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事件の後(1)(ルートヴィッヒ視点)

血の気のない顔で、母上がベッドに横になっている。

診察した医師の話では、母上もお腹の子供も大丈夫らしい。

母上の話では、隠し部屋の中に閉じ込められていたのは15分くらいだったそうだ。

だが、複数人の男達に囲まれて危害を加えられそうになった恐怖と、閉じ込められた事に対する不安で脳貧血を起こしたらしい。


よくも、こんな卑劣な事を思いついたものだ。と、僕は歯軋りをした。


もしも母上が隠し部屋に閉じ込められた事を誰にも気がついてもらえなかったら、母上は、確実に殺されていた。だが、誰かに気がつかれたら、ちょっとした冗談のつもりだった。すぐ出すつもりでいた。と、しらばっくれる事ができる。毒を盛ったり、剣で斬りかかるのとは違う。言い逃れができる逃げ道を用意しておいたうえで、殺そうとしたのだ。


そして、もし母上が死んだら、誰が母上を殺したのかを断定するのは困難だろう。母上の死体が発見される前に、木箱が撤去されてしまったら、母上が閉じ込められていた事すら証明できないのだ。

そもそも死体が発見されなければ殺された事すらわからない。死体が発見されてもできる事といえば、母上付きの侍女や図書館の管理者の責任を問う事くらいではないだろうか。


こんな見事な殺人計画を、あのニワトリ程度の知能しかない兄が思いついたのか⁉︎

誰かに吹き込まれたとしか思えない。でも、誰に?


僕は溜息をついて軽く頭を振った。ただもう、兎にも角にもレベッカ嬢に感謝だ。

彼女がハンドベルの音が聞こえると言い出さなければ、母上は今もあの、凍えるように寒い隠し部屋の中にいたはずだ。

それに、彼女が図書館でハンドベルを失くしていてくれたから。

いや、それ以前に彼女が毎日図書館に通っていてくれたから。

チェス大会に優勝して、欲しがったものが、宝石でも理想の婚約者でもなく、図書館の入館許可だったから。


しかし、不思議なのは、ハンドベルだ。どうして、あのハンドベルは隠し部屋の中にあったのだろう?中に持って入ったのは、母上でも司書長でもない。あの兄とその取り巻きでもないだろう。

司書長以外の司書達は、隠し部屋の存在さえ知らなかった。なのに、どうして、ハンドベルが隠し部屋の中にあったのか?まさか、ハンドベルが自分で動いたはずもないし・・。

だが、そのハンドベルが隠し部屋の中にあったから母上は助かったのだ。

最初は母上も、ドアを叩きながら声を上げて助けを呼んでいたらしい。だが、数分程で声がかすれ出てこなくなった。。それで、何か大きな音が出るものはないかと部屋の中を見回し、ベルの存在に気がついたそうだ。ハンドベルは、非力な母上でも簡単に、わずかな力でとても大きな音を出す事ができた。


部屋の外が何か急に騒がしくなった。何かと思えば王宮の女官長が訪ねて来たという。

「何しに来たんだ、あの女が?」

見舞いのわけはない。

あの女は王妃の犬だ。いや。王妃があの女の犬だというべきか。

ともかく。この王宮で最も権力を持ち、威張りくさっている女だ。面会予約もなく押しかけてくるところからして、ろくな用事のわけがなかった。


部屋の中にズカズカと入って来た女官長は、体調を気遣う言葉ひとつなく、ふんぞり返って母上を睨みつけた。

「面倒な騒ぎを起こしてくれたものですね。」

「心配をかけました。」

「心配などしておりません。迷惑だと言っているのです。このような騒ぎを起こして王室の品位を何だと思っているのです!」

「なぜ、母上が責められねばならないんだ!無礼だろう。」

「殿下。わたくしは芳花妃様にお話ししているのです。女同士の話に割って入るような行いは、下品極まりないと以前にも申し上げたはずです。わたくしは忙しい身なのですから、このようなくだらぬ事を何度も言わせないでください。嘆かわしい。」

「忙しいのなら、こんなところで嫌味を言っていないで、兄上のところに文句を言いに行けばどうだ。」

「尊い御身の王太子殿下が、何の関わりがあるというのです。エーレンフロイト侯爵令嬢が、ふざけて隠し部屋のドアを触って、芳花妃殿下を閉じ込めたのでしょう。そして、自分でドアを開けた。そう、図書館からも報告があがっています。ですから、わたくしも国王陛下にそう報告しました。第二王子の立場で軽々に王太子殿下の名を出して、不敬な発言などされませんように。」


「はあっ!」

と、思わず叫んでしまった。

「何をふざけた事を言っている!レベッカ嬢は、母上の命の恩人だぞ。母上を閉じ込めたのは・・!」

「お黙りなさいっ!王室の品位を何と心得ているのです。王室の中でくだらぬ騒ぎが起こったなどと下々の者に知れたら、王国の基盤を揺るがすのですよ!まずは、このような騒ぎを起こした事をこそ恥じなさい。芳花妃殿下の不始末を処理する為、わたくしがどれだけ力を尽くしていると思っているのです。」


そう言って女官長は大仰に溜息をついた。

「事が知れれば、芳花妃殿下にとってこそ大変な不名誉になるのですよ。男達に、ひと気のない場所に連れ込まれた、などと噂をたてられる以上に女にとって不名誉な事がありましょうか。そんな事になれば、お腹の御子に関しても不名誉な噂をたてられるかもしれないのです。だからこそ、令嬢に閉じ込められたという事にしておくのが最も良い事なのです。そんな事もわからずに、ご出自の低い方は全く・・ああ、嘆かわしい。」


ふざけんなよ!と、叫びそうになった。

おまえは、ただ単に王太子の罪を揉み消したいだけだろう。その為に、被害者である母上に責任をなすりつけ、何の罪も無い子供に罪を被せる。こんな事が許されてたまるかよ!


だけど言わなかった。

こんなゲス女と話をする時間が無駄だ。どうせ、何を言ったって、全く話が通じないのだ。

この女はすでに大ウソを父上に報告している。だったら、一刻も早く父上にお会いして真実をお伝えしないと。

「もう出て行ってくれ!母上のお身体の具合がますます悪くなる。」

「わかっておられないようですので、重ねて申し上げますが・・。」

「出て行けと行っているんだ。叩き出されたいのか!」

「・・なんて野蛮な。だから下級貴族の血筋は。」

ぶつぶつと言いながら、ようやく女官長は目の前から消えてくれた。


「母上、父上に会って参ります。」

と、僕が言うと

「私も行きます。」

と言って母上は青い顔をしながらベッドから降りた。

「母上、無理をされない方が。面会を申し込んでもすぐに会えるかはわからないのですから。」

「大丈夫です。恩人が無実の罪を着せられようとしているのに、何もしないでいる事はできません。侯爵令嬢が助けてくれなければ、私もお腹の子もどうなっていたかわからないのです。その事を思えば、私自身はもちろん、お腹の子供の名誉もどうでも良い事です。陛下に本当の事をお伝えしないと。」

母上の意思も固いようだった。僕達は父上に会う為、謁見室へと向かった。


次話で第一章完結です。


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