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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第五章 毒が咲く庭

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エーレンフロイト侯爵夫婦の昔話(1)(ゾフィー視点)

新章ですが、まずはエーレンフロイト家の侍女長目線の話になります。

レベッカが生まれるずっと前のレベッカの両親の話です。よろしくお願いします。


秋になって吹く風が冷たくなりだした頃、庭に早咲きの椿の花が一輪、二輪と咲き始めました。

奥様と初めてお会いしたのは、このくらいの季節だったな、と思い出します。


私の名前は、ゾフィーと言います。エーレンフロイト侯爵家で侍女長の職についています。


奥様に初めてお会いした時、私は15歳でした。奥様は14歳だったので、今のレベッカお嬢様と1つ違いです。あの頃の奥様とそっくりなお顔立ちのお嬢様を見ているととても懐かしい気持ちになります。



私は、デルブリュックという田舎の街で生まれ育ちました。王室直轄領ではありますが、山や丘陵ばかりの何も無い田舎街です。ただ、二本の大陸公路がちょうど交わる場所にあるので、騎士団の大きな駐屯地がありました。私の父は、そこで働いていた騎士だったそうです。でも私が物心がついた頃には、何かの不祥事を起こしたとかですでに騎士団を辞め、酒場で用心棒の仕事をしていました。


父は娘の私の目から見てもハンサムな男性でした。そして、それをとても鼻にかけた人でした。母に対しても『結婚してやったんだ』という態度がとても露骨で、常に周囲の女性達から容姿を褒めてもらわねば気が済まない人でした。その為、常に女性の影が父の側にはありました。私は四人姉弟の中で最も父に顔が似ていたのですが、父を見て育ったせいで、容姿を自慢するのは醜い事だと思うようになりました。

その父は私が9歳の時、借金を母に押し付けて、酒場で働いていた歌手と駆け落ちしました。それ以降、父と会った事は二度とありません。


母は、四人の子供を育てる為に懸命に働きました。と言っても、小さな田舎街に職は少なく、母はキノコ工場で働いていました。山や丘の多かったデルブリュックの街は洞窟も多く、そこでキノコが大規模に栽培されていたのです。収穫されたキノコを干して乾燥させるのも工場で働く女性達の仕事でした。そして乾燥キノコは大きな街へと出荷されて行きました。


予想して頂けると思いますが、その仕事はそれほど高給ではありません。なので、生活はいつも厳しいものでした。私も学校を卒業した後、母と一緒にキノコ工場で働いていましたが、将来の事をいつも悩んでいました。

自分自身の事ではありません。私自身の将来などどうでも良いのです。なりたい職業もありませんし、結婚に対して夢もありません。

ただ、二人の妹と末っ子の弟には、自分の好きなように生きて幸せになって欲しいと思っていました。

上の妹のレナーテは、素敵な結婚という物に憧れていました。下の妹のマリーナは、勉強が好きで、友人が持っている本を写本させてもらって、何度も読み返すような子供でした。末の弟のルーカスは男の子なのに可愛い物が大好きで、私達とお人形遊びをしたり、お人形の為に新しい洋服を作ってあげるのが大好きでした。刺繍やレース編みなどは姉弟の中で最も上手で、ルカが作ったレースのスカーフはけっこう良い値段で市場で売れたりしたのです。


でも、父が行方不明になった後、いろいろとお世話になった大伯父はルカに騎士団に入るよう、強く圧力をかけてきました。そもそも、職業というものはだいたいにおいて世襲制なので、同族の人間は似たような職業につく事が多いものです。そして父の一族の男性は皆、騎士団で騎士になっていたのです。大伯父にとって、ルカが騎士以外の職業に就く事など想像もできなかったでしょう。

でも、ルカはとても騎士に向いている子とは思えません。生き物を殺す事はもちろん、すでに死んでいる鳥の羽もむしれない臆病で優しい子供だったのです。


私はどこか大きな街へ行って働きたいと思うようになりました。けれど、工場のようなところで働くのなら、どこの街でも同じでしょう。こんな生活をしていても、私達家族は貴族です。基本的な教育や最低限のマナーを母や親類の夫人達から学んできました。どこか、貴族のお屋敷で働く事はできないだろうか?と私は思いました。

私が家からいなくなれば、その分生活費が浮きますし、私がお金を稼いで送金すればレナーテを社交の場に出してやったり、マリーナを大学へ行かせてやったり、ルーカスが違う職業に就けたりするのではないだろうか。と夢を見るようになりました。それは、苦しい生活に追われる私がその頃見ていた唯一の夢でした。


その夢の為、私は親戚の女性達に何か伝手はないかと片っ端から連絡をとりました。そして、父の母の従姉妹という人に会う事ができました。その女性は、王都に行く度にシュテルンベルク伯爵夫人のサロンに参加しているという事を、とても自慢していました。

「私と伯爵夫人はお友達なの。」

と言って、彼女からもらったという瑪瑙のブローチをいつも見せびらかしていました。


その夫人とシュテルンベルク伯爵夫人は遠い親戚でした。つまり、私もシュテルンベルク伯爵夫人とは親戚だという事です。

私は、シュテルンベルク家で働きたいとその夫人に頼みこみました。夫人は良い顔をしませんでした。


「シュテルンベルク家の初代がどのような方かわかってる?とても特別な一族なのよ。」


それでも必死に頼みこみました。それ以外に、貴族の家で働く為の伝手が何も無かったからです。

「シュテルンベルク伯爵夫人と奥様は友達なのでしょう?だったら、話だけでもお願いします!」


そう頼み込んで、何とか紹介してもらえる事になりました。


私が王都へ行く日、母は心配して涙ぐんでいました。

「あなたにばかり無理をさせてごめんね。辛かったら、すぐに帰って来なさい。待っているからね。どうか体に気をつけて。」

そう言って、祖母から受け継いだというオパールのペンダントをくれました。

「いらないわ、お母様。これはレナにあげて。」

「いいから持って行きなさい。帰って来たくなったら、これを売って旅費にしなさい。」

「でも。」

「『紅蓮の魔女』の話は知っているでしょう。大貴族の中にはとても恐ろしい人もいるの。我慢しないで、辛かったらすぐに帰っておいで。」

母の言葉に私は涙が溢れました。弟のルカは寂しがって大泣きをしていました。妹二人は

「王都に行けていいなあ。」

と言っていましたが、とても私を心配してくれている事が態度でわかりました。


そうして私は15歳の秋、故郷を離れて王都へと向かいました。

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