ド修羅場
「──この婚約は破棄する!!!」
声高な宣言が終わりを告げた。
──ああ、何もできなかった。
こうなるとわかっていたのに。
私は異世界からの転生者だった。
ある日高熱から目覚めて、私は好きだったゲームの悪役令嬢になっていることに気づいた。日本で死んで、そのあと神様と会ったような記憶もある。転生、乙女ゲーム、悪役令嬢。ありがちな話だ、それが小説の世界だったのなら。
「僕の大事なリアンへの数々の狼藉はすべて知っている! 見逃されるとでも思っていたか!? この悪女め!!」
「やめてっ! 私はいいの、テレンス......きっとお姉さまにも、何か事情があったに違いないわ」
「リアン......なんて心優しいんだ。庇う必要なんてないんだ。あんな女、君の姉だとは言えない」
煌びやかな金髪の頭を高く掲げ、その青の目で私を見据えるテレンス殿下は、心の底から義憤に駆られているつもりのようだった。そんな彼に駆け寄って慈悲深く宥めるのが、ゲームのヒロイン、リアン。
リアン・クロフォード。
私のいもうと。
ゲームはよくある学園モノ、ファンタジーな世界観、定番のシンデレラストーリー。
母を亡くした平民の少女リアンのもとへ、実は貴族だったという父親が迎えに来る。存在すら知らなかった父とやっと巡り合え、一夜にして侯爵令嬢となったリアン。
これが前日談。
そんなリアンが王立の学園に入学してから、ゲームは始まる。
魔法や決闘、礼儀作法など、攻略するキャラクターによって上げるべきパラメーターは違うけど、リアンはとんとん拍子に成績を上げていく。そうしてお目当ての攻略対象と恋をして、結ばれるのがハッピーエンド。
お相手が王太子ともなれば、いくら貴族令嬢に成り上がったとはいえ身分差が問題になろうもの。もちろん、恋のスパイス程度に。
だけど、そこもちゃんと帳尻が合うように筋書きが整っているから安心だ。
王太子ルートでは、リアンが王家の血を引いていたことが最後に明かされる。
実はクロフォード侯爵は実父ではなく、それよりも尊いお方の子女を家臣として預かっていたのだ。
ゲームの筋書きと同じように、悪役だってお決まりだった。
継母と義姉はありがちだ。特に、妹ほど美しくない義理の姉が、嫉妬に狂うのは定番中の定番。
『悪役令嬢セレスティア』は、侯爵令嬢という身分の高さからこのレンダイン王国の王太子の婚約者に選ばれた。高位貴族らしく、セレスティアは美しく、魔力が多い。それも選ばれた一因だ。
少々気位の高いきらいがあっても、淑女として完璧な彼女は、このまま順当に王妃となると思われた。
でも、リアンが現れてすべてが変わる。
セレスティアの重たく垂直な黒髪と違う、ウェーブの美しい金髪。冷ややかな表情と違って、誰もが守りたくなる笑顔。セレスティアは凡庸な土属性が中心の魔法なのに、もてはやされる希少な光の魔法。
リアンのような愛らしさはなくても、セレスティアだって美しい。王太子の婚約者として選ばれるほど魔力があるし、ゲームの中で敵対する役割もあってか、火や風や水など、オールマイティと言っていいほど様々な属性魔法が使える。
それでも、セレスティアが持ち得ないものばかりが目につく。
セレスティアが持ち得ないものばかりに、みなが惹かれる。
ついには、最後に残った身分さえも凌駕されてしまうのだ。
国内の貴族と結ばれるこの婚約の意図は、国力の強化にあった。
身分の高い貴族の家々の中でも、クロフォード侯爵家はこの国において広大な領地を所持している。クロフォード家と王家の結びつきは、王国の地盤を固めるだろうと期待された。
もちろん、セレスティアが候補の中で最も美しく、教養があり、強い魔力を持っていたから選ばれた。
しかし、リアン。
リアンは美しい。セレスティアほどまではいかなくても、魔力が多い。そして、希少な光属性がある。
なによりも───リアンは王家の血を引いていた。
これ以上に国力を強める縁組があるだろうか?
リアンはクロフォード侯爵に養子縁組されている。
これで、王家とクロフォード侯爵家も繋がりができる。
なら──何も問題はない。
リアンがどの点でもセレスティアより優れているのなら。
セレスティアでなくても、何も問題はない。
セレスティアは、いらない。
「......待って」
『──お待ちになって』
「......どうして」
『──どうして?』
誰の耳にも届かない私の囁きが、頭の中の『セレスティア』の叫びと木霊する。
「何をボソボソ言っている!!!」
床に叩きつけられて、私の思考は遮られた。
「ぁっ、......っ!」
急な痛みに声も出なかった。
「この女が何か呟いていました、殿下! 怪しい魔術の可能性もあったので取り押さえたところです。もう怖がらなくていいよ、リアン」
最後だけ甘ったるく語りかけたこの声は、騎士団長子息だった。ゲームの攻略対象の一人。
どうやら王太子ルートではなく、ハーレムルートだったらしい。
「良くやった、ダミアン。フン、良い様だなセレスティア。そこではもはや悪行を働けまい。大人しく自分の罪を聞いておけ」
「お待ちください、殿下、私は──」
「醜い言い訳はやめろ!」
──私はやっていません。
言い切る前に怒声がして、ダミアンにさらに強く押さえつけられた。
痛い。
顔に当たる大理石の床が、硬く、冷たい。視界の上方でシャンデリアが眩む。打ち付けた場所が奇妙に暑くて、ドレスが不快に絡んで、背中を押さえる体が重い。
眩暈がしそうだった。
どうにか視線を上げると、そうそうたる顔ぶれの令息たちがみな一様に、私に冷たい視線を注いでいた。
何人もの青年が。女一人を囲んで。公衆面前で跪かせて。躊躇もなく。
ああ、そうだった。懐かしい。
前世のゲームで何度も見た。
今世でも、何度もこの結末を思い返した。
これに抗うつもりだった。
物語のように、防げると思っていたのだ。
今思えばおかしい。かつての私は、自分が変わればまわりも変えられると思っていた。
王妃教育だけでなくて、まわりのことにももっと注意を払うようにした。
リアンのように身分の隔てなくとはいかなくても、テレンスと分かり合う努力をしようとした。
会話なんてほとんどなかった両親にも、自分から距離を縮めようとした。
リアンにも歩み寄ろうとした。
もしもリアンとテレンスが結ばれるようなことがあれば、二人を祝福して引き下がろうと思っていた。
せめて地には這うまいと、じっと大理石の床を見おろす。
大理石の反射が、目に痛いほどに真っ白い。その奇妙に白熱して感じられる明るさが、眼窩の奥を灼いた。
頭上の届かないキャンドルの熱すら、肌で感じているように思うほど。
嫌になるほど、これは現実だった。
騒めきがこの場を取り巻いていくのを感じる。それはそうだ。パーティーの最中で、貴族令嬢が取り押さえられ、断罪劇まで始まったのだから。
なんという恥。
揺れる息を呑み込んで、気づかれないうちに震える睫毛を伏せる。
泣くつもりはなかった。
あれだけ避ける気でいたのに。やっぱり未来を知っているとなると、多少はどこかで受け入れていたところがあったらしい。
『セレスティア』は、泣いて、喚いて、みっともなく縋りついた。形振り構わず髪を振り乱して這いずるセレスティアは憐れで醜かったけれど。
黒い睫毛越しに、そっとリアンと男たちの方を垣間見る。嫌悪と侮蔑──そして、ゲームのセレスティアは気づいたのか、本人たちは気づいているのか──薄汚い優越と陶酔を宿した目が見下ろしてくる。
力では敵わぬ男に囲まれ、衆人環視で見世物のように額づかされ、必死の思いで心を寄せていた王子を見上げたとき。『セレスティア』は何を思ったのだろう。
ゲームのハーレムルートでは、あまりの屈辱に発狂したセレスティアが魔力を暴走させ、リアンに襲いかかる。
実はセレスティアには本人すら気づいていなかった闇の魔法が眠っていて、この断罪劇の場面でついに、強すぎた負の感情から闇へと転落するというシナリオ。
真っ黒な髪を不吉に乱し、身に纏う闇の中で異質に紅い瞳を輝かせた、攻略対象たちと対峙するセレスティア。
いわゆる闇堕ちだ。
そんなスチルを見たときには、さすがに設定に無理があるんじゃないかと笑ってしまった。フルコンプした攻略対象たちと力を合わせてラスボスを倒すのが、ハーレムルートの醍醐味なんだろうけど。
まるで王族の血を引くリアンを際立たせるように、この国に縁のない異国出身の母親も。その母から受け継いだ、この国では不吉とされる黒髪も。ゲームクリエイターが誂えた舞台装置だと思えば薄っぺらい。
『セレスティア』は、自分が徹底的に拒絶されたことを受け入れるにはあまりにも矜持が高すぎた。
今の私は、たかがわかっていた未来で取り乱すには、矜持が高すぎた。
残るのは、怒りや悲しみや失望でなくて、ただの諦めと疲れだ。
この場で私の味方になってくれるヒーローも、従者や侍女も、私にはいない。
それがすべてだった。
肉親だってそう。
父と母はセレスティアどころか、お互いを愛しているかも怪しい。それどころか、二人は政略結婚の仮面夫婦で有名だった。
このパーティーでだって、きっとお父様は貴族の御当主方と政治について話し合い、お母様はいつものようにつまらなそうにお一人でグラスを傾けている。
この国のすべてを視界にも入れたくないとでも言うように、いつもベールをしっかり被って、夫にも娘にも顔を晒さないお母様。
そんなお母様が自分の娘に興味を持つはずがない。義理の娘にだって同じだけど。たぶん、恋愛イベントに重要な『悪役令嬢』以外の障害が介在して、ストーリーを複雑にさせないための運営側の設定だ。
一方お父様は、妻でも、実の娘でもなく、リアンにだけ優しく微笑む。継母と継姉に冷ややかに接せられる中でいつだって味方でいていくれて、最後には王子様との結婚の手助けもしてくれる、ゲームに用意された大事な頼れる大人。
ゲームと違って、私が何も反論しなかったからだろうか。
テレンス殿下が私に投げつける言葉は、どんどんヒートアップしていっていた。卑しい、下賤な、醜い、そんな言葉が並ぶ。最後はともかく最初の二つに関しては、仮にどのような行いをしていたとしても侯爵令嬢に対してあんまりだと思うのだけど。
でも、きっと反論しても何も変わらない。
私はゲームのセレスティアのように魔力を暴走させたりしないけど、結末は同じだろう。
でも、私は本当に、この終わりに抗いたかった。
修道院なんかに閉じ込められたくない。幽閉で一生を終えたくない。身ぐるみを剥がれて、追放されたくない。
──でも、そんなことなんて。本当は。
お父様。お母様。
私はいらないの?
もう役に立たないの? お父様、どうしてあの子だけに微笑むの? お母様はどうして私を庇ってくれないの?
一度も私を気にかけたことなどなかったの? 最初からどうでもよかったの?
だから何をやっても無駄だったの?
どれだけ完璧に王太子の婚約者を務めても、あるいは学園で悪い噂が立っても、お父様もお母様も何も言わない。
ただ、幼い子供にキャンディーをあげるみたいに、着飾るための小切手をお父様が与えるだけ。
でもお二人に本物のキャンディーを貰ったことなんて、私にはないの。
「ちょうど良いところに、クロフォード侯爵! どうぞこちらへ!」
シナリオ通りの『偶然』で婚約破棄の場面に通りかかったお父様は、当たり前のように、リアンと攻略対象たちの側に立つのだ。
「これは、テレンス殿下」
一瞬、お父様は目の前の光景にぴくりと眉を動かした。それでもすぐに、まるで私などいないかのように、私に背を向けてテレンスに向き直る。
そのまま煌びやかな貴公子たちへ、背の高い男は歩み寄った。彼らに囲われる美しい少女に向かって、ひとつ頷きかける。
「お父さまぁ!」
「リアン」
寡黙に一声だけ答え、再びテレンスに顔を向けた。
彼も整った容姿をしているが、『父親役』である『グレン・クロフォード侯爵』は攻略対象ほど華やかな容姿をしていない。
外見に魔法の属性が表出することも多いこの世界において、色味も無難な焦げ茶の髪と暗褐色の目で、セレスティアに土属性特化の魔法を遺伝させたのは彼だとわかる。
私が初めて魔法を発現させたときのことを、今でも覚えている。
お父様はまるで初めて会った人間を見るように私を上から下まで眺めて、もっと母親に似るものと思っていた、と言ったのだ。
私は、自分の母親の魔法属性すら知らないのに。
それから二度と私の魔法の話が出てきたことはない。尋ねられたこともない。魔法属性を受け継がせることができないなら、妻にも娘にも興味はない、とでも言うように。
私がずっと身に潜ませていた魔法が、この国で忌み嫌われている闇属性だと知ったら。お父様はどんな顔をするのだろう。なんて、知りたくもないことを考える。
「私の娘が床に居るのに、どのような訳があるのでしょう」
私のことは、名前すら呼ばないのね。
そんな声が心に浮かんでも、私は黙って意気揚々としたテレンスたちの声に耳を傾けた。
「リアンはあなたを思って今まで口にはしませんでしたが、陰ではいつもセレスティアに虐げられていたのです! 私物を壊され、学校の宿題はすべて破かれ......今、このパーティーで着ているドレスも僕が贈ったもの。リアン、そうだろう?」
「......はい......着ていくはずだったものは、お姉さまが......」
ぐす、と小さく鼻を啜る音が聞こえる。
「......なるほど。それではリアンの後見人として、私から殿下に感謝を」
「いや。こんなもの、リアンの苦しみに比べたら何でもない。それにこのドレスはリアンにとても似合っている」
「テレンス......」
「だからといって、セレスティアの所業が許せるわけがない! とうとう、たった一つ残された母君の形見までリアンは奪われた! それだけじゃない、事故に見せかけて、リアンは何度もあの女に殺されそうになった!! そしてリアンを襲った悪漢ども」
テレンスは、色濃い軽蔑を浮かべて地面の私を見下した。
「関係ないとは言わせないぞ、女狐め。リアンがより相応しいというのに、必死になって我が妃に相応しい侯爵令嬢を騙ろうとしていたようだが。貴様の卑しさはもはや知れている」
「───殿下、それは?」
お父様の問いかけるような声が聞こえる。
セレスティアは、静かに目を閉じた。
私は結末を知っていた。もう見る必要はない。
ただ早く終わってほしかった。
とうとう耐え切れなくなったように、大げさに顔を覆ったリアンをテレンスが抱き寄せる。
「お父様、ごめんなさい! でもお姉さまのこと、私はもう黙っておけない!」
「そうだ、リアン。これは正義だ。セレスティアの本性は、ここでみなに知らされるべきだった。残念ですがこれが真実なのです、侯爵」
「つまり、殿下の仰りたいことは、」
「私が言いたいことは、確かに数多い。しかしこれは明らかにされるべき、純然たる事実です。証拠だって確かにある。この女は、クロフォード家の令嬢として相応しくない」
相応しいのはリアンだ、とでも続きそうな口調だった。
攻略対象たちも後ろで一斉に頷く。きっと彼らにとっての証拠とは、リアンの証言のことを指すのだろう。
そこで初めて、お父様はちらりとだけ私に目を向けた。
その感情の見えない目に、このハーレムルートでのセリフが蘇る。
『──確かに。この娘はもはや、』
「......詳しい話を聞きましょう」
「正直なところ、これ以上の詳しい話というのはありません。私が先ほど告げたことが全てです」
「しかしそれでは」
テレンスは焦れているようだった。
私も少し驚いている。ゲームでは『セレスティア』が闇魔法を暴走させてすぐに戦闘パートに入ったけど、何もしなければこんなに長引くのか、と。
とうとう、テレンスがお父様の腕を掴む。
「ショックなのはわかります」
しっかりとお父様の目を見るテレンス。
それからテレンスも攻略対象たちもお父様の答えを待つかのように、しん、と周囲が静まり返った。
はく、とお父様が唇を動かすのが見えた。
お父様は何も言えないようで、ずっと目を伏せていた私も思わず目を瞠る。こんなお父様、初めて見た。
お父様の顔色は、いつの間にか蒼白になっていた。まるで雷に打たれたように動かない。
まさか、という呟きが聞こえる。
ずっと手にしていたパーティーグラスのまわりで、その筋張った指の関節が真っ白だった。
「──殿下の仰ったことは真実ですね?」
ついにお父様が口にした言葉は、聞き取れないほどの低い音。
「......そうだ」
どこか怯んだような声でテレンスは答える。
「セレスティアは王妃の身分に相応しからぬと? 私はずっと、謀られていたと?」
今度はもう少し大きな声で、まるで自分に向けて念を押しているようだった。
「そうだ!」
お父様の朗々とした声に背中を押されるように、今度のテレンスはきっぱり答える。
お父様がずっと手に持ったままでいた、ワイングラスが揺れている。
勢いよく振り返ったお父様は、激情を堪えるように震えている。
まるでゴミでも捨てるようにワイングラスが落とされ、床にぶつかり、ぐにゃり、と曲がった。
──曲がった?
大広間がビリビリ震えるような振動を感じ、落ちた雷のような声が轟く。
「────どこの男だ!!!!」
ゴオッと私のまわりを何かが駆け抜けていったように錯覚して。
どよめきが一瞬のうちに沸いて、すぐに死んだように途絶える。思わず瞑っていた目を、開いて。
「え、」
お父様は私を見ていなかった。
私は何が起こったのか理解できなかった。
私の数歩離れた横に、深い地割れができていた。
その亀裂から、とろとろと溶岩が湧き上がり、細い細流を幾本も垂らしている。
それは控え目にも見えるというのに、柔く床を舐めるたび、大理石は炎の泥流に飲み込まれていった。
そして、それらを取り囲むようにして地から伸びる、荒々しい数えきれないほどの槍。
襲い来る津波がそのまま凍り付いたような姿は、しかし氷などではない。歪に溶け合って地から伸びる金属や石英は、ゾッとするほど鋭かった。
リアンも、その取り巻き立ちも、もはや誰も何も言わない。
笑いさざめいていたパーティーの客たちは、天罰のような一本の地割れから逃れるように、大広間の両端で固まっている。
私を押さえつけるダミアンの力が抜けて、どすんと尻もちをついたのが聞こえる。そのときに感じた重さで、私は思い出したように瞬きをした。
頭が上手く働かない。
私から、たった一メートルほど離れたところで。
かつてお父様のグラスだったものは、あまりの高温に溶けて大理石と混ざり合い、醜い石英の塊となっていた。
それでやっと、私は思い至った。
土魔法だ。
私が馬鹿にされていた土魔法。鉄も、石も、ガラスも、溶岩も、土の一部。火や風と混ざり合えば、土魔法にはこんなにも恐ろしいことができたのかと、背筋に寒気を感じた。
これはただの土属性だけの使い方じゃない。私と同じ土魔法、
違う。
お父様の土魔法。
希少な属性以外のほぼすべての魔法を使える私に、その魔法を受け継がせたのはお父様だ。攻略対象全員で立ち向かわなければならないほどの魔力を有する私に、その魔力を受け継がせたのもお父様。
お父様は、天災のような地割れの起点に立っている。
そして地を裂くほどに暴虐的に、恐ろしい魔物の鉤爪のように、お父様の魔法のすべてが向かった先は。
「......お母様?」
セレスティアそっくりの黒髪を結い上げた貴婦人──エレイン・クロフォード夫人は、自分を取り囲む鉄槍の檻など気にもかけない様子で立っていた。
単に、退屈そうにグラスを回した。
何も興味のない様子でただグラスだけを見つめて首を傾けて。まるで答える価値もない、と言うように、問いかけを無視して再び掲げられたグラスが、黒いベールの下に覗く唇に触れる、その間際。
「......誰だと思う?」
地が揺れた。
「────誤魔化すな」
地震の起点、お父様は、ぐわりと目を見開いて立っていた。
感情を押し殺したお父様の声。
それとは反対に、退屈な調子を崩さないお母様の声。
「珍しく冗談を言うものだと、付き合ってやったというのに。グレン」
「ああ、エレイン。我が妻よ。これは冗談か? ......セレスティアの父は、誰だ」
暫し二人は静かに見つめ合う。蛇の睨み合いの狭間にあるかのような、じっとりとした沈黙だった。
「......よくも。よくも。言ってくれたな。そこの、若造の言葉を信じると?」
「このような公の場で妄言を吐くほど、王太子殿下は愚かではないだろう」
お母様はすっと背筋を伸ばした。
そこで初めて、お母様は真っ直ぐお父様を見た──のだと、なぜかベール越しにでもわかった。
バリンッ!
......と、無造作に投げ捨てられたグラスが、静寂の中で砕けた。
「......『どこの男だ』?」
蝋燭の灯が揺れる。
シャンデリアの明かりに、少し陰りが差したような。ピシャリ、とガラスの破片の浮かぶワインの水たまりにヒールをつけて、お母様は一歩踏み出した。
お母様の影を映し込んで、黒々としたワインの液体が広がる。お母様の影が伸びる。
......影が広がる。
いや。......ヒタリ、ヒタリと。冷たく、水が広がるように。夜がくるように。お伽噺の形無い恐怖が忍びよるように。暗闇が。
これは、
これは。
────闇魔法。
押し殺した悲鳴と、引き攣れた息遣いがあちこちから上がった。囁き声にもならない恐怖が色濃く漂う。
お父様は、ただ、目を細めた。
部屋を侵食し始めた暗がりの中で、ドプリ、ゴボ、沸き立つマグマだけが毒々しい赤に輝き、また数ミリ尖りを増した鉱石の槍だけがその光を照り返す。
風も無いのに、お母様の纏うベールが揺らめいた。
ゆっくりと、ゆっくりと、窓から差し込む光が閉ざされて行っている。
翻るベールが一瞬だけ、三日月のようにたわんだ、闇を吸い込むように光を放つ真紅の瞳を明らかにした。
「面白い世迷言を言う......冗談にしてやるうちに額づいて謝れば、可愛げもあったろうに。野暮な男よの」
鈴の音のようにころころと、繊細な笑い声が、なぜか部屋のあちこちで増幅して響く。
空間を捻じ曲げるような奇妙な反響の仕方だった。
そのくせ音を吸い込む夜の静寂と同じで、どこか空洞な音。
じわり、じわりと、部屋の隅に蟠る影が深まり続けている。
「じょ...じょうだ──冗談? 冗談...」
お父様は戦慄く手を髪に差し込み、ぐわりと両手で鷲掴んだ。ギリギリと歯を噛み締める。
いつも凛と伸びていたはずの背は歪に丸まり、手負いの獣のようだった。爪を立てて掻き毟る髪は、名家の当主らしく整えられていたのが思い出せないほど乱れ果てた。
指から零れる毛筋の隙間から、気狂いじみたギラつきを孕む眼光が、ひたりと妻を見据えている。
「冗談、ならば──ならばこれは、何だ。侯爵令嬢を騙っていたと、私の娘は──セレスティアは、い...卑しい身分だと、クロフォード家に──わ、私の娘に、相応しくないと...? これが真実!? 事実!?!? 証拠すらあるだと!!!!」
瞬間、白熱した轟音があった。
大広間の全ての者の聴覚が奪われ、視界が眩む。遅れて、頭を割る頭痛と耳鳴りの残響で、それが巨大な地震の轟きであったのだとわかった。
ぐらぐら、地面が揺れ続けている。粉塵が天井からパラパラ落ちる。
見たこともない狂相で、お父様は地震の起点に立っている。
深まり続ける陰を纏い、怖気走る神のような紅玉が貫く。
お母様は、冷ややかな嗜虐でお父様を見据えている。
広々としたパーティー会場はどこまでも静まり返っていた。静けさの中で、ざあっと人々の血の気が引いていく音が聞こえるようだった。誰もが死にそうな顔をしていた。
リアンやその周囲の青年たちなど、すでに墓の中にいるような沈黙だ。テレンスなどもはや顔色が土気色。
婚約破棄だなんて、とんでもない。
その程度のものではない。
青少年の修羅場なんて目じゃない、そんなものでは済まされない、凄まじい大人のド修羅場が始まろうとしていた。
***
生々しい男女の愁嘆場だった。
「やはり祖国の人間の方が良かったということか? 宝石商の男か。調香師か。この扇も。髪飾りも。私がわざわざお前の祖国から取り寄せていたのを、陰で嗤っていたのか。どこの男だ。どこの男だ。どこの男だ。どこの男だ───」
乾いた井戸のように暗く、乾燥した声で、お父様は震えながらボソボソ囁いている。
そんな話し方なのに、大広間中が息を殺しているから、低い男の声はどこまでも耳を突いた。
普段は平坦な赤味がかった暗褐色の瞳は、激情にカッと開かれ、黄や朱色の斑点が際立って炯々とした怖さがある。熱に浮かされたような目の輝きは、明らかに正気の人間がするものではない。
焦げ茶の髪は、異常な興奮に汗を帯びて、暗い色になって肌にまとわりついている。
いつもの無表情から一転し、激怒に喰い縛られた顔は男性的な輪郭が浮き上がる。鼓動で喉の血管が膨れ上がって沈む。
怒りの頂点にいるグレン・クロフォードは、どうしてだかこの鮮烈な瞬間、いつも以上に美しく見えた。そして遥かに恐ろしかった。
気づかなかった者を責め立てるような、残酷な美貌をしていた。
ピキ、ベキ、パキパキパキ...という軽い音に見合わぬ重量で、大理石が波打ち、より醜く鋭利な鉱石に変じ、巨石がそそり立つ。
ふうっ、とお母様が、艶めいた溜め息を吐いた。
それだけで闇が渦を巻き、吐息の当たったベールは、ほろり、と遺灰のように崩れる。床に落ちる前に、塵も残さず闇に溶けた。
髪を結う飾りも、死骸が腐るようにほろほろと崩れ落ち、暗がりに消える。ふわりと広がった黒髪が、不自然にあたりの陰影を深めた。
露わになった顔は、夜に昇る月のように白々と美しかった。
「わからぬか。そうか。誰が父だかわからぬか。どこの男かわからぬと言うか───貴様が」
冷酷な女の顔だ。涼やかな目元が色めいて、このぬらぬらと薄暗い紅の瞳しか、もはや暗闇の世界で光源となるものはない。
だからこそ、一欠けらの慈悲も無いと絶望しながら...この冷ややかな美女に、縋りたくなる衝動に突き動かされざるを得ない。
さもなくば、死と結びつく原始的恐怖に、この闇に覆い尽くされてしまう。
まるで礼拝を強いる夜の女神のようだ。
己を虜にしようと迫る石の鉤爪など、目にも入らない素振りで。
一歩、エレインは優美に踏み出した。
「己が妻さえも留めておけぬような男なら。グレン」
プツリ。針のごとき黒曜石の槍の先端が、白い喉を刺す。
「......ッ!!」
怯んだのはグレンの方だった。
グレンが激しく身を引くと同時、エレインを取り囲む鉱石の槍がザラリと砂になって崩れる。
エレインは綺麗な弓形に唇を吊り上げて、嘲笑した。
公衆に引き立てられ糾弾された娘より、よほど悪女らしい。さらに一歩、細い体を前に傾ける。
喉からポタリと垂れた血すら、陰となって滲み広がる。
「───妾も、我が娘も、血の一滴たりとて貴様のものではない」
投下されたパニックに頭が真っ白になり、数人がひきつけを起こした。数人は卒倒した。
諦めて神への祈りを呟く声も聞こえ始める。
「────、......」
お父様は。
言葉を失くして、立ち尽くしている。
グレン・クロフォードは妻を愛している。
妻が毎日千人の領民を虐殺しようが、自分を足蹴にしようが、親を殺そうが、構わない。妻が妻であるだけで愛しているからだ。
自分を愛さない妻を愛している。自分を嘲る妻を愛している。無理に祖国から攫い、閉じ込めて婚姻を強いた、恨みがましげに自分を睨み上げる妻を深く深く愛した。
だから娘が王子に断罪されるのも、無関心に眺めた。自分を足蹴にする男を娘が愛しているなら、それで構わない。グレンは娘を理解できた。
娘が罪人だろうが聖者だろうが、他者を虐げようが虐げられようが、自分と妻の娘である事実だけで娘を愛している。男に断罪を突きつけられ床に這う娘さえ、グレン・クロフォードは娘を愛している。
つまりグレン・クロフォードは狂人だった。
グレンは娘を愛している────自分と妻の娘を愛している────しかし。
娘が、妻の娘が、私の娘が────────自分の娘でないなら?
それは、
それは世界の崩壊だった。
「────セレスティア」
しわがれた声が、ぽつん、と大広間に落ちた。
呪詛を閉じ込めた鉄扉がギィと開くような、嫌な音だ。
「セレスティア。セレスティア、セレスティア」
がつり、と突然グレンはセレスティアの腕を鷲掴んだ。
いつの間にかお父様が目の前にいた。力加減が頭に無いらしく、ギリギリ万力で腕を締めて焦点の合わない目で覗き込んでくる父を、セレスティアは大きく瞳を開いて見上げていた。
顔に、長身を屈めた男の影が被さる。
「お前の父は、誰だ?」
頬に触れる、焦げ茶の髪質は、毎日鏡の前でブラシを通すものと驚くほど似ていた。
射竦められて麻痺する頭で、場違いにそんなことが思い浮かぶ。
私は、はく、と動かない唇と震わせて。どうにか、痙攣のように、吐息を押し出して、
「......お父さま、です」
だって、それ以外、答えがわからなかったから。
「私のお父様は、生まれたときから、お父様です」
「───きゃ、」
「おお、」
美しい黒髪の令夫人と令嬢は、花弁のようにグレンの腕の中に攫われていた。
ゴッ、と遅れて吹き付けた強風が、二人の長い髪を乱し互いに絡ませる。
「懐かしいこと。のう、姫君さらいの悪鬼」
ガッシリと胸の下に回る男の腕に触れて、エレインはグレンを見上げた。
「...何とでも言うがいい...」
グレンは地面の惨たらしく抉れた痕から目を動かさず、瞬きもしなかった。
地震で地がずれ動くように、城の地面を魔法でズタズタに引き裂き、一息にここまで移動したのだ。その痕だった。
その一点を見つめて動かないのは、明らかに、脳の回線が幾つか焼き切れている。
しかしエレインとセレスティアを両腕に抱く力は、微塵も揺らがない。
「おお、こわや」
エレインは袖口で顔を隠す仕草をし...そもそも袖が無いことに気づき、代わりにそのまま伸ばした手を筒状にして、セレスティアの耳に当てる。
そこにコソリと囁いた。
「──この父のようになるでないぞ、せれすてや」
「...それって!」
この父のように、って。
私は驚いて振り向いたけど、お母様はこの驚きを勘違いしたようだった。
目尻をじわっと薄紅に染め、ツンと顔を背けられる。
「呼びたくなくてな、呼ばずにおったのではない。外つ国の物言いはむつかしかろ。せ、せれすてぇいあ。ほれ、妾には言えぬ」
ポカン、と私は目と口を開いた。
「お...お母様も、本当はエレインではなくて、もう少し難しいお名前でしょう。イェレ...」
「夜鈴。処違えれば、夜鈴姫、とも呼ばれたものよな。懐かしゅうてならぬ」
少し迷ってから、自分の手も筒にして、お母様の耳につける。
「やしゅじゅ...」
「ほほ。愛いらし」
自分の腕でヒソヒソ囁き合う女性陣など、グレンは一切気にしなかった。
抗っても、無抵抗でも、結託して自分を殺そうとしてきても、どうでもよかった。
逃げようとさえしなければ。
逃がしはしない。
妻は私の妻だ。セレスティアは私の妻の娘で、妻によく似ていて、妻の血を引いていて、その娘が──妻の娘は──妻は私の妻だ。
私の愛する妻の娘だ。
つまり私の愛する娘だ。
これが正しい。私の手中にある限り二人とも私のものだ。
つまり逃がさなければいい。
これ以外の不条理は間違っている。仮にセレスティアとの血の繋がりを自称する男が現れたとして、その男はセレスティアの父ではない。その男は間違っている。
その男が居なくなれば正しい。
つまり私がセレスティアの父だ。
セレスティアもそう言っている。
「──エレイン。どこの男だ?」
最初とは打って変わって静かに問う男の、瞳孔の拡散した目を、エレインは面白げに見上げた。
「もし妾がどこぞの男の名を挙げたとして、グレン、その男を如何するつもりだ?」
「............? 正しいことを」
「ほほほ」
両親がそんなことをしているものだから、セレスティアはお母様と反対側のお父様の腕にガッシリ抱えられたまま、民衆を見下ろしているしかない。
大広間の端のこの場所では、部屋中の驚愕の目とポッカリ空いた口が綺麗に見える。
私を断罪していた人たちとか、すごく顔色が悪いけど。大丈夫かしら。リアンも、あの顔、何が起きてるか理解できてるのかしら。なぜかちょっと心配になる。
ついさっきの出来事なのに、なんだか別世界みたい。いろいろあり過ぎて、まだ頭が追いつかない。
実際客観的に見れば、魔界の魔王の腕から囚われの乙女が見下ろしてるようなものだ。
だから、泡を喰ったレンダイン国王が駆けてくるのもよく見えた。
「クロ、クロフォード、侯爵...ッ!!」
ゼェゼェ息を切らし、膝に手を着いて、ずり落ちた王冠を押し上げている。
こんな姿で何度も呼びかけても、まだ陛下へ反応しないお父様に、とうとう見かねて私はお父様の袖を引っ張った。
「...お父様、お父様」
「......。」
「お父様、陛下が......、お父様?」
じぃーーー......とセレスティアを見下ろし、グレンは感情の読めない顔で静止する。
セレスティアの『お父様』を噛み締めている。
そうしてたっぷり時間をかけてようやく、グレンは王を向いた。目の前の人間を認識していないような、認識しても虫程度の価値しか見ていないような。そんな無機質な眼差しで。
これに気づいていないのかと、息せき切って話す王に、セレスティアの方がほんの少し不安になる。
「息子の暴挙は謝る、若者たちの間で行き違いがあったのだろう、だが、君までこんな──こんな真似はすぐにやめなさい! わかるだろう? 君は、東方の国々との交流の礎を築いた立派な人材だ、この国で重要な人物だ! 我が国のクロフォード侯爵家の当主だろう、君も、セレスティア嬢も、クロフォード侯爵家の人間である以上果たすべき義務があるはず──」
ここで王は、一瞬息子のテレンスを見た。
それに婚約者の地位に引き摺り戻される未来を想像し、ゾワリと悪寒が走る。
つられたように、お父様もフッとテレンスを見た。
テレンスは恐怖で吐きそうな顔をした。
「......ああ...確かに...」
お父様は、明らかに他の何かに気を取られた目で眼球を動かし続けたまま、毟り取るように指輪を外した。狂人の目だった。
────カツ。
そんな、軽い音が、セレスティアの耳を擽った。
クロフォード侯爵の印章指輪、クロフォード侯爵領を治める者の証、王国に隷属を誓う証が地に堕ちる音にしては、あまりに呆気ない音。
セレスティアはぼんやりと、大理石の上を無機質に転がり、灯りを鈍く照り返す、小さな金属の塊を見つめていた。
『──確かに』
頭の中で、記憶にこびりついた声が木霊する。
「この娘はもはや、」
『──この娘はもはや、』
まさか、こんな形で、ずっと恐れていたシナリオが。
「クロフォード侯爵家の人間ではない」
『クロフォード侯爵家の人間ではない』
「──私の妻だ。私の娘だ。私の、私だけのものだ」
──こんな形で叶うなんて。
──────ドォン。
凄まじい音がして、気づけば壁にはぽっかりと穴が開いていた。巨大な空洞から、空が見える。
遥か彼方の山まで、城も、城壁も、地も、土塊の玩具のように薙ぎ倒されて抉れている。そうしてできた、真っ直ぐクロフォード侯爵領──であった場所へ向かう軌道のどこにも、グレン・クロフォードとその妻と娘の姿は、すでに見えなくなっていた。
その後、七日七晩の間日の昇らぬ夜が続き、王国は暗闇に包まれた。また、巨大地震に見舞われ、幾つかの山が崩れ、幾つかの川が土砂で埋まり、複数箇所の休火山が再活した。
こうしたド修羅場による天変地異を経て、いつの間にかクロフォード侯爵領は(勝手に)王国から独立し、(勝手に)クロフォード公国を名乗るようになっていたのだった。
完。
⬛️クロフォード夫妻
夫:婚約破棄や断罪劇どころではない凶行を、過去にどっかの国でやらかしている。テレンスごときとは格が天と地核くらい違う。ヤンデレっていうかヤンデル。
妻:絶賛マイルド軟禁され中なのに頭の可笑しい夫に不貞を疑われ、ちょっとおこ。揶揄ってやった。娘より母親の方がガチ悪女。ツンデレというよりツンドラ?
愛情表現がサイコパス & 高貴な生まれすぎてちょっとひとのこころがない
この組み合わせで起きた悲劇。
⬛️セレスティア・クロフォード令嬢
二人の娘。ほとんど母そっくり。
前世思い出したらゲームの悪役令嬢だった。どうにか道筋に抗おうとしたけど、どうしようもなく婚約破棄された──と思ったらなんか別のド修羅場が始まって国絡みの大問題になってやばい。
この後、母の祖国の皇子とか、新しい国の建立を聞きつけた帝国の皇子とか、なんかいろいろ来るが、痴話喧嘩を冷戦から紛争に切り替えた両親が軽率に天災起こすのでそれどころじゃない。
今はもう少し、やっと自覚した両親の(やや狂気的な)愛情に浸っていたい。
⬛️リアン
実は家庭内では、セレスティアお姉様以外の人間に存在を認知されていたか怪しい。可哀想。
少なくともグレンには、メンテナンスが必要なル●バくらいの認識はされていた。はず。
⬛️テレンス
苦しんで死にたくない限り、お前はその嘘を貫き通した方がいい。
⬛️レンダイン王国
突然隣に魔王の国みたいなのができて恐怖に震える。