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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第五章 毒が咲く庭

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光輝会(9)(ルートヴィッヒ視点)

ジークは、エールの入ったコップをイヤリングの上に戻した。


「おお、見えなくなった。」

そして、またコップを持ち上げる。

「うーむ、すごいなあ。」


ヨーゼフやエリアス、アグネス達が寄って来て覗き込む。

ジークはまた、コップをイヤリングの上に置いた。


僕はキレた。


「ふざけるなあああぁっ!」


喉が裂けんばかりの大声で僕は叫んだ。


「エレナローゼー。どういうつもりだーっ!」


エレナローゼは、不貞腐れたような顔をして叫んだ。

「身の程知らずのその女に教えてやったのよ。私の方がおまえより優れている!ルーイ様にふさわしいのは私。なのに、身を引かないからそうなるように仕向けてあげたのよ。おまえが、いつまでも身の程をわきまえないからだわ!」


「いや、おまえベッキーよりバカじゃん。」

とジークが言った。

エレナローゼが、憤怒の表情でジークを睨みつける。


「私の方が優れているわ。顔もスタイルも家柄も、もちろん頭も!おまえなんか。おまえなんか。おまえなんかーっ!」


低級な動物霊でも取り憑いたのか、というような逆ギレぶりだ。


「犯罪者の子孫のくせに!顔も不細工で、アカデミーみたいな低能の集まりで馬鹿共に持ち上げられて、勘違いしている馬鹿女のくせに。おまえなんか、ルーイ様にはふさわしくない。王妃にふさわしいのは私!最も賢い女が王妃になるべきなの。それにふさわしいのはおまえじゃない!この私よ!」


ギョッとした。

やばい!と光輝会員達さえ思ったようだ。

我が国にはちゃんと今『王妃』がいるのだ。そして、王妃を任命する権利を持つのは国王だ。王族の婚約者でさえないエレナローゼのこの発言は、事実上王家への反逆だ。


「黙れ、この慮外者!」

僕はエレナローゼの頬を平手打ちした。

「うおっ。」

と呟いて、レベッカ姫が後ずさる。

僕だってレベッカ姫の目の前で暴力など振るいたくない。

だが、これくらいはっきり行動で示さなければ、反逆の共犯にされるのだ。そして、このお茶会自体が、反逆者の決起集会と思われる。

ここにいるのが光輝会メンバーだけなら、発言が外にもれる事もないかもしれないが、ここには現職の医療大臣や情報大臣の子供達がいるのだ。何があって、どのような発言がなされたかは必ず外部にもれる。


倒れ込んだエレナローゼが、信じられない、という表情で僕を見た。

この段に至っても、このバカ女は何も理解していないらしい。

僕は近衞騎士達の方を振り返った。

今、この会場には、僕とフィリックスの護衛として6人の護衛騎士達がいる。レベッカ姫やヨーゼフ、コンラートも護衛騎士を同伴させていたが、エレナローゼが会場への入室を拒否し隣の控室に待機していた。だが、王族を警護する護衛騎士はエレナローゼも拒否できなかった。


僕は一瞬声を飲み込んだ。握りしめた手が震えた。

それでも、僕はこの言葉を言わなければならない。

「エレナローゼは、侯爵令嬢であるレベッカ姫を無実の罪で陥れようとした。そして王族である私を欺こうとした。更には、王家に対する反逆の言葉を口にした。エレナローゼと家族そして・・光輝会の全メンバーを拘束しろ!」


ざわっ!

と空気が揺れた。

「そんな、ルーイ様。どうして⁉︎」

とアデリナが叫んだ。


「自分がベッキーを何と言ったのか忘れたのか⁉︎当然の報いだ。」

とコンラートが言った。


「俺達は関係無い!」

叫ぶダーヴィッドを僕は睨みつけた。


「自分には罪が無いというのなら、自慢の頭脳で無実を証明してみろ。レベッカ姫はそうしたんだ。」


光輝会メンバーの女子達が座り込んで泣き出した。

シルヴィオはドアから逃げ出そうとしたが、護衛騎士がドアの前に立ち塞がった。


僕はフィリックスと目が合った。フィリックスの方が先に目を逸らした。


「それにしても、ベッキー。よくこんな隠し場所に気がついたな。」

とジークがレベッカ姫に言った。


「蝶の羽が色鮮やかなのは、違う波長の光を反射するからなのよ。」

「えっ?」

「自分が知っていて他人が知らない知識は、喜んで披露しそうなタイプなのに言わなかったのがおかしいと思っていたの。だからイヤリングが無いと騒ぎ出した時、光の性質を利用して隠しているのだ、ってすぐわかったわ。ガラスの水槽や金魚鉢とか、いろいろ利用できそうな物はあったけれど、一番手軽なのはガラスコップだからまずコップを確認したの。皆に蝶の羽の色について質問したのは、光の性質に詳しい人間がいるかどうかきっと確かめる為だったのよ。」

「なるほど。ベッキーは光の事なんか知らないと思い込んで墓穴を掘ったってか。」

「温かい飲み物より冷たいお酒が多かったし、そんなにお酒が好きなのかしらと思ったけどほとんど飲んでないし、それも変だなと思ったの。」

「つまりお姉様は、本当は蝶の羽がカラフルな理由がわかっていたのに、答えなかったの?」

とヨーゼフが姉に質問した。


「・・だって、会話を広げたいって思える人達ではなかったのだもの。」

「ヨーゼフ。君のお姉様はね。信頼できない相手に手の内を全部明かすようなトンマな真似はしない人だよ。」

とジークが言った。

もしかして本当は、彼女は数学の話も哲学の話もちゃんと理解していたのではないだろうか?

へたり込んでいたエレナローゼが、レベッカ姫とジークを睨んだが二人とも何の痛痒も感じていないようだった。


「立て!」

と言って騎士の一人がエレナローゼの腕を引っ張った。

「触らないでよ、無礼者!」

騎士は無視してエレナローゼの腕を捻り上げた。罪がはっきりしている分エレナローゼと妹のカーテローゼに騎士達は遠慮しなかった。

「え?・・え?」

状況が理解できないらしく、カーテローゼはただ真っ青になって震えていた。


しかし騎士達も、どうしたものかと困っている相手がいる。フィリックスだ。

フィリックスは本来彼らの護衛対象なのだ。フィリックスが幼い頃から護衛騎士をつとめていた者もいる。

「殿下・・。」

「触らないでくれ。自分で歩ける。」

落ち着いた口調でフィリックスは言った。フィリックスは一言も弁解しなかった。そして僕と、最後まで目を合わさなかった。



「帰ろう。」

コンラートがベッキーの肩を抱いて言った。

「ヨーゼフ。コルネリア。帰るぞー。」

とジークが二人を振り返って言った。


「僕達も帰ろうよ。」

とエリアスがアグネスに言った。

「うん。ユーシーも帰りましょう。」

とアグネスがユスティーナ嬢に声をかけた。


他の客達も、慌てて帰ろうとし始める。

僕はコンラートの背中を睨みつけた。本当は僕がレベッカ姫を家まで送りたい。エレナローゼなんかに辱められた彼女の手を握って慰めたい。

しかし、光輝会員達を放り出して無責任な事をするわけにはいかなかった。なにせ、光輝会員は12人。カーテローゼも含めて13人も6人の騎士達で連行しないとならないのである。更にエレナローゼの両親と弟も拘束しなくてはならない。拘束の命令を下した僕が騎士達に丸投げしてエーレンフロイト邸までレベッカ姫を送るわけにはいかなかった。


騒ぎを聞きつけた使用人達が駆けつけて来たが、誰も抵抗したり抗議したりする事もなかった。使用人の忠誠心のレベルが知れるというものである。中には泣き叫ぶエレナローゼを見て、ニヤニヤと笑っている使用人までいた。


僕はレベッカ姫の背中をずっと見つめていた。レベッカ姫は一瞬金魚鉢を振り返り、それから会場を後にした。

自意識過剰なお馬鹿達は、理系の高校に通っていた文子の敵には到底なれませんでした。


次からまた、レベッカ視点の話になります。よろしくお願いします。

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