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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第四章 王都の職人街

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レントの嘘

「レベッカー!レベッカーッ!」

人の家に勝手に入って来て大声で叫んでいるお父様。

貴族としての品格とか威厳を、どこの運河に落としてきたのだろう?というくらいの絶賛大パニック中である。


「お父様。領地から戻って来たの?」

と言って玄関に出たら。


「レベッカーッ!おまえは何を考えているんだー。『ビッグな女になって戻って来る』などと書き置きを残して家出などしおって!」

雷を落とされた。お父様の視線も怖いが、レントとデリクの私を見つめる視線も冷たい。

だって、本当の事は書けないし。かといって、何か書き置きを残して置かないと誘拐とか拉致とかと勘違いされるのではないかと思ってさ。


「王都に戻って来る途中で伝言が来て、どれだけ心配したか!」

そう言って、がばっとお父様に抱きしめられた。どうやら、お父様は涙ぐんでいるようだ。

海賊とバトルをした時も、大声で叫んでいたのはお母様の方だけでお父様の方は冷静だった。

なので、お父様がこんなに取り乱すなんて。とびっくりした。でも、なんだか嬉しくて、私ももらい泣きしそうになった。

父親に一目会う為に、あれほど苦労して辛い目にもあったアンネリエを見ていたから、尚更お父様がすぐ側にいてくれる幸福に胸が熱くなった。


「ごめんなさい。」

「いったい、どうして家を出たりしたんだ⁉︎今まで何をしていたんだ?どうして、路上で他の家門の人間と果し合いなんかになっているんだ?」

「えーと・・。」

ここにいるのがお父様と、お父様の護衛騎士だけだったなら、王子に会いたくなかったと素直に言っても良いかもだけど、デリクやレントの前では言いにくい。どうしたものかと思って頭をかいていると


「お話の途中、申し訳ありません。横から口を出す無礼をお許しください。侯爵閣下。この度の事全てはわたくしの責任なのです。」

と突然レントが前へ進み出て来てお父様の前で跪いた。


「君は?」

お父様が警戒心もあらわに質問をした。


「フロレント・クラインミフェルと申します。」

「クラインミフェルと言えば・・。」

「はい。かつては子爵家の一員として、宮廷画家を拝命しておりましたが今は野に下っております。」

「君の責任とはどういう事だ⁉︎」

「姫君はわたくしの代わりに、わたくしの親族の娘を探してくださったのです。」

何を言い出すのだろうと、私はキョトンとしてしまった。

「・・続けなさい。」

お父様は硬い声で言った。


「はい。わたくしには12歳になる『親族の娘』がいます。母親を亡くした後、辛い生活をしていた事はわかっておりましたが、平民に身を落とした身で、してやれる事はありませんでした。その娘が自らの意思で姿を消したと情報が入り、自死の可能性もあると知って動揺して様々な人に連絡をとりました。そのうちの一人がエーレンフロイト姫君です。姫君は心配して、すぐに駆けつけてくださり、病の為に動く事のできない私に代わり、親族の娘を探して回ってくださいました。そして、身内の者に見つかり、路上で暴行を受けていた娘を発見し、娘を助け出してくださったのです。」


なんか、すごい作り話が展開していっている。レントの声が良い事もあって、まるで演劇のワンシーンのようだ。

デリクとマルテも黙って話を聞いている。


「姫君のおかげで、娘の命は助かりました。どれほど感謝してもし尽くす事はできません。娘の姿も一目見る事ができました。わたくしに望む事はもう何もありません。ですので、侯爵閣下のお怒りは全てわたくしに向けて頂けたらと思います。首を差し出せというのならば喜んで差し出します。すでに、医者に余命を宣告されている身です。思い残す事は何もありません。」


・・・え?

なんか、突然すごい話が出てきた。確かに、顔色は青白いし不健康そうな人だと思っていたけど、そこまでどっか悪かったの?


「体が良くないのか?」

嘘か本当か、探るような硬い声でお父様が言った。

「13年前国外に追放され、二度とヒンガリーラントには戻らぬ気持ちで生きて参りました。しかし、医者に余命を宣告され、死ぬ前にもう一度祖国の姿を見てみたいと愚考し戻って来てしまいました。」


『自分にはあの娘を男爵家から守ってやる事ができない。』

という言葉を聞いた時、身分の問題なのかと思った。だけど、それだけではない。時間の問題でもあったのだ。この人にはもう残された時間が少ないのだ。だから、その残された時間が更に短くなってもいいから、その代わりに私にアンネリエを守ってくれと頼んだのだ。


「レントさんは悪くない!」

と言いたくなるのを、私はじっと耐えた。レントは、お父様の怒りの矛先を自分に向けようとしている。そうして、少しでも私への怒りを減らそうとしている。怒ったお父様に私が修道院へやられたり、灯台に左遷されてしまったら、アンネリエを守ってあげる事ができなくなるから。今の私がするべき事は、レントをかばうのではなく、レントとの約束を守る事だ。


「私の娘と君はどこで知り合ったんだ?」

とお父様がレントに聞いた。

「人権活動家の方の紹介で知り合いました。その人が誰なのかについては、その人のご迷惑になるのでご容赦ください。」

お父様が「誰だろう?」という表情で悩んでいる。

私は側でただ神妙な顔をしておいた。


「・・まあいい。」

とお父様は言った。レントが言う『親族の娘』というのが、本当の娘なのだという事はわかっているのだと思う。娘を思う父親の気持ちに共感するものがあるのだろうし、そもそも本当に首を刎ねたりしたら、さっき連行されて行ったハイドフェルト家の人間の二の舞だという事はお父様はちゃんとわかっている。


「レベッカ。母上も心配しているから家へ帰ろう。」

「待って。あの子を置いていけない。置いていったらハイドフェルト家の追っ手に捕まってきっと酷い目に遭わされるから。」

「その子はどこに?」

と、お父様がキョロキョロしていると、なんか外の方からただ事でない歓声が聞こえてきた。

なんじゃらほい?と思いつつ、まあ、私には関係ないだろうと思っていたが。

玄関ドアが開き、信じられない人間が急に登場した。


「レベッカ姫。無事だったのかい?」

「ふぐぁっ、う、あっ・・。」


私は硬直してしまった。


王国の第二王子。ルートヴィッヒ王子が登場したのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 王子が迷惑なんだから、はっきりきっぱり振ればいいのに・・・。 そうすれば固まる必要もないし。 というかこの王子も気持ち悪いなぁ。
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