱状態に陥り国力が低下したので、博士はシンフィレアから脱出した。経済援助を引き換えにグラハム博士を引き渡せ、と言われたらシンフィレアは逆らえないからだ。その後は、ヒンガリーラントを経由してヴァイスネーヴェルラントに入国した。海から離れた国の方が干渉されずに済むし、ヴァイスネーヴェルラントは西大陸で最も男女が平等な国だ。ヴァイスネーヴェルラントでなら、研究が進めやすいと思われたのだろう。」


ん?その話の流れからすると・・・。


「グラハム博士って、女性なんですか⁉︎」

「え?知らなかったのか。女性だよ。フルネームは、ヘンリエータ・グラハムだ。」

「・・・知りませんでした。」

「弟子も、皆女性だ。男尊女卑の激しい北大陸で、女性学者の弟子になる男はいない。」

「へー・・・。というか、流刑地ってそんな簡単に逃走出来るものなんですか?」

「出来るような出来ないような・・。流刑地は無人島なんだ。囚人を北の果ての無人島に捨てるんだよ。その島内のどこかに閉じ込められているわけでも、誰かが監視しているわけでもない。ただその島の周囲は海の難所と呼ばれる危険地帯で、波が高く潮が早いのでそうとうの大型船でないと航行できない。そもそもその地域の海図は、グラハム博士の母国しか持っておらず、航行はかなりの危険が伴う。そんな危険な海域を何週間もかけて往復するのは、大変な知識と勇気とそして莫大な資金がいる。グラハム博士の弟子達は、逃走の協力者を探したがなかなか見つからなかった。だけど、協力者が現れたんだ。高名な冒険者がリーダーになって、巨大蒸気船で島に赴き、海から3キロ離れた場所に捨てられていた博士を犬ゾリを走らせて迎えに行った。既に持ち込んだ食料も尽き、冬になって湖で魚もとれなくなって餓死寸前だった博士と一番弟子を、冒険者は犬ゾリに乗せて救出した。その後の隠れ家での生活の援助も研究資金も全て協力者達が支払った。」


すげえ!まるで映画のような話だ。日本人は、『八甲田山』とか『南極物語』とか、極寒の場所を舞台にした映画が大好きだから、日本でこのストーリーを映画化したら当たるかもしれない。


「『協力者』がそこまで協力したのは、人道の為なんですか?」

と私は聞いた。

「協力者の要求はただ一つ。種痘の専売権だ。」

「ん?という事は種痘の輸入って、グラハム博士ではなくて協力者からするのですか?」

「売買の権利も利益も全て協力者達の物だ。」

「グラハム博士は、それに納得されたんですか?」

「種痘以外の研究成果は全て博士の物だ。今はヴァイスネーヴェルラントで、腸チフスとかツツガムシ病とか寒冷地に多い風土病の研究をしておられるらしい。そもそも、北の孤島で飢え死にしかけていたのを救出してもらったのだ。研究成果の一つで済むのならば安い物だろう。」


だが、その『研究成果の一つ』でしかない物が、数えきれないほどの人間の命を救う物になるかもしれないのだ。

半年前、グラハム博士が流刑になったと聞かされて消えた希望の光が再び胸に灯った。

その協力者さんは、ヒンガリーラントに『種痘』を売ってくれるだろうか?


「種痘は、ヴァイスネーヴェルラントにあるのか?」

とお父様が聞いた。

「いや、種痘を作る為には天然痘の原因菌がいる。天然痘が100年以上流行していない西大陸にそんな物を持ち込むわけにはいかない。種痘の製造と管理はシンフィレアに残った弟子がしている。」

「グラハム博士の救出にどれほどの費用がかかったのかは知らないが、その協力者は元が取れそうだな。どれほどの値をつけられたとしても、国は種痘を買うはずだ。」

とお父様が言った。

シュテルンベルク伯爵がなんだか妙な顔をする。


「その協力者って、どこの国の人なんですか?」

と私は聞いた。


「協力者は、アルト同盟ブルーダーシュタット支部組合とそこにいるコルネリア君。そして、ヒルデブラント家のジークレヒトだ。」


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