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《160万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第四章 王都の職人街

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護衛騎士達

洗い物をすませた後、マルテが空いていた屋根裏部屋に案内してくれた。

3階と4階は3室。屋根裏部屋は4室あるという。


3階に住んでいるのは皆男の人。デリクとレントと、あと1人マルテの夫の助手をしているというユルゲンという人で、現在は夫と一緒に植物の採集旅行中だとか。植物学者で、採集旅行が大好きって、ようするにプラントハンターって事だ。私の夢の職業だ。仲良くなっていろいろ話を聞いてみたい。

でも、さっきレントに釘をさされたのが引っかかってはいる。正体を隠したままじゃ、迷惑をかけてしまうかもだよね。


4階に住んでいるのはみんな女の人。カフェ勤めのラーレさん。仕立て屋でお針子をしているカティンカさん。女優の卵のフィリッパさんだ。

屋根裏部屋に住んでいるのは、全員織物工房で働いている見習いの女の子。皆、田舎から出稼ぎに来ているらしい。名前は、ケーラ、マーヤ、ニナさんだ。3人共まだ10代らしい。

「みんないい子達さ。」

と言ってマルテは笑った。


屋根裏部屋は、はっきり言って狭かった。でも、きちんと掃除されていて清潔だった。あるのはベッドと、小さな机と小さなチェスト。

でも、屋根と壁と布団があれば十分だ。


私はベッドに寝っ転がってみた。うん。十分、十分。


斜めになっている天井を見ていると、いろんな事が頭に浮かんできた。

エーレンフロイト家は今、どうなっているかな。ユリアやカレナは心配しているだろうなあ。

それから、灯台で働いているであろうアーベラの事を思い出した。


わかってるもん。


私が貴族でアーベラが平民だったから、アーベラが責任をとらされた。


口うるさい事ばっか言ってたくせに、シュヴァイツァー邸へ行く事には一言も反対しなかった。最初から、自分が全ての責任をとるつもりでいたのだ。その事に私は気がつかなかった。


アーベラがいなくなって、私の新しい護衛騎士になったのは、騎士団長の息子と甥という人だった。優秀な人達で騎士団の中ではエリートらしい。メイド達が、かっこいいと言ってキャアキャア言っていた。

私の護衛をしてくれる人達なのだから仲良くしたい。そう思って、自分用に買っていたドライフルーツを少し袋に入れて渡そうとした。

その為にドアに近づいた時、ドアの向こうから話し声が聞こえてきた。


「アーベラの奴、本当に情け無い。だから女は駄目なんだよ。お嬢様の言いなりになりやがって。お嬢様だってな、所詮は女なんだから、ガツンと言ってやれば、言う事聞くに決まってるだろ。振り回されやがってあのクズが。騎士団の恥だ。」

「平民の孤児だから、まともな羞恥心を持って無いのさ。あーあ、あの行き遅れとっととやめてくんねーかな。自分が周囲を不快にさせてるって事も分からねえのかね。男ならまだしも女で平民とか、騎士団に入るなよ。どうせ女は奥様とお嬢様につくんだから平民いらねえだろ。」


・・・騎士団ならば若くて独身の男も多いだろうに、アーベラになぜ結婚願望が無いのか?どうして私は気がつかなかったのだろう!

今思い返してみれば、イェルクやヨアヒムだって、アーベラへの当たりはきつかった。私の前でさえ、そうだったのだ。私の見てないところで、どれほどの女性差別、平民差別を受けていたのか。


自分がパワハラやイジメを受けていると、更に弱い立場の人に同じ事をする人がいる。けれど、アーベラはそうしなかった。

ユリアにもカレナにも優しかった。

私とアーベラは身分が違う。でも私と同じ目線で考えてくれようとした。

今、ドアの向こうにいる騎士2人は貴族だ。でも、私達の見る物が同じ位置になる事は無いだろう。


悔しかった!私が『所詮、女』呼ばわりされた事はまだいい。だけど、アーベラの事をあんなふうに言うなんて!

バーン!とドアを開けて怒鳴りつけてやりたかった。でも、こいつらは口では謝ったとしても思想を変える事は無いだろう。それに、お父様が不在でお母様があんなに怒っている状態で、護衛騎士をチェンジしてもらえるわけがない。


家出を決意した時、ユーディットや、侍女になったばかりのユリアやカレナの事は考えた。

私が家出したら、罰を受ける事にならないだろうか?

しかし、あの護衛騎士共の事はどうでも良かった。むしろ「灯台に左遷されてしまえ!」と思っていた。


いくら領主だからといって、家臣や領民を勝手に死刑にする事はできない。50年前はできたらしいが『紅蓮の魔女』が、あまりにもたくさんの家臣や領民を殺してしまった為、『紅蓮の魔女』の事件以降死刑に限り、王都の司法省に決定に間違いがないか判断を仰ぐべし!と法律が変わったのだ。

だからまあヒルデブラント家での事件みたいに、牢の中で自殺した、という事にして殺してしまおう。と、法の抜け道を探す悪い貴族もいるのだが、うちの両親はそんな事はしないだろう。お父様が信頼している騎士団長の家族だし、閑職に回されるのがせいぜいのはずだ。


今の私は侯爵令嬢だが、文子として18年『平民』としても生きた記憶がある。だからこそ、平民差別や、孤児差別の悔しさが分かる。身分を盾に傲慢に振る舞う貴族は大嫌いだ。自分は絶対、そうなりたくない。と思っているのに、自分は身分に守られアーベラだけが罰を受けた。人の目には結局私も我が儘な貴族としか見えないだろう。


悔しかった。いろんな事が悔しかった。

それが積もり積もって、爆発したから今私はここにいる。


ルートヴィッヒ王子は、もううちに来ただろうか?さすがに、こんな時間にはまだ来ないかな?

高貴な王族は、◯時に訪問します。とは言ってこない。無意味に相手を待たす事こそが、高貴な者の特権だからだ。

だから、訪問を予告された側は、朝早くから支度をし、食べるかどうかもわからない昼食を用意し、お茶やお菓子も用意していつ来るかわからない相手をひたすら待つ。たとえ、すっぽかされたとしても文句は言えない。すっぽかされたという事は、他の重要事案が発生したという事かもしれないし、その重要事案が国家機密の可能性もあるのだから。


ああ、もう本当に貴族社会はめんどくさくて嫌になる。ほんと、嫌な事ばっかりだ。


そして、間違いなく。私も嫌な貴族なのだ。その事実が悲しかった。現実逃避だってわかってる。家出したって、人に大迷惑をかけているだけで何の解決にもならない。でも、今。『フミコ』と呼ばれている今だけは、悲しい事を忘れたかった。


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