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起きて最初にする事は

昔、クラスメイトに

「朝起きたら、真っ先に何をする?」

と聞かれた。

だから

「目を開ける。」

と言ったら、凄く変な目で見られた。

逆に聞きたいのだけど。他にどういう答えがあるの?


という事があったなあ、と何故か唐突に思い出した。

そう思っている今この瞬間。私は、まさに目を開けていた。

なんか長い夢を見ていたような気がする。

目に映るのは、ベッドの天蓋。寝ているベッドの布団はフワフワだ。ちょっと、フワフワすぎるような。もうちょっと低反発であってほしいというか。


・・・というか、ここどこ⁉︎


意識がなくなる直前まで、私はバスに乗っていたのだ。そのバスが乗用車と正面衝突して、私は意識を失った。

という事は、ここは病院?

だとしたら豪華過ぎる!

こんな広い個室、個室料とか、差額ベッド代とかがどれだけかかるか。

それにしても、事故にあったというのに全然体が痛くない。まさかと思うけど、事故にあって何年も眠ったままで、その間にケガが治った、とかいうんじゃないよね。もし、そうであったとしたら、いったいどれほどの額の個室料を払わないといけないのか・・。うあああああぁぁぁ!


私はベッドから起き上がり、鏡を探した。その鏡に映る顔が、中年の姿になっていても決して驚くまい。心の中で覚悟する。

それにしても可愛い部屋だ。外国映画に出てくる、お金持ちの部屋みたいで、全然病院っぽさがない。ベッドの側に机があるが、その引き出しの中に手鏡があると、何故か自分はわかっていた。この部屋をどこかで見た事がある。と、そう感じるのは何故だろう?

私は引き出しから手鏡を取り出した。


私は手鏡を覗き込んだ。そして。


前言撤回。めちゃくちゃ驚いた!


若返ってる!!!


しかも、この顔は文子の顔じゃない!

髪は黒いけれど、瞳の色は花色だ。肌も文子よりずっと白い。

この顔はレベッカの顔だ!!


どゆことっ!


私は腰を抜かしてしまった。

落ち着け。落ち着け、私。

これはアレだ。

状況がわからず、ぽやーっとしていたらメイドが部屋に入って来て「まあ、お嬢様お目覚めになられたのですか?」とか言うのだ。そこで、私は、自分の名前とか、年齢をメイドに聞く。というのがこのような状況における様式美というやつだ。

さあ、メイドさん。カモン!


と思ったけど、いつまで待っても誰も部屋に入って来ないし、「まあ、お嬢様(以下略)」と言ってくれない。何故っ!どこに行った、様式美‼︎


考えているうちに冷静になってきた。

よくよく考えてみたら、レベッカの家は侯爵家の割に慢性的な人手不足で、用事もないのにお嬢様の部屋を覗きにくるようなメイドさんはいなかった。だから、ここがレベッカの家で、私がレベッカになってしまっているなら、誰も入って来ないのが正しいのだ。


だけど何故?と思いつつ、自分の顔を触ってみる。

肌は、ゆで卵のようにツルツルだった。

だから、まだ、病気になる前なのだ。

いったい、今何歳くらいなんだろう?

どうしてこんな状況になったんだろう?

夢なら、覚めないでほしいと思った。


でも、もし夢じゃないのなら。これが現実に起きている奇跡だとしたら。

お母様も、弟のヨーゼフも生きているのかもしれない!

そう思うと期待と不安とで胸がいっぱいになり、確認せずにはいられなかった。私は部屋の外に飛び出した。


部屋の外の長い廊下。窓の外の景色。その全てが見覚えのあるものだった。廊下を走りながら、どこへ行ったらいいんだろうと考える。はっきり言って、我が家はなかなかな豪邸だ。太陽の向きと高さから考えてみるに、今は午後なんだろうけど、この時間に家族はいったいどこにいる?書斎?リビング?それとも寝室でシエスタ中?わからないのに走らずにはいられなかった。


玄関ホールの前まで行くと、窓ガラスを拭いている執事に会った。うちは使用人が少なく、人手不足な家なので、執事自らこういう下働きもしないといけないのだ。

私はそのままの勢いで突進!執事の背中に追突した。

「うわっ!どうしたんですか、お嬢様?」

執事が、背中をさすりながら振り返った。

「あの、お母様とヨーゼフ、それにお父様は?」


「旦那様達は、予定通り明日領地からお戻りになられますよ。明日の昼過ぎには到着するとさっき早馬が到着しました。」

「・・そ・そうなんだ。」


どうやら、家族は今家にいないらしい。思い出そうとしても、その辺りの事がよく思い出せない。なにせ『文子』の人生が間に挟まっているので、昨日の事が事実上20年以上前の事なのだ。

「・・今日帰ってくると、勘違いしてたわ。そうか、明日だったね。」

と、誤魔化してみる。でも

「淋しいなあ。」

と、言葉がつい口から出た。

「そうですね。でも、領地で水疱瘡が流行したわけですから。旦那様と奥様とヨーゼフ様は、水疱瘡にかかった事があるので免疫がありますが、お嬢様はかかった事がありません。なので、お嬢様を連れて行く事はできなかったのですよ。お嬢様を大事に思っておられるからこそ、お嬢様を王都に残されたのですから。」


説明的な言葉をありがとう。おかげで今の状況がだいぶ理解できた。

「水疱瘡も大変だけど、でも天然痘じゃなくて良かった。」

「ははは。お嬢様、天然痘のわけなんかありませんよ。北大陸みたいな辺境ならともかく、西大陸では100年以上天然痘なんて誰もかかってないんですから。」

後、数年で大流行するんだよ!

と心の中でツッコミを入れる。

気を落ち着かせる為一回咳払いして、私は執事に頼み事をした。


「新聞を読みたいのだけど、今日の新聞ってある?」

「旦那様が愛読しておられる、難しい内容のお堅い新聞と、一面に『宇宙人発見!』という記事を載せているタブロイド紙と、どちらをご覧になられますか?」

今日の日付けが知りたいだけだから、別にどちらでもかまわない。一応、両方部屋に持って来て欲しいとお願いした。

それにしても『宇宙人』とな?


確か今、私が住んでいる西大陸には、というよりこの世界には、宇宙人も地底人も雪男も魔法使いも精霊使いも魔女もいないはずだ。

もしも、魔女と呼ばれる人がいるとしたら、それは連続殺人とかをやっちゃった人の事である。


それはともかくとして。

私は部屋に戻って、執事が持って来てくれた新聞をじっくり見た。

印刷技術はかろうじてある世界だが、紙はものすごく貴重だ。新聞は、羊皮紙ではなく植物紙だが、その質の悪い事。日本のスーパーで最安値で売っているトイレットペーパーより安っぽい。執事は『一面』とか言っていたが、江戸時代の瓦版のように一枚の紙だから、そもそも二面以下は無いのだ。一番でっかくスペースをとっている記事が『宇宙人云々』なだけである。


今日の日付けは『大陸暦311年10月24日』


覚えやすい事に、私は大陸暦300年生まれだ。

つまり、今の私は11歳なんだ。


なんか、変な感じだ。心は36歳だから。


レベッカが殺されたのは、18歳の時だったから、殺されるまで後7年の時間がある。

けれど、私は殺されたくない!

病気にだってなりたくない‼︎

家族と一緒に幸せな余生がおくりたい。


だったら、これから起こるはずの悲劇を避ける為、いろいろと考えておかないと。


まず一番に避けるべきなのは、第二王子と婚約する事だ。

私は、お堅い方の新聞をじっと見た。

お隣のブラウンツヴァイクラントから使節団が来て、王宮で晩餐会が開かれたと書いてある。病弱な王妃様は欠席したので、第二妃である芳花妃様が代わりに出席したらしい。

この芳花妃様が、第二王子の母親なのだ。


ヒンガリーラントでは、王様は4人まで側妃を持てる事になっていて、それぞれ春の離宮、夏の離宮、秋の離宮、冬の離宮に住んでいる。現在、秋の離宮は誰もいないらしいが、他の宮殿には側妃様方が住んでいて、それぞれ芳花妃、蛍野妃、雪白妃と呼ばれていた。

私が第二王子と婚約したのは、芳花妃様が亡くなられた後だったので、私はまだ今現在、王子様と婚約はしていないのである。良かった・・。

私は涙ぐみそうになった。もしももう婚約していたら、親がいない今がチャンスと家出して、庶民にまじって暮らしていくくらいの覚悟だった。


芳花妃様は王妃様が生んだ王太子に殺された。


過去の私はその事をよく知らなかった。不幸な事故で死んだという噂を信じていた。

詳しい事情を知ったのは、本屋で『ヒンガリーラント王宮犯罪録』を立ち読みした時である。


王宮内にある王宮図書館には、隠し部屋があるらしい。そこに、王太子が芳花妃様を閉じ込めて凍死させたのだ。

隠し部屋の存在は、王族と図書館の司書長しか知らず、普段使いしていなかった部屋だった事もあり、芳花妃は死んだ後何日も発見されなかった。その間、王宮内では、芳花妃が行方不明になったと騒ぎになっていた。

芳花妃の侍女が、「妃殿下は、王太子殿下に連れて行かれた。」と証言したが、王太子は「自分は何も知らない。侍女の勘違いだ。」とすっとぼけた。防犯カメラとか無い世界なので、王太子の嘘を暴く手段もない。


やがて、芳花妃の死体が発見されたが、不幸な事故という事で片付けられた。芳花妃の侍女と図書館の司書長が責任をとらされて、処刑されたという。


最愛の母を殺された第二王子は、王太子に復讐した。

王太子を卑劣な手段で陥れ、王太子の地位を奪い取り、最後には『鮮血の塔』という悪名で知られる、幾人もの王族やら政治犯が投獄されて来た監獄に王妃諸共放り込んだらしい。王妃には、真冬にも薄い布団しか与えずに凍死させ、王太子には、家畜の餌のような食事しか出さずに餓死させたらしい。



それを読んだ時には、震えたものだ。


即死させてくれただけ、私はまだマシな殺され方だったんだなと思う。


そんな、恐ろしい王子と婚約とか考えられない。

たとえ不細工でも、優しく誠実な人と結婚して、孫や曾孫に囲まれた老後を過ごしたい。


なんとしてでも、婚約を回避しないと!


婚約を回避する方法を、私はいろいろと考えた。

人としてグレーな方法から、明らかにブラックな手段まで、いろいろと。


そんな中、私はふと思った。芳花妃様が殺されるのを阻止できたら、婚約しないですむんじゃないかな。

毒殺とか、撲殺とかだったら阻止するのは難しそうだが、凍死は死ぬまでに時間がかかる。だから、芳花妃様が行方不明になったと聞いたら、すぐ図書館の隠し部屋を開けてあげて、芳花妃様を出してあげたらいい。そうしたら助けられる!


そして、芳花妃様さえ無事だったなら、第二王子は権力を欲したりしないはずだ。


ただ、王宮の図書館って選ばれし人しか中に入れないんだよね。少なくとも、社交界デビューもしていない、11歳の子供は入れない。

なんとかして入る手段ってないもんかな?と考えていて。ある新聞記事が、私の目に入ってきた。


これだっ‼︎



ちなみに。

宇宙人云々の記事についてだが。どっか遠くの国の辺境の山の奥で、山菜を摘んでいたおばあさんが宇宙人と遭遇したという話を、記者が知人から聞いたのだそうだ。

おばあさんと宇宙人は大乱闘。結果、両者は川に転げ落ち、おばあさんは泳いで岸に戻ってきたらしいが、宇宙人はそのまま流れていったという。

宇宙人の存在そのものよりも、驚くべきは、ばーさんのファイティングスピリット。これくらい生きる事に貪欲でなくてはいかんな、見習わなくてはと思った。老い先短い老婆でも、これだけの闘魂を示したのだ。

私も頑張ろうと思ってから、そっちの新聞はゴミ箱に放り込んだ。


面白そう。更新頑張ってね!などと思って頂けましたら、ブクマや期待を込めて☆☆☆☆☆を押して頂けると励みになります。

どうか、よろしくお願いします^ ^

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