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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第四・五章 9月の出来事

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ブランケンシュタイン家のお茶会(1)(アルベルティーナ視点)

レベッカのお母様、アルベルティーナ視点のお話です。

難しい年頃の子供の子育てに苦労しています。

そのお茶会の招待状が届いたのは、9月になってすぐの事でした。

少しずつ赤や黄色に染まっていく紅葉を楽しみましょう。というガーデンパーティーのお誘いです。開催されるのは、9月の終わりです。

その招待状には、必ず娘のレベッカと被後見人となったコルネリアを連れて来るようにと書いてありました。

私は頭を抱えました。


私の名前は、アルベルティーナ・フォン・エーレンフロイトといいます。歴史ある旧家、エーレンフロイト家の当主の妻になります。

そしてお茶会に招待してくださったのは、ブランケンシュタイン公爵夫人フリードリア様です。フリードリア様は、国王陛下の唯1人の同母妹である方で、決して無礼な態度をとる事が許されない方です。なのに、私の娘のレベッカときたら、画家が肖像画を描いたら『無礼者』という題をつけてもおかしくないくらい無礼な娘なのです。


この2ヶ月の間だけでも、領地で海賊と格闘し、更に王都の職人街で田舎貴族と大乱闘を演じると、2度も騒ぎを起こしているのです。

領地で起こした事件については、領地での事ですし、目撃していたのも当家の騎士達と海賊くらいですので、何とか誤魔化しようもありますが、王都で起こした事件の方は、たくさんの王都民に目撃され、更に

「男だったらかかって来いやー!」

とたけっているのを聞かれたそうで誤魔化しようがありません。

そのうえ、娘が叩きのめした相手が貴族だったので、貴族裁判に相手の貴族がかけられました。

貴族裁判は、国王陛下の御前で行われ、最低でも13人の有爵位の貴族が立ち会う事になっています。ちなみにこの事件は、たくさんの貴族達の関心を集め、30人以上の貴族家の当主が裁判を見学しに来たそうです。つまり、それらの人々に無体を働いた田舎貴族を、それ以上の無体で娘が叩きのめした事が広く知られたわけです。

私が、頭を抱えている理由がわかって頂けたでしょうか?


公爵夫人が娘と、その事件の関係者であるコルネリアに会いたがっているのは、アカデミーに編入する事が決まっているコルネリアの為人を確認したいのと、娘が公爵夫人の甥である王子殿下に本当に相応しいのかどうかを確認する為でしょう。

当日のお茶会には、第二王子の母親であるステファニー様もお越しになられるそうです。私は今から、お茶会が不安で不安で仕方がありません。


しかし、もちろん欠席をするわけには参りません。私はお茶会に向け急いで用意を開始しました。

一番の用意は着て行くドレスを準備する事です。ちょうど娘は、蝋纈染めという、新しい技法で作られた布地で作った茶会服を作ったばかりでしたので、それを着させる事にしました。

私とコルネの服、それと同伴させる侍女、ゾフィーとユリアの分は新しく作ります。娘に合わせて、蝋纈染めの布地で作る事にしました。


ドレスをオーダーするのは、侍女長のゾフィーの弟が店主をするブティックです。彼のセンスには全幅の信頼を置いていますので、10年以上前から、ドレスの制作は彼の店に任せています。布地の段階からドレスを十数日で作るのは大変だとは思いますが、数年前にとある工学者の手によって『足踏み式ミシン』という物が発明され、ドレスを仕上げるスピードが格段に上がったそうです。家が一軒買える、というくらい高価な機械ですが、私がオーナーをしている店ですから、2台買って店に贈りました。だから、急な発注でもたぶん何とかしてくれそうです。


ちなみに。ゾフィーの弟のルーカスは男性ですから、採寸は女性スタッフがします。コルネのサイズを見たルカは、間違いではないのか?と、後から何度も女性スタッフに確認したそうです。それが間違いではないと聞いて、コルネのあまりの痩せぶりに涙脆い彼は1時間くらい泣いていたとか。そんな痩せた子にも似合う見映えがするドレスを作ってみせると、大変な意気込みだ、と後日ゾフィーに聞きました。

ゾフィーは私にとって姉のような存在なので、弟のルカは私にとっても弟・・というか妹みたいな存在なのです。


後は付け焼き刃とはいえ、娘とコルネにお茶会のマナーを叩き込まねばなりません。

失態を犯せば、ごめんではすまない相手なのです。失敗するなら、まだマシですが、失言があったらと思うと今から胃が痛む思いです。

聞かれた事だけを言葉少なく答えて、それ以外は口を開かないようにとキツく言い含めました。


そんなある日の事です。

家族4人でお茶を飲んでいた時、旦那様が急にこんな話をされました。

「今日王宮で、とても懐かしい人に会ったよ。」

「まあ、どなたですか?」

「ローデリヒ卿だよ。ローテンベルガー家の。」


その名前を聞いてびっくりしました。

と言っても、私はローデリヒ卿に会ったことはありません。5歳で爵位を継ぎ、それから20年以上が経ちましたので、今は20代の後半でしょうか。よく旦那様は、ローテンベルガー公爵の顔がお分かりになったな、と感心しました。それだけ、旦那様にとって忘れられない相手だという事でしょうか?。もちろん、先方が名前を名乗ったのかもしれません。


ローテンベルガー家は、かつて当主が冤罪をかけられ自殺に追い込まれた家門です。その後、無実が証明されましたが、ローテンベルガー家の一族は領地に引きこもり、社交界での交わりの一切を絶っていました。本来、爵位を持つ貴族家は、建国祭の時には王宮に集わねばなりません。しかし、その義務をローテンベルガー家は免除されていました。かつて有りもしない罪を着せられたローテンベルガー家を、祭に来ないからといって罪に問う事は、国王陛下もできなかったのでしょう。一部の貴族達の間では、ローテンベルガー家はヒンガリーラントから独立する気では?という噂も流れていました。ローテンベルガー家は海に面した領地の家ですので、外国や、アルト同盟の手を借りればそれも不可能ではありません。


「公爵が王宮にいらっしゃったのですか?」

「結婚の報告に来たそうだ。」

「まあ、お相手はどなたで?」

「アズールブラウラントの伯爵家の令嬢だ。何代か前に、ローテンベルガー家の公女が嫁いだ家らしい。親戚同士頻繁に交流があったようだ。」

「そうですか。おめでたい事ですね。お相手の方はおいくつでいらっしゃるのかしら?」

「17歳だそうだよ。」

「まあ、お若いのね。」

レベッカとは4歳しか違いません。そのお若さで、公爵夫人になるなんて、きっとレベッカと違ってしっかりとした方なのでしょう。


ヒンガリーラントでは、貴族の結婚は全て王家の許可がいります。もちろん、下級貴族を含めた貴族の結婚全てを国王陛下が吟味されるわけではないでしょうが、公爵家の当主となれば話は別です。報告と許可は必須です。それで、20数年ぶりに王宮へ来られたのでしょう。


「公爵夫人となられたアーデルハイド様は、ブランケンシュタイン公爵夫人のお茶会に参加されるそうだよ。男は参加できないお茶会だから、ローデリヒ卿は少し心配をしておられた。ああ、そういえば公爵の姪になるリーゼレータ嬢は、10月からアカデミーに通うのだそうだ。アルベル。アーデルハイド様の事を気にかけてあげてくれないだろうか?レベッカも、リーゼレータ嬢の事を気にかけてあげて欲しい。」


嫌です。

と、心の中で思いました。

旦那様にとって、ローテンベルガー家が大切な家門である事はわかっています。先代のローテンベルガー公爵とエーレンフロイト侯爵は親友だったという事は知っています。そして、旦那様と先代の公爵の孫娘であったテレージア様が婚約していた事も。私はローデリヒ卿に会った事はありませんが、テレージア様にはお会いした事があります。純金をすいたような美しい髪をした、とても綺麗な方でした。私達の世代の間では最も美しいと言われていた少女でした。あんな事件が無ければ旦那様と結婚し、社交界の華と呼ばれていた事でしょう。


あの美しかった方の娘の世話をレベッカに、義妹の世話を私に頼むというのでしょうか?嫌だ・・と思いました。

でも、こんな醜い心を旦那様に知られたくはありません。私は、一生懸命微笑んで

「わかりました。」

と答えました。

「ありがとう、アルベル。レベッカもいいかな?」

無言でお茶を飲んでいたレベッカが、ティーカップを机に置き無表情で言いました。

「その、リーゼレータって子、私達の妹なの?」

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