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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第一章 再びのヒンガリーラント

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紅蓮の魔女(2)

私のお父様は、イングリートとベネディクトの孫にあたる。


血筋的には長男の末子になる。長男の妻は子供が次々と怪死を遂げ精神を病んだ。そして長男は「頭のおかしくなった女と一緒には暮らせない。」と言って、妻を家から追い出した。

しかし、それはカモフラージュだった。妻が妊娠している事を知った長男は、妻とお腹の中の子供を守る為、誰が味方で誰が敵であるかもわからない家から逃したのだ。


妻は地方の修道院に匿われた。妻の侍女として付き従っていたのは、分家の家の娘ヨゼフィーナだった。

不幸にも、体と心が弱っていた長男の妻は出産と同時に命を落としてしまう。

生まれた赤子の首がすわったころ、ヨゼフィーナは子供を連れて修道院を出、その後も地方の街を転々として暮らした。


本の著者は、晩年のヨゼフィーナに直接会ってインタビューをしたらしい。

本には、ヨゼフィーナの人生についても詳しく書いてあった。


ヨゼフィーナは三人兄妹の中間子だった。だが、妹がアウグストに心酔し、妹に両親と兄を殺されてしまう。

そして妹自身は、嫉妬に狂ったイングリートに殺されてしまった。


その悲劇が起こった頃、ヨゼフィーナは家族と離れ、市井で調香師の仕事をしていた。

父と共に暮らしていた頃は、周囲の人々には「新しい香水の素材となる花や果実を探して旅をしている。」と、言っていた。父の事は『自分の孫』と周囲に言っていた。

父も、ヨゼフィーナを自分の祖母と信じ、自分を平民と信じていた。ヨゼフィーナは父をとても可愛がり、父もヨゼフィーナをとても慕っていた。


ただ、この数年間、二人がどこで暮らし、どんな人達が二人を助けたのかは一切本には書かれていない。この本が出版された頃、まだアウグストとイングリートの信奉者が、指名手配にかけられつつも捕まらずに生きていた。ベネディクトの孫を助けたと知られたら、助けた人達が信奉者共にどんな目に遭わされるかわからない。その為に、その時期の情報は秘しておいたようだ。


流浪の生活が終わったのは、父が5歳の時だ。

イングリートと、おもだった共犯者達が処刑されたのだ。曽祖父は父を王都に呼び戻した。その時はじめて、父は自分が平民でなかった事を知ったのである。


ヨゼフィーナは父をエーレンフロイト家に返し、自らは野に下ろうとした。しかし、現実を受け入れられぬ父は泣いてヨゼフィーナに縋りついた。曽祖父は父の心情をおもんばかり、ヨゼフィーナが父の側にいられるよう取り計らった。ヨゼフィーナと結婚し、ヨゼフィーナを父の本当の祖母にしてくれたのだ。



私は、本を閉じて虚空を見つめた。

この本の著者は、自分の考えや空想は書いていない。自分の耳で実際に聞き調査した事だけを書いている。なので、加害者と被害者しか知らぬ具体的な残虐行為については書いていなかった。それでも、心が石のように重くなった。


犯罪の被害者となる悲しさは、骨身に染みて知っている。それと同時に私は加害者家族なのだ。


ヨゼフィーナお祖母様の事を、私はうっすらと覚えている。笑顔の優しい人で、いつもいい香りがした。

亡くなったのは、弟が生まれる少し前だ。だから弟に、彼女の名をとってヨーゼフという名をつけたのだ。


彼女の存在は、きっと幼かった父にとってとても心強いものとなっただろう。

一夜にして大貴族の後継者になったからといって、夢のように幸福な生活が待っているわけではない。

連続殺人鬼の孫なのだ。偏見は常について回る

実際、今でも我が家は募集をかけても使用人が集まらない。慢性的に人手不足で、今いる使用人さん達はとても大変そうだ。


過去世でもさんざん陰口をたたかれたものだ。


『あのエーレンフロイト家』『かの魔女の血族』と。


そう言う人達が同じ口で

「フランツ侯が本当にエーレンフロイトの血を受け継いでいるのかわかったものではない。死んだ息子とそっくりの子供を家が絶えないように連れてきたのではないか。」

と言っているのだから、全く人間というものは業が深い。


そんな先祖のいる私だから、第二王子と婚約するって事になった時「あんな家の娘は王室には相応しくない!」って反対した人も結構いたらしい。

そう言っていたという人達に対して私は言いたい。


いいぞ、もっと言ってくれ!


できたら、王様や王子様に対して直接言ってほしい。


ほんとに、まともに考えたら私なんかが王子様の妃になるとかおかしいよ。私とイングリートは三親等の親族だ。特別恩赦が出ていなければ、連座で処刑される立場なんだから。


そう考えて。どうして第二王子は私をこっそりと殺したんだろう?と、考えた。

王子が、やっぱり婚約はやめる。と言い出した時、それに反対する人なんかいなかったはずだ。それこそ、恩赦を取り消して、やっぱり処刑する。となっても、法律的には可能なのだ。イングリートに殺された被害者遺族などは、むしろ喜ぶだろう。

なのに、どうして?


そう考えていて、私の頭に嫌な考えがよぎった。

『紅蓮の魔女』が処刑されて、まだ30年も経っていない。殺された人達の関係者はまだほとんど生きているはずだ。

私を殺したのは第二王子ではなく、その人達の誰かだったのかもしれない。


そんなふうに思いたくなかった。

私を殺したのは第二王子で、王子が残酷な人で私はなんの罪も無い哀れな被害者。

そう信じている方が気が楽だったのだ。

でも、私の方が加害者で、私を殺した人の方が哀れな被害者なのだとしたら。


私は、これからどうやって生きていったらいいのだろう・・・。

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