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救援

さて、監禁されていた怪我人を医者に見せなければならないし、捕まえた海賊達も護送しなくてはならないというのに、大変な事がわかった。運ぶ為の船が無いのだ。

シュヴァイツァー邸から、爆発音が聞こえてきた船員達は、何か大変な事が起こったと慌ててブルーダーシュタットに報告に戻ってしまったのである。レーリヒ家とアーレンス家と、2隻の船があったのにどうしてどっちか1つだけでも残っていてくれなかったんだ!


エーレンフロイト騎士団の船は、海賊を警戒させない為、はるか遠くの港に停泊し、彼らはそこから馬に乗って来ている。シュヴァイツァー邸から1番近い村には医者がいないらしいので、ブルーダーシュタットへ行くしかないというのに船が無いなんて。


「シュヴァイツァー家の馬車があるので、その馬車で運びましょう。怪我人を優先させたいので、お嬢様はもう少しこの場で待っていてくださいますか?」

そんな話をしていると、馬のいななきと蹄の音が聞こえてきた。まさか、海賊の仲間!と皆に緊張が走った。だが違った。

エリーゼとジーク、そして何十人もの男の人達が馬を駆けてやって来たのだ。


「ベッキー、ユリア!無事か⁉︎」

「エリーゼ様、ジーク様。どうしたの?」

「レーリヒ家の使用人が泡をくって戻って来たんだ。何か事件があったのだろうと、司法省の人間と駆けつけて来た。ところで、その縛り上げられている連中は何なのだ?」


そこで、エーレンフロイト騎士団の人間から司法省の人達に詳しく説明をしてもらった。海沿いの街々を恐怖に陥れていた海賊団だ。司法省の人間達は腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「怪我が1番ひどいのは誰だい?」

とジークの側にいた、中年のおじさんが言った。

「父の乳兄弟のベンヤミンだ。医者なんだ。もしかしたら、怪我人がいるかもしれないから一緒に来てもらった。」

と、ジークが言った。

もちろん。1番重傷を負っているのは海賊である。でも、監禁されていた4人の様子をまず見てもらった。


「ユリアのお父上も不安で真っ青になっていたよ。本当は駆けつけたがっていたけれど、残念ながら嘔吐下痢は止まったとはいえ、長時間馬や馬車に乗れるお尻の状態じゃなくてね。」

「・・・。」

ジークのセリフに傷ましくて声が出てこない。そりゃあまあ、あれだけお腹を下したら、粘膜はボロボロになっちゃうよね。そういう状態には、ドクダミやヨモギが治療薬として効くと、本で読んだ事がある。なんだったら、マクシーネの店で買ったヨモギの粉、全部あげようと思った。


そうこうしているうちに、アーレンス家の人間達が海軍の船を連れて戻って来た。


そして、そこからが大変だった。


司法省と海軍。治安維持を担う2つの組織が、どっちが海賊を連行するかで揉めに揉めたのだ。


「海軍の担当域は海上だろう。陸上で起こった事件の担当は我々だ!」

「司法省は王室直轄地を守護する組織だろうが。ここはエーレンフロイト領だ!」


挙げ句の果てに彼らは、私に決めろと言ってきたのだ。


「姫様。ブルーダーシュタットの司法省の支団長は、姫様のお父上と同じ法科大学に通っていた先輩と後輩なのです。」

「姫様!姫様の祖父君にあたるシュテルンベルク伯爵は海軍の将軍でした。」

内心、だから何?と思っていた。今の私にはティアナやイェルク達を拘束している桎梏のカギを探す事の方が重要なのだ。早く外してあげたいのにどこにあるのか見つからない。

結局見つからなかったので、騎士達が剣でゴンゴンと壊してあげていた。


「エーレンフロイト領で取り調べするわけにはいかないの?」

と私は言った。

「エーレンフロイト領の領都はここから丸一日以上かかります。現実的ではありません。」

とヨアヒムが答える。


「どっちにしたらいいと思います?」

と私はエリーゼに聞いてみた。

「海賊の仲間達が、ボスを取り返しに襲撃してくるかもしれないから、壊滅してもかまわない方の組織に任せたら。」

「・・・半分ずつってわけじゃダメなんですかねえ。」

「上半分と下半分って事?」

「そんな残酷な分け方がありますか!」

「男の、下半分ほど欲しくない物もそうそうないよな。」

とジークが言った。


結局、咄嗟の状況で司法省の方を頼ったエリーゼとジークの判断を信じる事にした。

というわけで、司法省の方にお任せしたのだが。


「おまえは、この家の使用人だな。話を聞かせてもらう。来るんだ!」

と言ってカレナの腕を、司法省の役人の1人がつかんだ。

「カレナは、海賊とは関係ありません。絶対、ありません!」

ユリアが必死になって叫んだ。

「話を聞くと言っておいて、拷問はやめてくださいよ!」

私の発言に「ひっ!」と叫んでカレナがガタガタと震え出した。


拷問を禁止している日本でも、警察の執拗な尋問に押し負けてやってもない罪をやりました、という人がいる。

地球の中世の魔女裁判のような拷問になんかかけられたら、無罪を主張できる人なんか宝くじで一億当たる人よりも少ないだろう。


心配そうにしている私の顔を見てヨアヒムが

「お嬢様、お許しくだされば、お嬢様の護衛を外れて、司法省の取り調べの方に参加させて頂きたいと思います。」

と言ってくれた。

「ヨアヒム、行って。拷問だけはやめさせてね。」

「承知しました」


「じゃあ、帰ろうか。レーリヒ家に。タビタさんがウミガメのスープを作って待っていてくれてるよ。」

とジークが言った。ベンヤミンさんが、怪我人と一緒に海軍の船に乗ったので、ベンヤミンさんの馬に私とアーベラが2人乗りし、ユリアはジークの馬に2人乗りをさせてもらう事になった。ナータン氏と部下達は、怪我をしているので船コースである。


エリーゼとジークとアーベラが馬の側に行き、一瞬ユリアと2人になった。

「ベッキー様は、いつからシュヴァイツァーさんを疑っておられたんですか?」

「最初からかな。」

と私は答えた。

「3年前に活動をやめた海賊がいて、2年前に急に現れた人がいると聞いて怪しいと思ったよ。それに、7月7日に海賊の襲撃がある、と情報が入った。その日に館の中に高価な宝石がたくさんあったのは、『当主』が商人を呼びつけたからでしょう。」

「すごいですね。私はシュヴァイツァーさんに会った事があったのに、何も気がつきませんでした。」


それは経験の差だ。と、思った。

私は文子だった頃、たくさんのミステリー小説やドラマを見た事がある。

その中には、雪に閉ざされた山荘とか、嵐の中の一軒家に人が次々現れて、その中に殺人犯人が紛れ込んでいて、実は犯人は家の主人で、殺人犯が家の主人を殺して入れ替わっていたというパターンの物がけっこうあったのだ。

他にも、たくさんのお客を家に招いている金持ちの家に、急に親戚が訪ねて来てその親戚が殺されてしまうが、殺したのは金持ちの主人で、実はその主人は偽物で、親戚に会うと偽物だという事がバレるからという理由で殺した。というミステリーもあった。


そんなミステリーをたくさん読んでいたので、シュヴァイツァー氏という人は本当にシュヴァイツァー氏なのかな?本物は殺されるかなんかしていて、海賊が化けているんじゃないかな?と疑っていたのだ。でも、ユリアはそういう小説を読んだ事がなかったのだろう。だとしたら、思いつけるはずがなかった。


「お父様にお腹を壊す薬を飲ませたのはベッキー様ですか?」


・・・・!

突然の攻撃に防御不可能だった。


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