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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第五章 毒が咲く庭

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カメがいる庭

カメ!

しかも、岩と間違うサイズ!


て事は、日本の縁日とかでよく売られていたゼニガメとかじゃないよね。もしかして、カミツキガメとかワニガメ⁉︎

ガメラのモデルにもなったというタイプの例のカメか?もし、そうだったらうかつに手を出すのは危険だ。


と思って外を覗いてみて仰天した。違う、コレはゾウガメだ!

地球だったらアルダブラ諸島とか、ガラパゴス諸島とかにいる奴だ。


「お兄様。シュテルンベルク家ではゾウガメを飼っているのですか?」

「聞いていないが。」

「飼っていません!コレ絶対隣のカメですよ、坊っちゃま。つい一ヶ月前にも、トッケイヤモリがお館に侵入して、夜中に「トッケイ、トッケイ」と鳴いて、メイド達を恐怖に陥れていたというのに、全く隣の侯爵家は!」

御者さんがカンカンに怒っている。


「まあ、大きいですね。」

ユリアが驚きの表情でカメを見ている。

「ブルーダーシュタットで食べたウミガメを思い出しますね。」


思い出さないであげて。


「背中乗ってみたい。」

とうっとりとした目でコルネが言った。

甲羅の長さは1メートル以上絶対ある。コルネが少々太っても、全然余裕で乗れるだろう。

「こんなに大きいなんて何を食べているのでしょう?」

「カメの食べる物は種類によっていろいろだけど、ゾウガメは野菜とか果物を食べてるはずだよ。」

と私はコルネの質問に答えた。文子だった頃、遠足で行った動物園にいたゾウガメは、サボテンが好物とパネルに書いてあったがこっちの世界ではサボテンを見た事がない。


「こら、どくんだ!」

と御者さんが怒鳴るが、カメさんは手と足を完全に甲羅の中にしまいこんでいて動かない。


「アーベラ、抱えて動かせる?」

「怪力のお嬢様ならきっとできるでしょうが、私には無理です。」

「・・・。」

自分を決して大きく見せようとしないところはアーベラの長所だ。


「隣の家から侵入して来たのだとしたら、あの巨体が潜れる穴が塀に開いているという事だな。そのほうが問題だ。」

とコンラートが言った。


「カメは地面に穴を掘る習性があるらしいから、穴を掘って来たのかもよ。カメは日光浴をして紫外線を浴びないと死んでしまうらしいから、きっとお隣さんが庭でひなたぼっこさせていて、目を離した隙に穴を掘っちゃったのかも。引きずったり、持ち上げて落としたりしたらケガをさせてしまうかもしれないから、自分で帰る気になるまでひなたぼっこさせてあげようよ。」


前方にはカメがいるから直進できない。馬車は後ろにはバックできないので、私達は馬車を降りて歩いて館まで行く事にした。

コルネがすすす、と寄って行って甲羅を撫でている。

「可愛い。」


「リクガメは食べられるのでしょうか?」

とユリアがつぶやいた。食べられる、という事を私は知っている。地球では大航海時代、船乗りが食糧として乱獲したので、数多くのゾウガメの種が絶滅してしまった。

でも、それを言ってしまって、カンカンに怒っている御者さんが、「焼いて食ってしまえ!」とか言い出したら困るから言わないけど。

カメが原因で、侯爵家と伯爵家が領地戦を起こしたら一大事だもんね。


私達はカメの横を抜けて、庭を歩いた。ものすごく名残惜しそうに何度も何度もコルネが振り返っている。


「歩きだったら、こっちの道の方が早い。」

とコンラートが言ったので、私達は馬車では通れない道を歩いた。道幅は同じくらい広いが、階段が2、3段あったりするのだ。二年前と変わらずシュテルンベルク家の庭は美しい。でも、違うコースを通ると、二年前とは違う花が視界に入る。

エンジェルトランペットにトリカブトに曼珠沙華、本来なら初夏に咲く鈴蘭の花も満開だ。


なんで、ここんち毒花がこんなに咲いているの⁉︎


文子だった頃の親友の家は農家で、畑や田んぼをモグラから守る為、曼珠沙華をあぜ道に植えていた。でも、ここんち野菜は植えてないよね。鈴蘭畑を、曼珠沙華で取り囲んで何を守っているんだ?


「おお、夾竹桃だ。」

道沿いに一本植えられていた、夾竹桃も花が満開だ。あまり大きな木ではないけど、竹のような葉も桃のような花もワサワサしていてよく繁っている。


「ですよね。これ、やっぱり夾竹桃ですよね!」

ユリアが私に囁いた。小声なのは、これもまた、有毒植物だからだろう。文子が育った児童養護施設にも夾竹桃の木が一本あったが、絶対に葉をかじってはいけない。と子供達は言いふくめられていた。


「この庭に咲いている花って誰の趣味なんですか?」

と私はコンラートに聞いてみた。


「アントニアだ。私も父上も花には興味がないので好きにさせている。」

「へー。」

大丈夫か?いつか、アントニアさんとやらに毒殺されてしまうのではないか。と不安になったが、別に過去世でコンラートも伯爵様も私よりは長生きしていた。どんな花が好きかは人それぞれなのだし、使い方によっては薬にもなるだろう。余計な事は言わないでおこうと思った。

が。


「その木の花がどうかしたのか?」

珍しくコンラートが質問してきた。

「えーと・・。」

なんて言おうかと思った瞬間。夾竹桃の向こうに人が見えた。女の人がイーゼルの側に座り絵を描いていた。


お母様くらいの年齢の女性だ。わずかにウェーブのかかった栗色の髪をしている。少しタレ目気味の温和な表情の女性だ。

「あら、おかえりなさい。コンラート。」

と言って女性は微笑んだ。

コンラートは黙っていた。なんとなくだが私に向けている背中にピリッと緊張が走ったような気がする。


「行こう。」

と、コンラートは私達に言った。その女性の事を紹介する気はないらしい。

私達は歩き出した。一度振り返ると女性は、私達の方を見ていた。女性の描いていた絵も一緒に見えた。花盛りの庭園を描いた風景画だ。絵の8割が緑色だったのは、現実に庭園に緑が多いからだろう。明るい絵なはずなのになぜか暗く見えた。何か背中がザワッとなるようなものを感じる絵だった。どうして、そんな気持ちになったのだろう?

ユリアとコルネも私につられたかのように後ろを振り返った。


「あの人の描いていた絵を見た?」

私は違和感の正体が知りたくて二人に聞いてみた。

「はい。」

「どう思った?」

ユリアが答えた。

「風景画でしたね。」

「・・・。」


そうだね。以外の何と答えられるだろうか?


「コルネはどう思った?」

「遠近感が変です。手前の黄色いバラと奥のピンクのバラが同じ大きさでした。遠くの景色は、ぼんやりと薄く色をつけないといけないのに、奥まで色が濃過ぎです。緑色の物を描く時は、緑を塗るより、青と黄色を混ぜながら重ねていった方が本物らしく描けます。精神的な尊さも、真実を探究する奥深さも感じません。財産としての価値も芸術としての価値もありません。」


キツイ、キツ過ぎる!

趣味で絵を描いている人は楽しいから描いているだけだから。真実の探究とか芸術的な価値とか考えてないから!


どちらの意見も極端過ぎて参考にならない。


「コンラートお兄様。もしかしてさっきの人がアントニアさんですか?」

「ああ。」


子供の頃の話を聞いたばかりだからだろうか?優しかった微笑みも胡散臭く思える。


話しているうちに館に着いた。おそらく馬車の音がしたら、使用人さん達が出てくるのだろう。二年前と違って誰も出てきていない。

コンラートがドアの前に立ちノッカーを鳴らすと執事がドアを開けた。


「え⁉︎坊っちゃま。歩きですか?いったい馬車は?」

「それについては後から説明する。客が一緒なのでお茶の用意を頼む。」

執事さんが、慌ててこちらの方を見る。

私は、えへっと笑って見せた。

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