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霊園へ行こう、再び

そして10月25日。

私は、アカデミーでの授業を終えた後、ゾフィーが迎えに来てくれるのを待っていた。

アカデミーで授業があるのは、高等部のコンラートも一緒だ。二年前は建国祭の少し前からコンラートは自宅へ戻っていたが、今年はまだアカデミーにいると、高等部生のエリーゼに確認済みである。ユリアとコルネが一緒なので、朝から霊園でコンラートをはっていなくてすむのはとてもありがたかった。


ユリアとコルネと一緒にゾフィーを待っていると、ゾフィーはアーベラと一緒に現れた。

ユーディットにドロテーア、それとカレナには今日一日休暇をプレゼントした。ユーディットとドロテーアは、それぞれの子供の所に帰っているだろう。

ゾフィーは、白い花だけでできている花束を三つ持って来てくれていた。バラやコスモス、ネリネなどだ。

花束を持って、私達五人は霊園に向けて出発した。


ガッタンゴットン、と馬車で揺れる事数十分。霊園は、二年前と変わりなく美しかった。初めてここへ来たという、ユリアとコルネはびっくりしている。


「なんて綺麗な場所なんでしょう!ハイドフェルト領の霊園といったら、強盗と野犬と立ちんぼがたくさんいる、昼間でも子供が近づけない場所ですのに。」

「・・・。」


『立ちんぼ』といのは、店に所属せずに、個人経営で春を売っている方を指す俗語だ。そんな場所で商売が成り立つのか?どういう人が買いに来るのか?ハイドフェルト領の謎と闇は深い。


もしかしたらコルネは、私を心配して一緒に行く。と言ってくれたのかもしれない。私もコルネにわざわざ「王都の霊園は清潔で安全で閑静。」とは言わなかったし。


「ブルーダーシュタットの霊園はどんな感じ?」

と私はユリアに聞いてみた。

「・・えーと。」

ユリアは言葉に詰まった。


「すみません。よく知らないんです。郊外にある、というのは知っているのですが。ブルーダーシュタットでは、亡くなった後ほとんどの人が火葬にして、海上散骨します。なので、霊園に骨を納めたり、花を供えに行く人ってほとんどいないんですよね。霊園にお墓のある人は特殊な宗教の方とかで、知り合いにそういう人がいなくて。」


へー。と思った。

地球でも火葬とか土葬とか鳥葬とか、国や宗教によっていろいろ違ったし、墓場の様子もいろいろだったけれど、同じヒンガリーラント国内でもいろいろと違うものだ。

まあ、みんな違ってみんな良い、よね。

いや、ハイドフェルト領はあんまり良くないか。強盗が出るってのは絶対いかん。


一度来た事のある場所とはいえ、絶対に迷子になりたくなかったので、私は霊園管理人に道案内をお願いした。

そうしてたどり着いたシュテルンベルク家のお墓。というより納骨堂。

それを見てコルネとユリアが同時に言った。


「私が住んでた、離れくらいの大きさだ。」

「シュヴァイツァー邸のトイレくらいの大きさですね。」


・・・。

コメントの仕様がない私とゾフィーとアーベラ。


私は聞こえなかったふりをして、花を献花台に置いた。


「エレオノーラ様との思い出話を、お二人にして差し上げたらいかがですか?」

とゾフィーが言うと、アーベラがウッというような顔をした。

二年前に、ここでした話を思い出したのだろう。違う話をしようかと思ったが、そもそもそれほど思い出話は多くない。記憶の怪しい話をするより鉄板の話をした方が良い。


というわけで、私は庭を爆走していたエリマキトカゲの話をした。(霊園へ行こう、で紹介した話です。)


「ベッキー様、トカゲがお好きなのですか?」

とコルネが聞いた。

「嫌いではないよ。」

「そうなんですか。私もなんですよ。トカゲ可愛いですよね。私が住んでた離れにヤモリが1匹住み着いていて、同じ場所に毎日いると、ああ今日もいるな、ってすごく心が慰められたんです。動物って癒しですよね。」


さっきの狭い離れの話と相まって、泣けてくるエピソードだ。コルネは、不幸自慢を決してしない子だが、時々ポロッと出てくる昔話には胸が締めつけられそうになる。。


「わ・・わ、私もトカゲ好きです。」

と突然ユリアが会話に割り込んできた。いや、君は絶対嫌いだろう。表情に出ているぞ。


「そんな大きなトカゲが王都にはいるのですか?」

とコルネが聞いてきた。

「いや、そのトカゲはどこかの貴族がペットとして飼っていたのが脱走して、シュテルンベルク家の庭に迷い込んでいたんだよ。」

「そうだったのですか。」

「すごく愛らしいトカゲだったの。ガニ股で二本足で庭を走ってたのよ。顔の周りの襟を広げてね。」

「二本足ですか!トカゲがですか?」

「二本足で走るトカゲはけっこういるんだよ。バジリスクというトカゲなら二本足で水の上を走るんだって。」

「ええっ、どうやって沈まないで水の上を走るのですか?」

「学者が言うには、右の脚が沈む前に右脚を上げ、左の脚が沈む前に左脚を上げるらしいんだけど、あまり詳しい理屈はまだよくわかってないみたい。外国のトカゲだし。」

「そうですか。すごいなあ。私も二本足で走るトカゲを見てみたいです。」

リップサービスではなく本音っぽい。

私は、うーんと考えた。


「トカゲって、どれくらい生きるんだろう?同じ爬虫類でもカメならけっこう長生きするよね。もしも、今もそのトカゲが生きていたら、飼い主さんにお願いしたら見せてもらえないかな?」

だって、普通のトカゲじゃない。日本でも一世を風靡したエリマキトカゲだよ。

シュテルンベルク家の庭で見た時はその価値が全然わからなかったけどさ。もしも日本で友達の家に行って庭をエリマキトカゲが走っていたら、そしてそれをネットにアップしたらきっと人生変わるほどバズるはずだ。

地球にはこの世界と違って、ワシントン条約とかラムサール条約とかあるから、警察に聴取とかされてしまうかもしれないけれど。


「飼い主の貴族って誰だったんだろう?ゾフィーやアーベラは知ってる?」

と私は聞いてみた。

「いえ、私はその頃まだ領地で暮らしていましたので。」

とアーベラが言った。


「私も全く知りません。お嬢様が持って来たあの大トカゲがペットだったって今知りました。私、トカゲダメなんです。子供の頃洞窟でキノコをとっていたら、頭の上にヤモリが落ちて来た事があって。あれ以来トカゲが本当に苦手で。なので、お嬢様がトカゲを持っているのを見た時点で半分失神していました。」

とゾフィーが言った。頭の上に落ちて来たというエピソードに、ユリアが震え上がっている。


「そうかー。シュテルンベルク家の人なら覚えているかなあ。あのトカゲもう一度見たかったなあ。コルネに絵を描いてもらって飾っときたかったなあ。飼い主さんとは友達になれそうな気がするんだけどな。」

と私が言うと。後ろから。


「ブライテンライター侯爵夫人だ。」

と声がした。えっ?と思って振り返るとそこに。花束を持ったコンラートが立っていた。

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