表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第五章 毒が咲く庭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/561

シュテルンベルク家の9年の物語(3)(オイゲン視点)

王都から遠く離れた土地にコースフェルト男爵という方の領地がありました。

その男爵と、後継者である一人息子が、船の事故で同時に亡くなられました。男爵位は遠縁の男性が継ぐ事になりました。

コースフェルト男爵は貧乏な男爵家でしたが、新男爵は母方の祖父が有能な投資家で、たくさんの資産を相続している方でした。


つまり、ヒンガリーラントに大富豪の新しい男爵が誕生したのです。

新男爵が独身だったので、社交界の独身女性達は色めき立ちました。しかし、一部の男性達は激しく嫉妬しました。主に継ぐ爵位の無い次男や三男の方、それに貴族とは名ばかりの困窮した家の方々です。


社交界に憧れて、心を躍らせて田舎からやって来た純朴な若者を、その男性達は意地の悪い仕方で迎えました。

それにペトロネラ様も加担したのです。男性達は、ペトロネラ様が男爵に好意を寄せていると吹き込み、庭園で男爵を待っていると囁きました。最高級品の化粧品を使っているペトロネラ様は若くはなくても都会的な美人です。男爵は有頂天になって、庭へ向かいその場にいたペトロネラ様に、自分もあなたに好意を持っている。と言いました。

するとペトロネラ様は高笑いをし、聞くに耐えぬ暴言で男爵を侮辱しました。まだマシな単語として『田舎者』『身の程知らず』という言葉を使ったようですが、現実には更に卑猥で軽蔑的な言葉をつらつらと並べたようです。そこに男達が現れ、こんな簡単に騙されると思わなかった。と皆で腹を抱えて笑ったそうです。


酷い話です。

貧乏で地位の無い男達、自分の人生が思い通りにいかない事にストレスを抱えているペトロネラ様は、自分より恵まれているように見える人を笑い物にする事で溜飲を下げたのでしょう。

しかし、侮辱された側が反撃しないわけがあるでしょうか。


コースフェルト男爵は、立派なご性格の方で貧乏だった相続した領地の都市整備を自腹を切ってでもしようとしておられました。それにあたり大量の大理石を、シュテルンベルク領に発注しておられたのです。

大理石は有能な建材ですが、なまじ丈夫なだけに、戦争や大地震でも起きて都市が崩壊しない限りそう大量に売れる物ではありません。

平和な世の中でポツポツとしか売れなかった大理石が、何十年ぶりに大量に発注されたのです。シュテルンベルク領は湧き立ちました。

石を削る者、運ぶ者、美しい彫刻を施す者、たくさんの雇用と収入が生まれるはずでした。経済効果は計り知れないものでした。


しかしペトロネラ様がリヒャルト様の従姉妹であると知れると、コースフェルト男爵は大理石の発注を取り消しました。

何倍もの資金がかかっても、大理石を外国から輸入すると言われたのです。

事情を知ったリヒャルト様は、ペトロネラ様に対して激怒しました。


リヒャルト様は、執務室にペトロネラ様を呼び出しました。


「どうしたの、リヒト?」

「ペティー、私は決意したんだ。エレオノーラとは別れるよ。私と結婚してくれないだろうか。君に新しい伯爵夫人になって欲しいんだ。」

そう言われた時。ペトロネラ様の頬が薔薇色に染まりました。歓喜の笑みを浮かべ、鼻の穴が大きく膨らみました。


「嬉しい、リヒト!」

「・・・などと言うと思ったか?」

「・・・・えっ?」


ペトロネラ様は呆然とされました。そして、怒りで目をつりあげられました。


「ひどい、リヒト!私の気持ちをわかっているのに!」

「おまえも、同じ事をしたのだろうが!コースフェルト男爵に!」

そう言ってリヒャルト様は、執務室の机をバンっ!と叩かれました。


「私が社交界の事を何も知らないと思っているのか!おまえ達がコースフェルト男爵にした事を知らないとでも思っているのか⁉︎」

「あんな田舎貴族が何だって言うのよ!どうして私があいつのせいでこんな侮辱を受けないといけないの。」

「黙れ!おまえより、遥かに高位の貴族なんだぞ。おまえが男爵を侮辱したせいで、金貨2万枚分の大理石を売る話が流れたんだ。」

「だから何なのよ・・。」

「金貨2万枚が、どれだけの価値かわかってないのか⁉︎普通の庶民が稼ぐのに二千年かかる額だ。二千人の人間の年収と言った方が理解できるか⁉︎それを、おまえの愚行のせいで失ったんだ!」

「・・・。」

「その額がたいした事ないと言うのなら、おまえが今すぐ払ってくれ。だったら、さっき騙した事を私も謝ってやる。さあ、いったいどう責任をとるつもりなのか教えてくれ!」

「私は悪くない。」

「何だと?」

「私は悪くないわ!あれは、男達が勝手にやったのよ。私だってびっくりしたの。私も騙されたのよ!」


側で聞いていて情けなくなりました。ペトロネラ様はリヒャルト様がろくに調べもせずに、一方的な言い分を聞いて怒っていると思っているのでしょうか?リヒャルト様は、何が起こったのか詳しく調べられたのです。金貨2万枚の商談です。何か誤解があったのでは、とか、何か向こうにも非があったのではと注意深く調べられ、全ての事情を目撃者達から確認されたのです。

そして、ペトロネラ様達が全面的に悪い事、ペトロネラ様が男友達達と一緒になって腹を抱えて笑っていた事をお知りになったのです。


いい大人なのに、責任もとらず謝罪もせず、わかりやすい嘘を平気でつく姿に心から情けなくなりました。

リヒャルト様も同じだったのでしょう。


「もういい、出て行け。」

と言われました。

「この家から出て行け。私の人生から出て行くんだ!二度と顔を見せるな!」

「私は悪くないんだってば!」

「さっさと出て行け!」

「さっきの事エレオノーラに言うわよ。あなたにプロポーズされたって。あんたはもう用済みなんだって!」

「別に良いわよ。」

そう言ってエレオノーラ様が、執務室に入って来られました。実は最初から隣の部屋に控えておられたのです。


「私はリヒトみたいに優しくないから、それ以上騒ぎ立てるなら横っ面を張り倒して、叩き出すわよ。」

「何よ、野蛮人!伯母様に言ってやるから。」

そう言って、ペトロネラ様は泣きながら飛び出して行きました。


その後、パウリーネ様が執務室に怒鳴り込んで来ました。


「ペティーは、自分も騙されたと言っているのよ。どうして信じてあげないの。血の繋がった身内じゃないの。自分の従姉妹よりも、赤の他人を信じると言うの⁉︎可哀想に、ペティーは泣いていたわ。」

「お義母様は、リヒトが何の調査もしないで、こんな事を言っていると思っておられるのですか?」

「お黙り!おまえが口を出す事じゃないわ。何もかもおまえのせいよ。血の繋がらない他人のくせに、家族の事に口を出してきて。おまえは邪魔者なのよ。この家に他人は必要ないのに。おまえの母親がが卑しい女だから、おまえも行動がいちいち卑しいんだわ。おまえが側にいるせいでリヒトがおかしくなったのよ。おまえがさっさと出てお行き!」


別に、エレオノーラ様の母親は普通の貴婦人です。

ただ、エレオノーラ様本人を罵るより、母上を罵った方がエレオノーラ様が傷つく事がわかっているので言っているだけです。


「絶対にペティーを出て行かせたりなんかしないわ!」

「でしたら、母上の品位保持費を5分の1に減らします。」

「そんな事許されると思っているの!」

「ペトロネラと縁を切った事を証明しなければ、コースフェルト家との話し合いにさえならないんです。ペトロネラを追い出さないというなら、少しでも母上に補償してもらうしかないでしょう。」

「そんな田舎貴族の顔色なんか伺わなくても、伯爵家の力でそんな男この国から追い出してやればいいのよ。」

「もし、私が伯爵家の権力を使って誰かを追い出すとしたら、ペトロネラとその家族です。私は本気です。邪魔をするというなら、母上でも容赦はしません。」

「おまえという息子は、どれだけ私を苦しめたら気が済むの!ああ、エルネストが生きていてくれたら。あの子が生きていてくれたら、おまえのような薄情な息子ではなく、あの子が伯爵になってくれていたのに。そしたら私を気遣ってくれて。ペトロネラを伯爵夫人にしてくれたのに!」


エルネスト様というのは、幼い頃にはしかで亡くなったパウリーネ様の末息子です。

仮にエルネスト様が生きていたとしても、母親に一切逆らわない息子に育ったかどうかはわからないと思いますが。

それにそんな風に育った方が伯爵家の当主になっていたら、きっと伯爵家は終わっています。


夫を亡くしたアントニア様が、伯爵家に戻って来られたのはそんな頃でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ