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ロンドンのフジの花

作者: 色原 理音

皆さま ご無沙汰しています。

いらしてくださりありがとうございます。

 子供の頃、近所の公園に藤棚があったりして、昔からフジは身近な花だった。

 細い竹を格子状に組んだところから青みがかった薄紫の花の房(総状花序というらしい)がたくさん垂れているのは、明るい緑の葉と相まって涼しげだった。花は整然として見えた。朝礼で校庭に並び、ふざけずに校長先生の話を聞く子供たちに通じるものも感じた。


 けれども、少し前にしばらく住んでいたロンドンでは、まったく違うフジの花を見た。


 ロンドンにはとても広い公園がいくつもある。手入れされた色とりどりの花壇の間を歩いていると、大きな木々や草がかなり伸び伸びと――場所によっては放ったらかしという言葉がふさわしい雰囲気で生えているところに入り込んだりする。


 息を深く吸うと空気は車や赤い二階建てのバスや馬(馬はたまにだ)が行き交う表通りより少し清々しく、きれいな鈴の音にメロディーがついたような鳥の声も聞こえて手軽に森林浴の真似事ができた。

 散歩していると野山を歩いているような気になることもしばしばだった。


 公園には、以前貴族の屋敷だった建造物やその名残もしばしば存在する。

 私が目にしたのは、上の方が崩れたレンガ塀にたくましく育ったフジが絡みつき、藤棚よりだいぶ低いところで花を咲かせている光景だった。


 藤棚や山の木に絡みついて咲いているフジは、見上げないと愛でることができず物理的に敷居が高かった。

 そこへいくと、レンガ塀を這い空いた穴をくぐって蔓( つる)を伸ばし咲いているフジの花には、「こんちは」と話しかけてくるような気軽さがある。


 名前や藤娘の日本人形のイメージからフジはどことなく和風な花だと思っていたので、こんな洋風な背景とも大変合うことが新鮮だった。


 しかも、すり減ったり欠けたり色あせたりしているレンガも、うねりながら太く育ちつつあるフジの蔓も、共にここまでの長い時間を感じさせる。

 ロンドンの魅力の一つは、古いものと新しいものが共存していて、時間の流れを感じられることが多いところだ。


 藤棚や山だと花の青みがかった薄紫、葉の緑と寒色系の色が多い。

 なので、レンガの朱色がかった赤茶色のように暖かみのある色とフジの花の取り合わせを見たのもロンドンが初めてだった。

 冷めた薄紫の花がこういう暖色とも調和するのかと、はっとした。緑色の葉やレンガの白い目地も、色み的に良いクッションになっているのかもしれない。


 何の思い入れもないつもりだったフジの花。けれどもあんがい固定観念が自分の中にあったのかなとも考えさせられた。


 初めて暮らしたロンドンには、想像を超えるものがたくさんあった。

 中でも真っ先に頭に浮かぶものの一つが、このフジの花とレンガ塀の組み合わせなのだ。

ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございました。

ご来訪に心から感謝いたします。

リハビリを兼ねて書きました。

よろしければまたお越しください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そんなつもりはなくても、見慣れた風景、当たり前の文化の中で固定概念が出来上がっているのでしょうね。 海外に行くとハッとさせられることが多いです。 ロンドンのレンガに咲く藤の花、見てみたい…
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