後日譚
「えええっ!」
私は叫び声をあげてしまった。
「な・・なな何で?どうして⁉︎」
「まず一つ目の理由として、私の娘はいきなり何をしだすかわからない。これから成長して大人になってゆくにつれ、ますます親の理解を超える事をしでかすだろう。そんな時、娘のすぐ側にいて娘のしている事を私に報告してくれる人間がいてくれたら助かる。アーベラが、側からいなくなる分、代わりの人間が必要なんだ。」
「反対、絶対反対!友達が侍女とか嫌だ。絶対、嫌‼︎」
と、私は叫んだ。
私は、ユリアを私の侍女にしたくないから、わざわざブルーダーシュタットまで来てこんなに頑張ったのだ。それなのにユリアを侍女になんて冗談じゃない!せっかくの死亡フラグがまた立ってしまうじゃないか。
「レベッカ、そんなに嫌なのかい?」
「嫌です!」
「そうか、だったら、今回の件での君への罰にぴったりだな。」
「!」
「それと、もう一つの理由は、レーリヒ家のバックにエーレンフロイト家がいる事を形として示す為だ。レベッカがいなくなれば、またその銀行や商会が嫌がらせをしてくるかもしれないだろう。一人娘が当主一族の直系の側近になったと知れば、嫌がらせはできないはずだ。もちろん、永遠にというわけではない。レベッカがアカデミーを卒業するまでだ。ユリア君は、レベッカの同級生として、この子のやる事をよく見て報告をして欲しい。」
「承知致しました。喜んでお引き受けします。」
とユリアは言った。
「平民の我が家から、侯爵家の侍女を出せるなど栄誉の極みです。ありがとうございます。」
とダニエルも言う。
そんな・・。私は倒れ込みそうになった。死亡フラグがまた立ってしまった。何で?どうして?何でこうなった?何を間違えた?
でも、ディッセンドルフ家やロスヴィード銀行からレーリヒ家を助けて欲しいと言ってしまったのは私だ。だから、お父様の意見に逆らえない。
うううううう。
なぜか嬉しそうなユリアの横で、私は涙がちょちょ切れていた。
ここで2つ後日譚を、紹介しようと思う。
1つはカレナの事だ。レーリヒ家の人達はカレナをまた雇い入れるつもるでいたが、カレナは自分がいると迷惑になってしまうから、ブルーダーシュタットを出て行くと言い張った。
なので、私は言った。
「ユリアの侍女になってアカデミーの寄宿舎にくればいいじゃない。」
「え?」
「今、ユリアには侍女がいないし。まあ、私はユリアに侍女ができると、ユリアと2人で出かける口実が減ってしまうけどさ。」
「でも、私のような平民が侍女をつけるなんて皆さんどう思われるか・・。」
「平民でも、侍女をつけてる子他にもいるじゃない。それに、自分にとって大切な人よりも、自分を嫌っている人の方の心情を思いやってどうすんの?」
「それも、そうですね!カレナ、私と一緒に王都に行きましょう。私とベッキー様が同じ部屋だから、ベッキー様の侍女と同室になるけれど、ベッキー様の侍女のユーディットさんはとても良い人よ。」
「ユリア様。ありがとうございます。ぜひ、お仕えさせてください。」
ここで私はカレナに1つお願いをした。コロッケとか、トンカツとか、バウムクーヘンとかはカレナの持ちレシピという事にしてくれ、と頼んだのだ。
「本で読んだレシピを再現したのだけど、そういうの、うちの親がとても嫌がるのよ。詳しい事は言えないのだけど、ちょっと前科があってね。」
「私はかまいませんし、むしろ光栄ですけれど、本当によろしいのですか?」
「むしろ積極的に頼みたい。」
これで、王都に戻ってからもコロッケが食べられるぞ。ふふふふふ。
もう一つは、私が帰る寸前の事。
ダニエルの異母弟という人が現れたのだ。ダニエルがコレラで急死したというフェイクニュースが一部で流れたそうで、ユリアの後見人になる為、妻と共に乗り込んで来たのである。使用人相手に威張りくさって踏ん反り返り、「ご主人様と呼べ。」とか「財産目録持って来い。」とか言い放ち、ダニエルやユリアの私室に勝手に入り込んで物を漁り始めた。
たまたまその時、ダニエルとユリアは、私達へのお土産やらプレゼントやらを用意する為、店の方に行っていて館をお留守中。
使用人達が
「旦那様はご無事です!」
と言っても信じない。
「叩き出しましょうか?」
とヨアヒムに聞かれたが
「あら、面白くなりそうじゃないの。ほっときましょう。ほほほほほ。」
とエリーゼに言われたので逆えず、ヨアヒムに
「とりあえず、静観しよう。」
と私は言った。
まあ、その後は誰にでも想像できる通りの修羅場だ。
弟夫婦は、ダニエルを見た途端幽霊と勘違いして、ホラー映画の主人公のように絶叫。
ダニエルが怒り狂って、2人を叩き出そうとし、弟は
「このままではカニ工船に乗せられてしまう。頼むから金を貸してくれ!」
とすがりつく。
「知った事か!」
と叫ぶダニエルの横で私は「こっちの世界にも『カニ工船』ってあるんだー。」と考えていた。
「他人の家の金を巡る争いほど、面白い物はないよなー。」
とジークはうししし笑い、エリーゼは
「底辺脚本家が考えるコメディー演劇より遥かに見応えがあったわ。」
とご満悦だった。
面白いのは『他人の家』だからであって、ユリアにしてみたら笑い事ではない、と私はユリアに同情した。
というか、過去世では、この地獄絵図が現実だったのだ。そう思うと尚更痛ましい。
この弟夫婦にも何か事情があるのかも知れないが、私にはユリアの方が一千倍大事だ。騎士団の皆に頼んで、2人を叩き出してもらった。
この一件で、もしも自分に何かあったら、ユリアや東大陸の妻が悲惨な事になるとダニエルは気がついたらしい。
急いで弁護士を呼び、たとえ自分が死んでも異母弟が財産に手をつけられないよう書類を作成した。
もしも自分が死んだら、現金や貴金属は妻とユリアで分ける事。ユリアが未成年だった場合、後見人にはナータン氏がなる事。女性には不動産が相続できないので、館は街に寄付し孤児院とする事。を、書面にして残したそうだ。今まで、どういう確執があったのか知らないが、異母弟には銅貨1枚残したくないらしい。まあ、でも万が一の事があってもユリアはこれで安心だ。その点は良かったと思う。
そして、私とお母様はお父様をブルーダーシュタットに残して王都へ帰る事になった。
お父様は、司法省の人達と一緒に海賊を厳しく取り調べるらしい。もしも、普通の貨客船に乗って王都へ帰って、途中海賊の残党が復讐の為襲って来たら他の人の迷惑になるからという理由で、私達は馬車での帰還となった。
ガタゴトガタゴト、馬車はムチウチ症になりそうなほど揺れる。しかも、車内はお母様と2人きりだ。エリーゼとジークも一緒に帰る事になったのだが、2人共馬の方が楽だからと言って、馬に乗っているのだ。コンラートも騎士達も皆馬に乗っている。ユリアとカレナは、エリーゼの侍女さん達と一緒に別の馬車に乗っていた。
馬車の中で延々と続く、お母様の嘆きと愚痴とお叱りの言葉。よく言い飽きないな、と思うくらい同じ言葉がエンドレスで続く。口答えしたらどえらい事になるし、無視しているともっと叱られる。地獄だ。あまりにも辛すぎる。これが王都の館に着くまで続くのかと思うと頭がどうかなりそうだ。
休憩時間に、ジークに2人乗りをさせてくれと頼んだら
「えー、侯爵夫人の不機嫌がこっち来たら嫌だしー。」
と言われ、無口なコンラートにさえ
「今は怒られておけ。」
と冷たく言われた。
あの海賊共のせいでこんな辛い目に遭わされるなんて、もう一回くらい蹴っておけば良かった。
3日後、ようやく無事王都に着いた時は心の底からほっとした。
したんだけど。
館に着くともう一波乱待っていた。
港町ブルーダーシュタット、という章の割にほとんどエーレンフロイト領の話でしたね。すみません。
第三章も、あと少しで終了です。読んで頂き本当にありがとうございます。
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