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《155万pv突破!》侯爵令嬢レベッカの追想  殺人事件の被害者になりたくないので記憶を頼りに死亡フラグを折ってまわります  作者: 北村 清
第三章 港街ブルーダーシュタット

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それぞれの宝石

だが、その前にお茶が出てきた。

侍女さんが二人、お茶のセットとお茶菓子を持って来てくれた。

侍女のうちの一人は50代くらい、もう一人は10代に見えた。もちろん、若い方の侍女がカレナさんだろう。亜麻色の髪とハシバミ色の目をした女性で、ユリアと目が合うとにっこりと微笑んだ。微笑むと頬にエクボができる、とても可愛らしい女性だった。


もう一人の侍女さんは、何というか・・少女マンガの脇役で出てきそうな感じの、マッチョなオネエみたいな人だった。背が高く体に厚みがあって、顔つきもとてもたくましい。眉も太いしアゴも割れてるし、二の腕なんかユリアのウエストくらいの太さがありそうだ。侍女服を着ているから女性だとわかるけど、なんかジークと違う意味で性別が不詳な人だ。こんなにも腕が太くなるほどの力仕事をこの館の侍女はさせられるのだろうか?


出されたお茶はとてもおいしかったが、菓子はまずかった。小学生が適当な材料で作ったマカロンみたいな代物だった。

昨日作ったバウムクーヘンにみんながあんなに感動してくれた理由がわかる気がする。正直、バウムクーヘンは生クリームもフルーツも飾らない素朴な菓子だが、今食べている菓子の千倍おいしかった。


それからやっと、宝石の紹介が始まった。

まずは真珠からだ。

アーレンス氏がまずもったいぶった動作で、螺鈿細工の箱を取り出し開けた。

中には真球の真珠が3つ付いた金の指輪が入っていた。


「ちっさ!」

やべえ!声が出た。私は慌てて口を押さえた。でも、ほんとに小さかったんだもん!BB弾くらいの大きさしかなかったんだよ!


さっき以上に、場がシーンなった。アーレンス氏とその部下達はプルプルと震えている。もちろん、笑っているわけではない。

「はは、さすがエーレンフロイト姫君は良質の宝石を見慣れているのでしょうね。」

とセルナール氏が引きつったような声を出した。

そういうわけではないけれど。

でも、真珠だけは本物を見た事があるんだ。

文子だった頃、児童養護施設の施設長が養殖真珠のネックレスを持っていて、施設出身の子の結婚式があるたびそれをつけて行っていたんだ。その真珠に比べると、あまりにもしょぼくって、つい声が出てしまった。


「指輪ですので、常に身につけている時に視界に入れる事ができます。もちろんリングは純金です。」

黙りこくってしまったアーレンス氏の代わりに部下が必死にプレゼンをしている。しかし、ゲルトルート夫人の顔色は冴えなかった。


「は、はは。レーリヒ商会がどれほど素晴らしい真珠を用意しているのか見せてもらうのが楽しみだな。」

負け惜しみのようにアーレンス氏が言った。

ナータン氏が漆塗りの箱を取り出し中を開いた。中にはユリアが言った通りティアドロップパールのイヤリングが入っている。

「まあ、同じ形の物が2つも!」

ゲルトルート夫人が驚きの声をあげた。


沈黙は金。もちろん私は何も言わなかった。

ただ、古そうな真珠だな。と思った。

真珠はダイヤモンドやルビーとは違う。ダイヤモンドやルビーは無機物だが、真珠は有機物だ。だから経年劣化するのだ。

真珠の寿命はだいたい20年から30年ほどだと言われている。家宝として大事にし、親から子へ、子から孫へと代々受け継いでいける宝石ではないのである。


「この真珠は、とある伯爵家に代々伝わっていた家宝で、それをブリューダーシュタットの宝石商が買い取った由緒ある物なのです。」

案の定なセリフをナータン氏は言った。真珠に由緒は必要無いというのに・・・。


「では、こちらもご覧ください。」

と言って、セルナール氏が白木の箱を取り出した。三人が出した箱の中では1番安っぽい箱だ。

だが中には、大きな一粒真珠のペンダントが入っていた。

地球で普通に見るくらいの大きさの真珠だ。マキもテリも見事だと思う。それに完全に球体だ。なかなか良い品なのではないかと思う。

ただ、どうしても、施設長が持っていた何十粒もの真珠がついていたネックレスを思い出してしまって、ショボく感じてしまう。


だけど、みんなは「おー!」とすごい反応だった。

「これは素晴らしい!」

と皆が口々に褒めている。

『負けた』という表情が、アーレンス氏やナータン氏の顔に浮かんでいた。


「どの真珠も素敵で、迷ってしまうわ。ゆっくり考えたいから、選ぶ前に緑色の宝石を見せてくださる?」

「承知しました。どうぞご覧ください。」

と言ってアーレンス氏が新しい箱を差し出した。箱の中にはスクエア型の大きな宝石が入っていた。


「奥様の瞳と同じ色のエメラルドでございます。エメラルドは内包物が模様のように見える事があるのですが、このエメラルドは奥様のイニシャルと同じGの模様が入っているのです!」


いや、どう見ても5に見えるけど。


「・・これは、大きなエメラルドですね。私共が用意した宝石もエメラルドなのですが、この大きさには敵いません。」

とセルナール氏が言った。アーレンス氏が、ふふん、と鼻の穴を大きくした。


「当家がご用意した宝石は翡翠です。」

とナータン氏が言った。

「翡翠?」

アーレンス氏がバカにしたような声を出す。自分の勝利を確信している顔だった。ナータン氏が箱を開けた。


「まあ!」

とゲルトルート夫人が声をあげた。

「可愛い。」

と私もつい、声が出た。ゴルフボールくらいの大きさのその翡翠は『キャベツ』の形に彫ってあったのだ。


そういえば、地球の台湾にある故宮博物館には、翡翠で作られた白菜があると聞いた事がある。

白菜をヒンガリーラントでは見た事はないけれど、キャベツはよく食べられる食材だ。というか、大きさといい形といいまるで芽キャベツだ。


宝石にはあんまり興味が無いけれど、これなら欲しい、と私は思った。値段にもよるけれど、ゲルトルート夫人が買わないと言ったら、私が買おうかな。

さて、宝石もそれなりに見たし。

私は、ちょっと恥ずかしそうなフリをして

「あのお、お手洗いを貸して頂けますか?」

と聞いてみた。

ちなみに、今までの人生でこのセリフを言ってダメだと言われた事は一度も無い。


「ええ、もちろんですわ。ジビラ、案内して差しあげてちょうだい。」

と、ゲルトルート夫人がゴリマッチョな侍女さんに言った。

「あの、もし良かったらカレナさんに案内して欲しいんです。ユリアの昔の話とか聞けたらなって。」

「わかりました。じゃあ、カレナ、お願いできる。」

「かしこまりました。こちらへどうぞ。」

とカレナは言った。当然ながら、私の護衛のアーベラもついてくる。私達三人は応接室を出て行った。


「あの・・実は、こちらのお手洗いは、水洗式ではなく汲み取り式なのです。下水道が通っていなくて。」

と言いづらそうに、カレナが言った。王都でも、ブルーダーシュタットでもトイレは水洗トイレだ。使った後自分でバケツで水を流す手動水洗である。だけど、ポツンと一軒家のこの屋敷には、上下水道が通ってないらしい。水も井戸水を利用しているという。


「ですので、衛生の為に、庭の端の方にあるのです。なので、少し歩く事になりますが。」

むしろ好都合だ。私はカレナの後をひょこひょこついて歩いた。


「ユリアはカレナさんの事とても心配してました。意地悪な先輩に虐められているんじゃないかって。」

と、作り話を振ってみる。

「まあ、そんな。みんな親切な人ばかりなんですよ。旦那様も奥様もとてもお優しくて。執事さんもジビラさんも、いつも気を使ってくださいますし。」

「この家には、使用人は何人いるのですか?」

これが聞きたくて、カレナを連れ出したのだ。


「執事さんにジビラさん、料理人に御者兼庭師のテアさんと私の5人です。あと、通いで掃除をしてくださる女性が1人来られますわ。」

「ずいぶん少ないんですね。」

「旦那様は貴族とはいえ、学者になる為家を飛び出されて平民のようなお暮らしをされていたんです。だから、自分の事は自分でほとんどなさるんですよ。奥様はもともと平民だったので、家事もひとおおりできるんです。洗濯も外部に委託していますし、私の仕事なんて、料理をちょっと手伝ったり、奥様のお話し相手を務めたり、それくらいなんです。お客様が来られる事もほとんどありませんから。」


その少ないメンバーの中に『漆黒のサソリ団』の一味がいるのだろう。

「そういえば御者さんが、用事で出かけているという事でしたが、どこに行ったんですか?」

客がほとんど来ない館に、三組も客が来る日にわざわざ出かけるなんて変な話だ。カレナは不安そうな顔をした。


「実は、この近辺で貴族のご夫婦が行方不明になったんです。それで、エーレンフロイト騎士団の方々が探しているらしいんですけど、それで近隣に住む人達が騎士団に呼び出されていろいろ聞かれているんです。」


こんなド田舎で貴族の夫婦が行方不明⁉︎

私は嫌な予感がした。

「なんて名前の貴族なんですか?」

「グートハイルいう名前のご夫婦です。」

ティアナとイェルクやないかっ!

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