罪と罰(4)
シュテルンベルク家の『夾竹桃問題』は、ギリギリの崖っぷちだったんだなあ、と思っていたとある午後の日。
シュテルンベルク伯爵とコンラート、そして伯爵の姉妹のリーリエさん。ローゼマリーさん。マルガレーテさんが揃って我が家にやって来た。
訪問の理由は、詫びをいれる為である。
「姉のエリカがとんでもない事をしてしまい申し訳なかった!」
エリカさんが、私がアイヒベッカー家へ行くよう唆したのだが、その件でエリカさんが司法省に罪を問われる事はなかった。エリカさんが直接エレナローゼに指図されたわけでなく、キルフディーツ伯爵夫人、その友達、エリカさんと間にいろいろ人を挟んでいたので、罪に問うほどではない、とみなされたようだ。
しかしコンラートと伯爵は激オコだったらしい。
あの日、自宅へ戻ったコンラートはエリカさんを伯爵の執務室へ呼び出し、事件の詳細を話した後
「あなたが男だったら、手袋を投げつけて練兵場へ連れて行き、両腕を切り落としたいくらい自分は怒っている。」
と言ったそうだ。伯爵は
「何で、そんな勝手な事をしたんだ!よりによって光輝会員の人間をこの家に入れようなんて。あいつらの誇りの高さと自己愛の強さ、それにレベッカに対する異常な嫉妬は、王都の人間なら皆知っている事なのに。これ以上我が家のせいでレベッカを不幸にするつもりだったのか?それでコンラートが幸せになれると思ったのか⁉︎」
エリカさんはエリカさんで、コンラートの事やシュテルンベルク家の事を考えていたはずだ。しかし、エリカさんは一言も弁解せず、司法省と伯爵の判断に従う。と言ったらしい。
結果、司法省からは罪に問わず。とされたが、伯爵には
「いつの日か光輝会員が王城への登城を許される日まで、我が家の敷地と領地に足を踏み入れる事を禁ずる。」
と言われたそうだ。エリカさんは「わかった」と言って、夫のいる植民地の島へと戻って行ったそうだ。
「僅かだが、当家からのお詫びの品だ。受け取って欲しい。」
と言ってシュテルンベルク家の人々は頭を下げた。
かつて『聖女エリカ』が身につけていたという、翡翠と水晶のブレスレット。家宝のガラス製の花瓶や絵、タペストリーなどたくさんで、全然『僅か』ではない。
シュテルンベルク家に対しては全然怒っていないし、ただ「パーティーに行ってくれ」と言っただけで、貴族というものはここまで詫びをしなければならない。という事にむしろ引いた。
「それと、アントニアの件の後、エーレンフロイト家とコルネリア嬢、ユリアーナ嬢そしてジークレヒト卿に大変にお世話になった事に感謝の品を贈りたい。これも受け取ってくれ。」
と言ってお父様とお母様、私とユリアとコルネとジークに宝石の裸石をくれた。
お父様とお母様にはルビーで、子供達にはサファイアだ。
各自の瞳の色と同じで、コルネが青緑、ユリアが青、私が花色、ジークは紫だった。
「こんな高価な物、申し訳ないです!」
私は遠慮した。けっこうな大きさの裸石だったのだ。
「もらって欲しい。庭があのままの状態だったら、大変な事になっていた。」
夾竹桃の事を言っているのだろう。まあ、確かに大変な事になっただろう事は確かだ。司法省は各貴族家についていろいろ調査を始めているらしいから。
この宝石は感謝の気持ちというだけでなく口止め料なのだ。
「じゃあ、まあ、ありがたく頂いておきます。」
と言ってジークは、紫の宝石が入った小箱を手にとった。
あれ?
何か、リーリエさんとマルガレーテさんがやけにじーっと、ジークの事を見ているような?
リーリエさんは手を頬に当てて何か考え込んでいるし、マルガレーテさんはやたら目を瞬きさせている。
二人の表情には、好奇心とか嫌悪感より、むしろ驚きの表情が浮かんでいるようだ。
もしかして、もしかしてだけど、ジーク様の正体に気がついた?
ローゼマリーさんはうちのお母様より先に結婚したけれど、リーリエさんとマルガレーテさんは20歳を過ぎて結婚をした。当然、独身の頃住んでいたシュテルンベルク家に、ヒルデブラント侯爵夫人が子供達を連れて遊びに来るのを見た事があるはずだ。
もしかして、その頃の二人の顔を覚えていた?
私でさえ空気のおかしさに気がついたくらいだ。ジーク様も何か感じとったのか
「ほんじゃ、僕はこれで。」
と言って部屋を出て言った。
うーむ。なんかまた、波乱の予感?
と思うけど、今は人様の恋愛やら婚約やらに首を突っ込んでいるべき状況ではない。
明日、我が家に事件後初。ルートヴィッヒ王子が訪ねて来るのである。




