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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第・・章

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或る日記(?視点)

王都に鐘の音が響き渡っています。


今日ヒンガリーラントの侯爵家、アイヒベッカー一族の処刑が行われました。

罪状は、ヒンガリーラントの王太子ルートヴィッヒ殿下の婚約者への陰謀罪です。

ルートヴィッヒは、婚約者を陥れたエレナローゼ・フォン・アイヒベッカーの事を決して許そうとはしませんでした。


エレナローゼと両親、妹と弟、そしてエレナローゼが所属していた光輝会の主要メンバーが連座にされ公開処刑されました。アイヒベッカー侯爵の従兄弟のアロイス卿は、エレナローゼの妹のカーテローゼは本当はエレナローゼの従姉妹なのだと言って、何とか連座を回避させようとしていました。その為の証拠も集めていたようです。しかし、間に合う事なく、今日の日を迎えました。


私はなんとなく、目の前にある日記帳をパラパラとめくりました。今年になって、貴族家の当主が処刑されるのは二人目です。半年ほど前に、ヒンガリーラントで最も平民人気のあった名門家シュテルンベルク一族が処刑されました。第一種輸入禁止草木に指定されている『夾竹桃』を栽培していたという罪でです。

告発をしたのは光輝会だったと言われています。だから尚更、ルートヴィッヒは光輝会を許せなかったのでしょう。


シュテルンベルク家が滅門してすぐ、エーレンフロイト侯爵家が王家に反逆しました。

六年前に、エーレンフロイト侯爵令嬢レベッカ姫が王宮内で殺害され、侯爵は王家に恨みを持っていたのだと思います。そして友人であるシュテルンベルク伯爵を失って、王家に見切りをつけたのでしょう。


王家はすぐに、エーレンフロイト領に軍を派遣しました。しかし、軍が勝利する事はありませんでした。『勝利』する為には、エーレンフロイト侯爵の首を取らなければなりません。しかし、エーレンフロイト領には島がたくさんあって、そこに隠れてしまえば見つける事はできなくなります。たとえ軍が領都を落としたとしても、軍が王都に引き返せば戻って来て領都を奪い返せば良いのです。生活の苦しさから海賊に身を落とした庶民が、エーレンフロイト家に味方をし、反乱の鎮圧はうまくいきませんでした。

そして、王国軍はエーレンフロイト領にかかりきりになる事はできません。ローテンベルガー家も反旗を翻していますし、王都の治安も荒れているからです。


アイヒベッカー家が処刑されるのは、王都民の王家への不満をそらす為でもあります。嫌な言い方ですが、公開処刑は庶民にとって最高の娯楽なのです。領民を虐待していたという噂のあるアイヒベッカー家を声高に罵る事で、王都民は溜飲を下げる事ができるのです。


レベッカ姫が亡くなって当分の間ルートヴィッヒの婚約者の座は空席でした。エレナローゼがその座を狙っていたようですが、結局選ばれたのはファールバッハ家のアグネス姫でした。父親のファールバッハ伯爵は情報大臣を務めていましたし、母親のベアトリクス夫人はルートヴィッヒの母親ステファニー妃の侍女で親友だったので、妥当な事だったと思います。


そのアグネス姫をエレナローゼはお茶会に招待し、自分でイヤリングを隠してアグネス姫に盗まれたと大騒ぎをしました。

後日聞いたところによると、光の性質を利用してイヤリングを隠したとのです。しかしその場で、アグネス姫は自身の潔白を証明できませんでした。


泥棒の濡れ衣を着せられたからといって、アグネス姫がすぐすぐ捕まったり、ルートヴィッヒとの婚約を解消されたわけではありません。

しかし、社交界の人達はアグネス姫を爪弾きにし陰口を叩きました。更にひどい噂が、社交界を駆け巡ります。


アグネス姫と弟のエリアスがファールバッハ伯爵の子供ではなく、伯爵の長男トビアスの子供だという噂です。


トビアスはろくでもない男でした。そのトビアスを、ステファニー妃の事を嫌っていた当時の王宮の女官長が唆し、ステファニー妃の親友だったベアトリクス嬢を襲わせたのです。


ベアトリクス嬢は妊娠し、トビアスは廃嫡されました。その後まもなくして、トビアスは娼館で死にました。娼婦が眠っていたトビアスを刺し殺して娼館に火をつけたそうです。動機は明らかにされませんでしたが、そういう目に遭うだけの理由があったのでしょう。

ファールバッハ伯爵は、ベアトリクス嬢を後妻に迎えその後エリアスとアグネスが生まれました。


その『真実』は、アグネスを打ちのめしました。


「お母様は僕達の事が本当は嫌いだったの?」

というのが、エリアスの最後の言葉だったそうです。アグネスとエリアスは手を固くつないで、自宅の屋上から飛び降りました。


その後すぐ『あいつ』が、エレナローゼの自作自演を暴露しました。あいつは、その証拠もちゃんと保管していました。

ルートヴィッヒはエレナローゼを許しませんでした。一族の処刑に関しては、ベアトリクス夫人が強硬に要求したようです。

自分は二人の子供を失ったのに、アイヒベッカー家の子供達が生きていくのは到底許せなかったのでしょう。同じ女として、彼女の気持ちは少しわかります。

そしてベアトリクス夫人がフィリックスの処刑を要求したのは、ルートヴィッヒの事が許せなかったからでしょう。くだんのお茶会にはルートヴィッヒも参加していたのに、ルートヴィッヒはアグネス姫を守りきれなかったのですから。


アグネス姫達を失った後、老伯爵は一層老け込み領地に引きこもられました。そしてまた一人、ルートヴィッヒは自分を支持してくれていた大貴族を失ったのです。

ローテンベルガー公爵には

「結局貴方も父親と同じ、婚約者を自死に追い込んだんだね。」

と言われたそうです。直後、ローテンベルガー家も王家に反逆しました。


そうしてたくさんの貴族家が失われていきました。

もともとヒンガリーラント中に蔓延した天然痘が原因で、かなりの数の貴族が死にました。その後、ルートヴィッヒの異母兄を支援していた勢力のほとんどが粛正されました。


そして今年。二つの名門家が滅門しました。もう王家に忠誠を誓っている貴族はほとんどいません。天然痘後の混乱した社会の中で国民は王室に不満を抱いており、それがいつ爆発してもおかしくない状況です。


「『あいつ』は必ず、ヒンガリーラントを滅ぼすわ。」

死んだ彼女の声が脳裏に甦ってきます。


「『あいつ』はアウグスティアンよ。あいつは、ただ面白いからという理由で人を不幸にし、国を滅ぼすわ。」


今ならば、彼女が正しかった事がわかります。

もっと早くどうにかしていれば。『あいつ』を何とかしていれば・・・。


エレナローゼを唆したのも糾弾したのもあいつ。アグネス達の噂をばらまいたのもあいつ。そして、きっと、レベッカ姫を殺したのもあいつ。

あいつのせいで国中が混乱している。問題の背後には常にあいつがいる。


もっと早くどうにかしていれば・・・。


私は考えました。『もっと早く』っていつの事?この国はいつから、破滅へ向かって転がり落ちていたのだろう?

六年前にレベッカ姫が殺された時?

いいえ、違う。十年前に天然痘が西大陸に襲来した時です。

あの伝染病のせいで、ヒンガリーラントの国民の1割もの人が死んだのです。


全員が病気で死んだわけではありません。

ただ、ヒンガリーラントの至る所で、感染者が出ると出た地域の焼棄が行われ、病人と共に病気が発症していない濃厚接触者が焼き殺されたのです。

経済が停滞し、失業者が増えると同時に犯罪者が増えて、たくさんの人達が犯罪者に殺されました。そして、弱い立場の人達から餓死していきました。


そのような社会で、どうして王室や貴族階級が敬われるでしょう。自分の住む国を愛する事ができるでしょう。

あの時から、ヒンガリーラントは破滅への道を転がり落ちていたのです。


「もし。」


私は呟きました。


「『時間』が戻せるのなら。」


『彼女』の声が脳裏に甦ります。


『貴女に、時を戻す秘術を教えてあげる。』


私は、小さく首を横に振りました。その『秘術』故に、彼女の命は失われたのです。

そして『秘術』は更なる犠牲を必要とする。


私は日記の1ページ目の日付を見ました。


『大陸歴311年、10月24日』

あの日に、始まったのです。


私は日記を閉じました。


王都の空に、鐘の音が響き渡っていました。

レベッカが死んだ後の、一周目大陸歴324年の話です。


次回からまた二週目の、大陸歴313年の話に戻ります。

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