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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第五章 毒が咲く庭

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光輝会(8)(ルートヴィッヒ視点)

「レベッカ姫が、そんな事するわけないだろう!」


と僕はすぐさま叫んだ。


「そうだよ。お姉様はそんな事しない!それにお姉様がどこに隠してるって言うんだ?お姉様の服にはポケットが無いのに。」

とヨーゼフも叫んだ。

そんなヨーゼフをエレナローゼが睨みつける。

「会場の外に持ち出したのかもしれないわ。ルーイ様が、ガラティナについて質問された時にはまだイヤリングはあったの。耳に触れて確認したから間違いないわ。カーテローゼはそれよりも前に会場を出て行った。その後会場を出て行ったのはエーレンフロイト令嬢だけよ!」


「君が中庭へ行け、と言ったからレベッカ姫は出て行ったんじゃないか!君がそう言わなかったらレベッカ姫は会場を出なかった。」

僕が言うとエレナローゼは

「その時は、違う理由をつけて会場を出て行ったのではないの?ご不浄に行くとかね。」

と言った。


「本当に他に出て行った者はいないのか?」

とジークレヒトが、一番ドアの近くにいて飲み物のサービスをしていた従僕に聞いた。


「カーテローゼお嬢様が出て行かれた後出て行かれたのは、エーレンフロイト様だけです。」

「だからと言って!」

「落ち着けルーイ。誰が盗んだのかは身体検査をすればすぐわかる事だ。」

フィリックスが僕の肩を叩いて言った。

「それで、いいな?みんな。」


フィリックスはこの場にいる人間の中では、僕に次いで身分が高い。誰もフィリックスには文句を言わなかった。


『身体検査』と言っても、このような場で女性達が着る服にはポケットが無い。だから受けるのは男だけだ。身体検査をするのはアイヒベッカー家の使用人達だが、身分差を考えると服のポケットに手を突っ込んだり、服をひん剥いたりはできない。ポケットの外側からポケットを叩くくらいである。正直、こんな簡易検査でわかるのだろうかと思わずにいられない。


ポケットの中に手帳や筆記具を入れていた者が中身の確認をされていたが、結局イヤリングは出てこなかった。

会場の中ではざわめきが大きくなる。

エレナローゼの言葉にうなずく者、納得できないという顔をする者。だが一番多いのは、面倒ごとに巻き込まれたくないと不安そうな顔をしている者だ。

そう考えている者達は、とにかく誰でもいいから早く犯人が見つかってほしい、と願っているのだと思う。

そんな空気の中で、エレナローゼが顔を両手で覆って「わあっ!」と泣き出した。


「ひどい!あのイヤリングはお祖母様の形見の品で、とっても大切な物なのに。返してよ。エーレンフロイト嬢。」

「私は、持っていませんけど。」

とレベッカ姫は言った。


途端に光輝会の連中が激昂した。


「おまえ以外の誰が犯人だというんだ⁉︎誰も、エレナのイヤリングを持っていないんだぞ!」

「君には動機もあるしな。同じドレスを何度も着回して、アクセサリーも貧相なブローチだけ。エレナのつけていた物が羨ましかったんじゃないのか?」

「まさか、エレナ様がルーイ様と仲が良いから嫌がらせをしてやろうとでも思ったの?心根が醜すぎるわ!こんな人が侯爵令嬢だなんて。」


「いい加減にしろ!レベッカ姫が盗んだ証拠なんかどこにも無いだろう⁉︎」

と僕は叫んだ。

「だが、『盗んでいない』という証拠も無い。それとも、侯爵令嬢という身分の人間は卑劣な真似は絶対にしないと、おまえは言うのか?」

とフィリックスが言った。


断じて、そんな事は思っていない!

正直に言う。僕は侯爵令嬢であるエレナローゼを疑っている。


レベッカ姫が疑われているのは、エレナローゼがレベッカ姫を名指しで会場の外に出したからだ。イヤリングがいつまでは確かにあった、と言っているのもエレナローゼだけだ。そして、一番の違和感。エレナローゼがつけているアクセサリーの中で、イヤリングだけが小さく貧相だった。

あの小ささ、薄っぺらさなら、どこにだって隠せるはずだ。それこそ靴の中や、口の中にだって。エレナローゼほど見事な谷間があれば、胸の間にだって隠せるだろう。まさか、手を突っ込んで確認するわけにはいかないが。


そもそも、従僕共も信頼できるのか?エレナローゼの仲間だったら、奴らが確認して回っても意味がない。ダーヴィッドやシルヴィオの服のポケットに隠して『ポケットの中には無い』と言えばいいだけの話だ。

つまり、これは最初から仕組まれた罠だったんだ。

レベッカ姫を呼び出し、わざと小さなイヤリングをつけて来てレベッカ姫に濡れ衣を着せる為の。


どうしたらいい?

考えろ、考えるんだ?

レベッカ姫が会場を出て行くまでは、エレナローゼは僕の側に張りついていた。だけど、その後コルネリア嬢に話しかけていた。

その間、僕はフィリックスと話をしていた。エレナローゼはその間に何をしていた?何か怪しい動きをとっていなかったか?


くそ!思い出せない。


僕はずっと、ドアの方を見ていた。その方向に、蝶の標本が飾ってある。そこにはエレナローゼは近づいていない。

僕の後方には、ガラスの水槽がある。もしかして、その中に隠したとか?でも、水槽の周りには常に誰かがいた。そこに何かを投げ入れたら、誰かが見ているだろう。水音だってしたはずだ。


「まさか、本当にエーレンフロイト姫君が?」


日和見だった連中が、光輝会の言い分の方に傾き出した。

ヨーゼフは、キッ!とした表情でエレナローゼを睨んでいる。コルネリア嬢は、不安そうにレベッカ姫を見つめていた。コンラートは、床に視線をやってずっと何かを探している。ジークレヒトは、手を顎に当てて考え込んでいた。僕同様、エレナローゼの行動を思い返しているのかもしれない。


「エーレンフロイト姫君はシュテルンベルク家の本を盗んだ、ってさっき言っていたしな。」

とシルヴィオが言った。

「盗むのって癖になるって聞いた事あるわ。クレプトマニアって病気なのよ。」

アデリナが雑学を一つ披露する。


悔しくて僕は唇を噛んだ。


しかし、エレナローゼ達はこの騒ぎをどう展開させていくつもりなのだろう?エレナローゼ達は、レベッカ姫を犯人だと言っている。

しかし、レベッカ姫が犯人のわけはないから、彼女の周囲からイヤリングが出てくるわけがない。だったら、レベッカ姫を司法省に逮捕させるわけにもいかない。


この集まりを解散させた後、

「中庭に隠してあったのを見つけたわ。やっぱりレベッカ姫が持ち出していたのね!」

とでも言うつもりだろうか?


それに、エレナローゼのこの自信は何なのだろう?自分がイヤリングを隠したとして。

そのイヤリングが絶対に見つからないという自信があるのだろうか?どこに隠せば、絶対に見つからないという自信が持てるのだろうか?


やっぱり、光輝会メンバーの服のポケットが怪しい。


「レベッカ姫は、絶対に犯人じゃない!もっと徹底的に調べよう。服に隠しポケットは無いか、靴の中に紛れ込んでいないか、それこそ男共は、服をひん剥いてでも僕が近衞騎士達と一緒に調べる。覚悟しろ!」


ここまで言えば、犯人が動揺するのではないかと思って言ったのだが、なぜか一番激しく反応したのはジークレヒトだった。


「殿下。いくら何でもそれは・・。」

何故だ、コンラート⁉︎何で光輝会員共じゃなくて、おまえが反対するんだ!


エレナローゼが涙を拭いながら言った。

「ええ、徹底的に調べましょう。でも、そこまでやって、私の大切なお客様達に迷惑をかけて確認して、やっぱりエーレンフロイト嬢が犯人だったという事になったら、いったいエーレンフロイト嬢はどうやって責任をとってくれるのかしら?」


エレナローゼの口元は笑っていた。加虐趣味的な笑いだ。絶対にイヤリングが見つからない、とこいつはわかっている。


レベッカ姫が天を仰いだ。

「わかりました。」

そう言って、飲み物が置いてあるテーブルの方に歩き出した。

「私も本気で探します。」


「・・今まで本気じゃなかったのかよ。」

とフィリックスが憎々しげに言った。


レベッカ姫は、飲み物のサービスを担当していた従僕の側のテーブルに近づいた。

テーブルの上には、ガラスコップに入れられた冷たい飲み物が並んでいる。

レベッカ姫は赤ワインやオレンジジュースといった、不透明な飲み物が入ったコップだけでなく、レモネードやエールといった透明な液体が入ったコップも持ち上げた。


「何してるんだ?」

とフィリックスが聞いた。


「ガラスコップの下に、イヤリングがないか見てます。このコップけっこう上げ底なので、小さなイヤリングくらいなら隠せるのではないかと思うんです。」


そう言って全てを確認した後、エレナローゼの方へ歩き出した。

エレナローゼのすぐ横のテーブルには、3つのエールの入ったガラスコップがある。1つは、僕の為にカーテローゼ嬢が持って来てくれたもので、僕は口をつけていない。あとの2つは、エレナローゼとダーヴィッドの飲みかけのコップだ。ダーヴィッドのコップは底から数センチしかエールが残っていなかったが、エレナローゼはほとんど口をつけていなかった。


レベッカ姫はひょいと、ダーヴィッドのコップと僕用に持って来られたコップを持ち上げた。


「何をするんだ!」

とダーヴィッドが大声を出した。


「イヤリングがないか確認してます。」

「見ればわかるだろうが!エールは透明なのだから。」


自分のコップに触れられるのが嫌なのはよくわかる。ドリンクが透明なのだから見ればわかる、と言いたくなる気持ちもわかる。

だけど、そんなひどい言い方をしなくてもいいだろう、と僕が言おうとした時。


「見てもわかりませんよ。光の屈折の仕方は、空気とガラスでは全く違いますから。」

とレベッカ姫が言った。


「・・・え?」

とダーヴィッドが間の抜けた声を出した。

「ベッキー様、どういう意味ですか?」

とコルネリア嬢が質問した。


「んー、簡単に言うとガラスを通すと見え方が変わるのよ。メガネとか望遠鏡はその性質を利用しているの。で、イヤリングとかコインとか、小さくて薄っぺらい物を液体の入ったガラスコップの下に置くと見えなくなっちゃうのよ。」

「なんでですか?」

「まあ、ガラスがそういう物だから、としか言いようがないけれど。あ、アイヒベッカー嬢。そのコップの下も見せてもらえますか?」

「嫌よ!触らないで!」

エレナローゼは目を吊り上げて叫んだ。


「一瞬持ち上げてくれたらいいんですけれど。」

「嫌よ!どうしてそんな事をしないといけなの。失礼にもほどがあるわ。」

「どうして、と聞かれたらあなたのイヤリングを探しているからなのですけれど。ね、ちょっとだけ。」

「冗談じゃないわ!本当に無礼な人ね。」

エレナローゼは自分のコップを手で押さえた。


おかしいだろ!


別にイヤリングがそこに無いのなら、コップくらい持ち上げて見せればいいのだ。頑なに拒む事に違和感しかなかった。


実際隠し場所としては理想的だ。妙な動きをする必要はない。イヤリングをそっと外し、もう片方の手でコップを持つ。そしてコップをテーブルに戻す時、コップの下にイヤリングを滑り込ませるのだ。

他人のコップに触る奴はいない。もしもいたら怒鳴りつけてやればいい。だからイヤリングが見つかる事は絶対に無い。


つかつかと足音がした。コンラートがエレナローゼの側に歩いて来たのだ。そしてコップを押さえていたエレナローゼの手を掴み捻り上げた。

「痛い、痛いー!」

叫ぶエレナローゼの横で、ジークレヒトがコップを持ち上げた。


「おお!本当にあった。」

とジークレヒトが言った。

テーブルの上には確かに、銀色のイヤリングが一つ、ちょこんとのっていた。


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