紙芝居とお茶会(2)
「とっても素敵な絵です。すごく可愛い。」
「まるで、プロの方が描いたみたいだわ。」
「コルネ様、すごい!」
皆が口々にコルネの絵を賞賛する。やったね、コルネ!と私も大満足だ。
私は先生方の方へ視線を移した。
「素晴らしい絵でしたわ。ハイドフェルト令嬢に、こんな才能があっただなんて。」
と副校長が拍手しながら褒めてくれた。
「全くです。でも、どうして今まで、ハイドフェルト令嬢が絵が上手だという事が話題にならなかったのでしょうか?」
とシュトラウス先生が言った。
「ハイドフェルト嬢は、絵画の授業を受けた事がないの?」
その通りだ。
絵画の授業は、選択授業なのである。そしてコルネは中等部の全学年が合同で受けられる選択授業では、必ず私と同じ物をとっていた。私は、自分に絵の才能が無い事がわかっているので、絵画を選択した事がなかった。同じ時間にいつも外国語の選択授業があったので、そっちを受けていた。
だが正直、母語の読み書きも怪しいコルネに外国語の授業は無茶だと思っていた。
刺繍とか、フラワーアレンジメントとか、芸術系の選択科目もあるのだから、それを受けてみたらと勧めても
「絶対、ベッキー様と一緒がいい。」
と言って譲らなかった。
「絵画の授業を受けられたらよろしいのに。」
とシュトラウス先生は言った。そうだ、もっと言ってくれい。私は、うんうんとうなずいた。
「ハイドフェルト令嬢のような才能のある方が、授業を受けられたら、ライゼンハイマー夫人もとてもお喜びになられますよ。」
と副校長も言った。
「彼女は、今も現役の宮廷画家です。後進の育成には、とても関心を持っておられます。」
「宮廷画家・・。」
コルネが熱を帯びた目をしてつぶやいた。
「・・私の憧れの職業です。」
「でしたら尚更、授業を選択するべきです。ライゼンハイマー夫人から、きっと参考になるような良い話が聞けるはずですよ。」
副校長の声も熱を帯びている。
教育熱心な教育者のようにも見えるし、無事卒業できるかどうか怪しい落ちこぼれを、上手いこと自主退学に追い込める理由が見つかって安心しているようにも見えた。
「ハイドフェルト令嬢には、ぜひ刺繍の授業も受けて頂きたいわ。」
と、ブルーム先生が言った。
「貴女ほどのセンスなら、皆のお手本になるような作品が作れるはずよ。」
「はい、でも・・。」
気の弱いコルネは俯きながら言った。
「ベッキー様と、同じ授業が受けたいんです。学年が違う私とベッキー様では、選択授業の時しか同じ教室にいる事ができません。ベッキー様は、来年には高等部に進学されるので、一緒に授業を受けられる期間はあとちょっとなんです。だから、私・・。」
「あら、でしたらエーレンフロイト令嬢にも刺繍の授業を受けてほしいわ。」
おっとー。風向きがやばい。
「いえ、私は刺繍の才能がありませんし、将来の為に外国語をしっかり勉強したいなーって。」
何せ将来、外国に亡命する羽目になる可能性もじゅーっぶんあるからな。
「才能に自信の無い生徒の為に、上手な生徒が下絵を描いてあげたりするのはよくある事ですよ。苦手だというのなら尚更、学んでほしいですけどね。」
ブルーム先生の圧がすごい。ははは、と私は笑って誤魔化した。
「でも本当に素敵な絵です。」
「もっとじっくりと見させてくださいませ。」
と、皆がにじり寄って来た。
今までのコルネは皆にとって、どう接したら良いのかわからない、かわいそうでどんくさい子供だった。でも今、コルネは皆にリスペクトされる友達になったのだ。
恥ずかしそうだけど嬉しそうにしているコルネを見て、本当に良かった。と思った。