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帰宅と報告

私は、ヨーゼフとコルネリア、コンラートと一緒にエーレンフロイト邸に戻って来た。むろん、当然のようにジークも一緒だ。


家へ戻ると、お母様はお気に入りの侍女達と一緒にお茶会の最中だった。

お母様の侍女達に、ユリアにユーディット、ドロテーアやカレナもいる。たぶん、貴族ではないという理由で除け者にされてしまったユリアを慰める会なのだろう。お母様は私の顔を見るなり


「もう戻って来たの⁉︎」

と言った。

「まさか、また何か騒ぎを起こしたのではないでしょうね?」

「・・・。」

「本当に騒ぎを起こしたの⁉︎ちょっと!アイヒベッカー嬢に大怪我なんかさせていないでしょうね⁉︎」


お母様の私に対する信頼の低さよ。

私が普通に中身年齢13歳だったらグレてるからね。


「侯爵夫人。そんな愉快なセリフを言ってる場合じゃないですぜ。ヒンガリーラントの貴族名簿から、侯爵家が一つ消えるかもしれません。」

とジークが言い、コンラートも

「至急、エーレンフロイト侯爵に面会できるでしょうか?報告したい事があります。」

と言った。お茶を飲んでいたゾフィーが部屋を飛び出して行った。


「お嬢様、お怪我はありませんか?」

と言ってユーディットが私の手をとった。母親がひどい分少しうるっときたが、3秒後私の手に人を殴った跡がないか確認しているだけだという事に気がついた。

アイヒベッカー家で何度もブチ切れそうになったのを、素数を数えて我慢していたというのに、今ブチ切れそうになった。

ちなみに素数は701まで数えた。


「ベッキー様大丈夫ですか?何があったのですか?何か辛い思いをされたのですか?王子にひどい目に遭わされたのですか?」

ユリアのセリフは一応不敬罪に相当する。でも、私の味方は彼女だけのようだ。ありがたい事だと思った。



婚約破棄を夢見て意気揚々とアイヒベッカー家に乗り込んだ私は、エレナローゼ嬢を一目見て思わず

「おー!」

と言いそうになった。

すごい!胸が大きいのに腰は細い。お腹なんかぺったんこだ。

文子時代に、お胸がFカップのクラスメイトがいたが、彼女よりまだ大きいのでは!という胸だった。しかしそのクラスメイトは腹も出ていた。人体の作りとはそうなるようにできているのだ。だから、美容整形も脂肪吸引の技術も無いこの世界でこのスタイルを維持するなど、きっと血尿出そうなほどの自制と自己鍛錬をしているに違いない。そこは尊敬した。

尊敬するから、一回揉ませてくれないかなあと本気で思った。


正直、彼女達の『頭脳』とやらには、ひとかけらの期待もしていなかった。

彼女達がヒンガリーラントにいてくれるおかげで、科学や工学が一歩進んだ。なんて話は聞いた事がない。文子だった頃テレビで、同じ人間だと思えないくらい賢い高校生や大学生が出てくるクイズ番組を見た事がある。

そんな方々に比べたら、単なる井の中の蛙集団だろうと思っていた。


そして実際その通りだった。

自分に対する自信に満ち溢れ他人にやたら攻撃的なところが、エリートというより、ゲーセンでやたらイキっているヤンキーのようだ。地元では無敵な存在なのかもしれないが、大都会に出てホンモノの半グレとエンカウントしたら風の前の塵のように霧散するだろう。

実際、エレナローゼ嬢は頭に血が昇った果ての失言で自爆してしまった。いつか絶対誰かが失言して、誰かが後ろから刺されるだろうと思わずにいられない集団だったが、それにしても早かった。

もしかしたら今までにも失言はあったのかもしれないが、仲間内で、しかも酒が入っていたら許されたのだろう。この度は、他派閥の現職大臣の子供達がいたので許されなかったのだ。



でもって、現在。お父様の執務室。

私とヨーゼフとコルネ、ジークとコンラートはお父様とお母様に本日の騒動を報告中である。

と言っても喋っているのはコンラートにジーク、ヨーゼフと男性陣で(?)私とコルネは黙っていた。

お母様は途中でめまいを起こして、ゾフィーとビルギットに支えられ、黙って聞いていたお父様は額に青筋が浮かんでいる。


「絶対に許さぬ、アイヒベッカー家め!王宮に抗議を申し入れる!」

お父様はカンカンだ。

ゾフィーもユリアも、何も言わないが明らかに顔が怒っている。


「それにしても、ガラスのコップの下に物を置くと本当に見えなくなるの?」

「見えなくなったんだよ、お母様!」

とヨーゼフが言う。

「信じられないわ。ゾフィー、ガラスのコップにエールを入れて持って来てちょうだい。」

「かしこまりました、奥様。」

と言ってゾフィーが出て行った。


「それにしても、辛い思いをしたね。可哀想に、レベッカ。」

「あ、お父様。全然大丈夫。というより、今年戦った相手の中で最弱だったから。」


アクション系の少年マンガとかゲームだと、一番最初に出てきた敵を苦労して倒したら、次にもっと強い敵が出て来て

「ふふふ、おまえが倒したあやつは四天王の中では最弱・・・。」

とか言われたりするけれど、現実世界では、弱い順に敵が出て来てくれるなんてそんなありがたい事はあり得ない。

強い敵、弱い敵、強くはないけれど嫌な敵、というのがランダムに、まるでガチャのように出てくるのだ。

そういう意味では、今日の敵は金魚を眺めている間に瞬殺だった。


「アーベルマイヤー家のコンスタンツェの方が弱かったんじゃないのか?」

とジークが尋ねた。(第二章の手紙の行方で、戦った伯爵令嬢です。)

「いや、彼女はなかなか恐ろしい敵だったよ。ジーク様が指摘してくれなきゃ、悪意に気がつけなかったもの。で、知らない間に王子殿下への不敬罪って事になって、首とお別れする事になっていたかもしれない。」


海賊は騎士団がいてくれないと倒せない敵だったし、ハイドフェルト家の二人組は、いいタイミングで騎士が駆けつけてくれなければ困った状況になっていたかもしれない。アントニアはとにかく気色の悪い敵だった。


それに比べてエレナローゼ嬢は、悪意を隠しもせずダダ漏れさせていて、最終的には王宮の近衞騎士達に連行されて行ったが、いざとなればあのほっそい腰ならワンパンで沈められた。


それにしても、失敗した。

『悪役令嬢』になって断罪され、婚約破棄をされる予定だったのに、現実に悪役にされてしまうと、我慢できずにむしろ相手を破滅させてしまった。

一応、素数を数えながら私も限界まで我慢したのだ。

なのに、王子様が「男達の服をひん剥く」なんて言うから!


ジーク様の服がひん剥かれてしまった後に私がドヤ顔でイヤリングの隠し場所をバラしたら、18歳を待たずに私はジーク様に殺されてしまう!


「あーあ、計画失敗したなあ。」

「計画って、何?」

お父様に聞かれた。


やばい!

声に出ていた。

まさか『悪役令嬢断罪ショー』を計画していたとか言うわけにはいかない。


「え・・えとね。実は、今日会ったこともないアイヒベッカー家に行ったのは、シュテルンベルク伯爵の上のお姉様に頼まれたからなんだ。コンラートと、キルフディーツ家のアデリナ嬢を見合いさせたいから、コンラートを誘ってアイヒベッカー家に行ってくれって。」

「はあっ⁉︎」

「お姉様!それはコンラートには秘密にしとけ、ってお母様が。」

ヨーゼフが慌てて言った。


そうだったけど、別にもういいじゃん。アデリナさん、近衞騎士に連行されて行ったし。


と思ったけど、なんか怒りの波動がやばい。

ジーク様の。ちなみに、さっき「はあっ⁉︎」と叫んだのはジーク様だ。


「ベッキー、ヨーゼフ!君らはあのカス女をコンラートに押し付けるつもりだったのか!」

「・・カス女って。まあ・・カスっちゃあ、カスか。」

「コンラートの相手ならば、『歓びの館』の三美人の一人、メヒディルデ姐さんくらい美しくて優しくて教養があって慈愛深い女性でなければ僕が許さん!何が悲しくてあんなバカ女⁉︎」

「やかましい!」


地の底から響くような、ひっっくい声でコンラートが言った。

やばい、こっちもめちゃくちゃ怒っていらっしゃる。


「まあ、アレはかなりひどかったよ。エリカさんも何を考えてあんな女性を。計画が失敗して良かったよ。」

とヨーゼフが言った。

10歳にそう言われる16歳って、悲しすぎるぞ。アデリナ嬢!


「帰ります。」

と言って、コンラートがゆらりとソファーから立ち上がった。

「そして、伯母を司法省に引き渡します。」

「え、ちょっと落ち着いて。コンラートお兄様。」

「アイヒベッカーは、最初からベッキーを陥れるつもりで呼び出した。伯母は、それに協力したんだ。あの女に協力をした可能性があるというだけで、光輝会員達は拘束された。伯母の罪は奴らよりも重い。」

「いやー、エリカ様はそんなつもり無かったと思うよ。単に利用されてしまっただけで。」

「アイヒベッカーは、反逆罪で捕えられたんだぞ。貴族は、利用される事があってはならないんだ!」


えー。って思う。

パーティーに一緒に行こう。とかあのパーティーに行って。くらい、誰だって言うでしょ。

それで、私が誰かを誘ってその人が事件に巻き込まれたら私も責任とらされるの?そんな馬鹿な。


だけど、コンラートは足音も荒く出て行ってしまった。

「うわー、余計な事言っちゃった。どうしよ。」

だけどお母様もお父様も冷ややかだった。


「後からバレるより先に出頭しておいた方が良いわよ。」

「どうしてレベッカは、そんなに落ち着いているんだ。もっと怒り狂っても良いんだぞ。」


・・結局、二人も貴族なんだな。私の考え方の方が貴族社会ではおかしいのだ。


「ベッキーいいぃ。ヨーゼフうぅ。おまえら許さんからな!こうなったら、あの女共が公開処刑にされる日まで、この家に居座ってやるう。毎日、仔牛のステーキを出してくれないと許さんからな。」

恨みのこもった声でジークが言った。


「何馬鹿な事言ってるんですか。公開処刑って、そんな、もう。」


「・・・。」


なぜ?なぜっ、誰もなんとも言わないの⁉︎嘘でしょ!ねえ!


「お待たせしました。誰がこんな昼間からエールを飲むんだ?って、料理長に根掘り葉掘り聞かれてしまって、説明に手間取りまして・・。」

と言いつつ、ゾフィーがエールを入れたガラスコップを持って戻って来た。


「ゾフィー。仔牛肉一頭分買って来てちょうだい。」

「え⁉︎奥様、それも何か今日の事件と関係あるのですか?」

「お願い。」

と言ってお母様は指から指輪を抜き、テーブルに置いてその上にガラスコップを置いた。


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