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夏の日の金魚

なぜ、他人に無実の罪を着せる奴が嫌いなのか?というと、かつて王様がまだ王太子だった頃、愛した女性とその一族が無実の罪を着せられ、その女性を含めた一族の人間が何人も死に追いやられてしまったからだ。この辺りの詳しい事情は、第四章の『ローテンベルガー家の悲劇』という話で紹介している。


ヨーゼフやジーク様から話を聞いたお父様は、すぐさま王宮へ向かい王様に謁見を申し出た。

王様相手に怒りをぶちまけ、厳罰を要求するつもりだったらしいが、王様の方がお父様が引くほど怒っていたらしい。


「アイヒベッカーめ!我が娘に!」

と言ってプルプル震えていたらしく、お父様は心の中で「まだ、あなたの娘じゃない。」と、思っていたのだとか。


でもって、ほぼ同時刻。私は司法省の取り調べ官から事情聴取されていた。


取り調べ官から取り調べを受けるのも今年で三回目だ。

一回目は、コルネの親戚に斬りかかられた事件。二回目は、アントニアに毒殺されかけた事件。でもって、今回が三回目。

いつも同じ人が話を聞きに来るので、すっかりお互い顔馴染みである。


取り調べ官の名前はトルデリーゼ・フォン・バイルシュミット嬢。20代前半の子爵令嬢だ。

たぶん、親戚とアカデミー関係者を除いて私が一番親しくなっている貴族である。


「司法省では、女性の事情聴取は女性がするって決まっているんですか?」

と私は聞いてみた。


「いえ、必ずしもそうではないですよ。でも、未成年者から話を聞く時は大抵女性ですね。それと、貴族の方は貴族が話を伺いに参ります。」

「そうなんですか。何かすみません。何度も、何度も。」

「いいえ。『お疲れ様』なんて言ってくれる人なんて、今までレベッカ様しかいらっしゃいませんでしたもの。私、レベッカ様にお会いできるのとても嬉しいんですよ。ふふ、レベッカ様は迷惑でしょうけれど。ところで、今日はシュテルンベルク小伯爵様はいらっしゃらないのですね。」

「ええ、私を送ってくれた後自分の家に帰りました。」

「そうですか。私、小伯爵様はここに住んでおられるのかと思ってました。」


過去二回の事件の時はうちにいたからなあ。

そして、ジーク様の事もうちの住人と勘違いしているんだろうなあ。


私は今日あった事を一つ一つ説明していった。

「そんな失礼な真似をされて、よく辛抱なさいましたね。」

と、話し始めて1分で言われた。


「ルートヴィッヒ殿下の前でアバラ折るわけにもいかないですから。」

「それはそうですが。」

それから、アイヒベッカー家を立ち去るまでの説明を続けた。

アイヒベッカー家に行った動機は聞かれなかったので話さなかった。シュテルンベルク家を窮地に追い込みたくはなかったし、『悪役令嬢断罪ショー計画』など口が裂けても言うわけにはいかない。

取り調べには書記官も付いて来ていて、私の発言が一言一句書き留められているのである。

そしてその発言が裁判などでとりあげられるのだ。


「最後に、レベッカ様は当事者達にどのような処罰を望んでおられますか?」


「・・別に処罰など望んでいません。私に実害はありませんでしたし、皆さんまだ10代の子供ですから。」

「15歳を過ぎていたら子供ではありませんよ。処罰を下さないで自由の身になったら復讐されるかも、とは思われませんか?」

「向かって来たらまた叩きのめすだけですよ。百回攻撃されても百回勝てる自信があります。・・というのはまあ冗談ですけど。でも、光輝会の人達だって、家族や友達や大切な人達がいるはずですよね。その人達を悲しませたくないし、その人達に恨まれて復讐されるかもしれない事の方が恐ろしいです。」


ちなみに今私は、ブランケンシュタイン家のエリーゼ様の顔を思い浮かべている。


フィリックスに重い罰が下ったら死亡フラグが一本折れるかもしれないが、それで今関係が比較的良好なエリーゼの恨みを買うのは嫌だ。

すでにジークをかなり怒らせているので、これ以上人間関係を拗らせたくない。

ジークもステーキを食べて、少しは気持ちを落ち着けてくれると良いのだが・・・。


「わかりました。しかし、この一件はレベッカ様だけでなく王室も関係している犯罪です。単なるイタズラではすみません。かなり厳しい判決が出るものと思われます。」


恐ろしいセリフだが、でもトルデリーゼさんは私に同情し心配してくれているのだ。それはありがたい事だった。文子の中学生の時の担任に聞かせたいセリフだ。

ここまででなくていいから、あの時もう少し厳しい態度をとって欲しかった。


「それにしてもレベッカ様は、本当に知識が豊富でいらっしゃるのですね。鑑賞魚の種類にもお詳しいだなんて感服致しました。」

「好きですので、魚が。」


これについてはあまり突っ込んで聞いて欲しくないので、私は半笑いで答えた。


目を閉じると、日本で暮らしていた頃の思い出が胸に甦ってきた。


夕暮れの街並み。町内会のお祭りで、たこ焼きや焼き鳥のこうばしい匂いが道路に流れている。

アサガオの柄の浴衣を着た幼い少女が、金魚すくいコーナーの金魚達に目を輝かせている。


「うわあ、金魚さんいっぱい。すっごく可愛い。金魚さん欲しいー!ねえ、ママー、パパー、金魚すくいしたい!」

トンボの柄の浴衣を着た若い父親が、財布を出して私にお金を渡した。


私はハッピの袖をまくった。

「よっしゃー、まず姉ちゃんが金魚のすくい方の見本見せちゃるけーねー。よう見ときーねー。」



熱帯魚ショップでアルバイトをしていた私は、夏祭りの金魚すくいコーナーで、お客様の相手をするのが毎夏の仕事だった。


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