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勉強するのは

そうして、私は建国祭の子供チェス大会で見事優勝した。


まあ、正直言ってどの子供も私の敵じゃなかったけどね〜。

でもなんか、どんな敵が現れても瞬殺する、規格外のチート能力を持った異世界バトルマンガの主人公になった気分だわ。ほほほほほ。

というか私、将来ルートヴィッヒ王子から逃走して身を隠す事になっても、チェスで食べていけるんじゃない?


うはうはな私に、国王陛下から賞品が下げ渡される事になった。

陛下の前に出る私に、お父様とコンラートがついて来てくれる。


「素晴らしい勝負だった、レベッカ嬢。侯爵、そなたも鼻が高かろう。」

「もったいないお言葉でございます。」

父が胸に手を当てて頭を下げる。

私もその側でカーテシーをした。

「まさか11歳の少女が優勝とは驚いたが、小伯爵が教えているというのなら納得だな。昨年の勝負も素晴らしかったうえ、指導の腕も優れているとは、そなたの将来が楽しみだ。そういえば、昨年優勝した時の願い事がまだ保留になっていたはずだが、何を願うかもう決まったのか?」

そういえば、コンラートは願い事を保留にしてたんだっけ。そういう事もできるんだ、と思い出した時、私はふと考えた。


私も保留にしてもらおうか!


そして将来、ルートヴィッヒ王子が私との婚約を言い出した時、それを断るのに使うのだ。

そうしたら婚約しなくて済むかも!


だけど私は心の中で首を振った。

王様にできるのは『ささやかなお願い』だ。そして婚約を断るのはささやかな願い事じゃない。はっきり言ってものすごく不敬な事だ。

そして、王子が私と婚約しようと決める時。王子の内心は復讐で猛り狂っているはずだ。その復讐計画を邪魔するような事をしたら、どんな恐ろしい報復をされるかわかったものではない。


それに・・・。

私はルートヴィッヒ王子の母親が、どんな酷い殺され方をするのか知っている。知っていて知らないふりをするのは、殺人者と共謀しているようなものだ。私だけが芳花妃様を助けられる可能性を持っているのだ。そして、何の罪も無いのに責任を取らされて処刑される人達の命も。


「優勝の褒美として、姫君の願いを何でも一つ叶えよう。姫君は何を望む?」

と陛下が仰られた。


私は答えた。

「王宮図書館に自由に出入りできる許可が欲しいです。」

「ほう、図書館にか。」

「はい。私は沢山の本が読んでみたいのです。もっと世の中の事を知って、いろいろと勉強がしたいです。」

「なるほど、勉強か。だが、姫君は何の為に勉強がしたいのだ?」

「勉強するのは自分の為です。人は誰しも、自分が受けた教育以上の者にも以下の者にもなれないからです。」


王様は顎に手を当てたまま黙ってしまった。

私はドキドキした。なんかまずかっただろうか?王宮図書館に入りたいとは、言ってはいけない言葉だったのだろうか?


すると王様は、私の目を見てフッと笑った。

「良かろう。王宮図書館への出入りを許可する。自由に本を読むといい。侯爵。素晴らしく聡明な娘だな。沢山勉強させてやるが良い。やがて国の宝となるはずだ。姫君の将来が実に楽しみだ。このような聡い娘がいるとは、侯爵の事が羨ましいぞ。」

父が私の側で恐縮しまくっていた。

すると私の側にいたコンラートが、国王陛下に発言の許可を求めた。


「陛下、私の願い事の件ですが、私にも王宮図書館へ立ち入る権利をいただけないでしょうか?」

「王宮図書館には確かに沢山の本があるが、そなたが通っているアカデミーの図書館にもかなりの蔵書があるはずだ。なのに、どうしてだ?」

「アカデミーにある本は、ほぼ読み尽くしました。まだ読んだ事の無い本が読んでみたいのです。」

「なんと、若いのに素晴らしい向学心だな。レベッカ嬢といい小伯爵といい、この国の将来は明るいな。」

王様はにっこりと笑って、コンラートにも図書館に入館する許可を与えた。


これで、目標に一歩近づいた。

私は、ほっと息をついた。



その後。

私達家族はすぐに家へ帰った。

おべんちゃらを言う為に、両親に近づきたい人、賭け金をすって恨みがましい目を向けてくる人、それら全てがうっとおしくてさっさと家へ帰る事にしたのだ。下賜されたお菓子も早く食べたいしね。


チェスの指導をしてくれたお礼に、私はコンラートを家に誘った。もらったお菓子を一緒に食べようと思ったのだ。

コンラートと、コンラートのお父様の伯爵様もお呼びして、楽しいお茶会になるはずだった。

・・・んだけど。


「・・・大人の味って感じだね。」

他に言いようがなかった。

頂いたタルトは、栗と胡桃がたっぷりのっていたのだが、もんのすごくアルコールが効いていたのだ。

しかもラム酒とか、ブランデーみたいな甘いお酒じゃなくてとんでもなく苦いお酒!

それが一口食べただけで酔っ払いそうなくらい入っている。


「このタルトは、レベッカやヨーゼフ向きじゃないね。こちらのお菓子を食べなさい。」

と言ってお父様はもう一つの方のもらったお菓子を指さしたのだけど。

たぶんこれ、卵のメレンゲ焼いただけの菓子だと思う。バリバリかじると、口の中の水分が皆持っていかれる。そして甘い。歯茎が痙攣しそうなくらい甘い!

正直、一口食べたらもう十分、って気持ちになった。


仮にも王宮のお菓子がこのクオリティーってどう言う事なの⁉︎

文子だった頃読んだ本に、中世のヨーロッパでは砂糖が貴重品で、なので金持ちの家で出す菓子は砂糖が入っていればいるほど良いとされた、ってあったけどこれはひどい!過ぎたるはなお及ばざるが如し、って言うじゃんか。


文子だった頃に食べていたお菓子とのあまりの落差に泣きたくなった。

これはアレか。やるしかないか飯テロ!


切ない気持ちで、ちびちびと紅茶を飲んでいたら、侍女長が大きなトレイを持って部屋に入って来た。トレイの上には、こんがりと焼けたアップルパイ、それにクッキーとパンプティングが並んでいた。


「うわっ!どうしたの、これ?」

「クッキーとパンプティングは、シュテルンベルク様からの贈り物です。」

と侍女長が答えた。

「うん、つまりね・・。」

となんか言いにくそうに伯爵が言い出した。

「もし、レベッカが優勝できなかったら、きっとがっかりするだろうなー、と思って、頑張ったご褒美にね。」

「アップルパイはわたくしと旦那様から。意味はまあそう言う事ですよ。」

と、お母様も言った。


つまり・・。

皆さん、私が優勝できるって、カケラも思ってなかったって事?

でも、嬉しい。みんながとても優しいから。私ががっかりしないように、って考えてくれたのだから。


「お酒は入れていないから安心して食べてくれ。」

と伯爵様。

「砂糖も控えめにしていいますから。」

とお母様も言った。

「うん。砂糖は高価だもんね。」

「我が家で、砂糖を使ったお菓子をほとんど出さないのは、お金がないからではなくて、あなたとヨーゼフが虫歯にならないようにですよ!」

とお母様が眉を吊り上げて言った。


「えへ。嬉しいなあ。おいしいなあ。」

私は切り分けてもらったお菓子を食べながら言った。

黄金色のアップルパイは、涙で少し滲んで見えた。

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