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第2話 帰宅
家に着くと、予想通り二人とも帰っていた。
「なんで電話に出ないの?こんなに遅くなるなら連絡くれないと困るんだけど」
「ごめん、姉さん。ごはん残ってるかな?」
「まあ、あるけど。自分で温めなさいよ。」
「ありが…」
姉にお礼を言いかけたその時、階段を駆け下りる音が響き渡る。
「こんな遅くまで何してたの?」
あまりの勢いに委縮してしまう
「何とか言いなさいよ!連絡も寄越さないで!」
「…ごめんなさい」
「ごめんじゃなくて、どこに行ってたの!?」
「電車で寝過ごしちゃって…疲れてるのかな。」
「またなの?いい加減にしなさい!」
母は、言いたい事をぶちまけたら気がすんだのか、
2,3小言を言うとテレビを見始めた。
「ほら、今のうちに食べちゃいなよ」
「うん、」
母の勢いに吞まれたのか、怒鳴られている私を見て可哀そうに思ったのかは
分からないが、姉は少し優しい口調に戻った。
自分から聞いた手前、今更いらないと言うわけにはいかなかったが、
もう食欲はなかった。
電子レンジのボタンを押して、また心の中の目を閉じる。
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"あの人"がいる。
そこは、見たことのあるようで、知らない世界だった。
そよ風が心地いい。
声は聞こえないが、皆やさしそうな顔をしている。
いったいここはどこなんだろう。
手を伸ばせば消えてしまうかもしれない。でも触れてみたい――
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『ピー・ピー』
電子音にかき消され、気づけば見慣れた家の台所に立っていた。
小さくため息をついて、リビングに目をやると、まだ二人はテレビを見ていた。
今行ったら邪魔になると思い、横にあるテーブルの端を片付けた。
ソファの2人を横目に見て思わずため息がこぼれる。
「いただきます」 と小さく唱えて、手を合わせながら器の中の野菜を眺めた。