2、タマエの話①
この世界はかつて魔王が支配していた。
数千年に渡る魔王支配の中で魔族を除く全ての上位種族が魔王に反旗を翻し、数百年に渡る戦いの中で勇者は上位種の協力もあり魔王に勝利した。
それから、数千年・・・
人と上位種族の中にはいつしか溝が生まれ、人との関わりが失われていった。
~~~
勇者パーティーの拠点・台所
「さてと、頑張りますか。」
メディアは朝早くに台所に立ち、包丁を右手に気合を入れていた。
というのも、悪夢に出てきた上位種のネコ娘がそろそろお腹を空かせる頃だったからだ。
悪夢の中のメディアの視点はクラウドだったり、クラウド周辺のキャラに限定され・・・
その中では彼女達、勇者パーティーはさも悪役の様に扱われていた。
「やはり魚かしら。」
メディアも聖女になる前はよくご飯は作っていたので、料理はお手の物。
悪夢の中では携帯食料を食べていたから、手に持ちやすいものが好ましいだろうとサンドイッチを用意しておいた。
「これでよしと。」
バスケットの中にサンドイッチを入れて、準備は整った。
「メディア、今日はどうしたの?」
「ちょっと、ピクニックに。」
マイに声をかけられて、軽く返事をする。
「ふぅん、ぼっちは寂しいわね。」
「一人でやるピクニックも良いものよ。マイも来る?」
「いいや、今日は読書って決めているんだ。」
マイは自分の部屋に戻ると、メディアは早速とある場所へ行く。
メディアが来たのは冒険者ギルドだ。
「えっ、メディア様が何でこんな所に?」
あまりの場違い感に受付の人が驚いていた。
「実は冒険者登録をしたくて。」
「え?メディア様って勇者パーティーじゃないですか?もしかしてクビになったのですか??」
誤解ない様に、メディアは受付の人に適当な理由を話す。
「いいえ、冒険者登録がどういったものかを体験しておきたくて・・・」
嘘である。
クラウドは冒険者登録をして、そこでネコ娘を使役したので
その前にお腹を満たしてあげれば出会う事は回避出来ると判断したからだった。
受付の人はメディアの言葉に凄く感動していた。
「素晴らしいですね。勇者パーティーの一員でありながら、冒険者としての視点も学ぶ姿勢・・・感動しました。」
「お恥ずかしいですね。(嘘ついてごめんなさい。)」
早速メディアは冒険者登録の試験を受けに。
ゴブリン自体は楽なので、杖で殴り倒して魔石を回収し・・・周辺を探索する。
「あ、いた。」
ネコ娘は呑気に歩いていたが、空腹からかお腹がグーグーなっていた。
「お腹空いた・・・」
そんなお約束な台詞を出すネコ娘にメディアは声をかける。
「あの、そこのネコさん。お腹空いていたりしませんか?」
「ん?誰?」
「私は通りすがりの聖女です。」
「そうなんだ。・・・!!・・・この匂いはっ!!」
魚を使った料理の匂いに気がついたようだ。
「今朝は良い魚が手に入って。一緒に食べませんか?」
一緒に食べる事で、警戒心を和らげる事が出来るのと
グ~~~・・・実は、彼女もお腹が空いていたのだ。
「お姉さんもお腹空いていたんだね。」
「お恥ずかしながら。」
これが決め手になり、メディアとネコ娘は一緒にランチをとる。
「あ、紹介遅れたね。私はタマエ。上位種の一つネコ玉族なんだ。お姉さんの名前も聞いていいかな?」
「私はメディア。勇者パーティーで聖女をやっているわ。」
勇者パーティーと聞いてタマエは目をキラキラさせていた。
「メディアは勇者パーティーの一員なんだ♪カッコいいなぁ。」
“なんだろう、この気持ちは・・・”
メディアは心の中に暖かい何かを感じた。それは勇者パーティーとして仲間達と手を取り合っていた頃の・・・
「何か照れるわね。さぁ、どうぞ。」
バスケットを開いて、タマエに向ける。
「「いただきます。」」
青空の下で食べるサンドイッチも良いもので、また機会あれば・・・ううん、この良さは隣で美味しそうに食べてくれるタマエの存在があるからだろう。
悪夢の中のタマエは持ち前の運動神経と力でウォルドを圧倒してマウントを取っていたけど、今のタマエにはそんな感じはない。
「メディア、ごちそうさま。とっても美味しかったよ。」
「お粗末様でした。気に入ってくれて良かった。頑張った甲斐はあったわね。」
「メディアは料理も出来るんだ・・・あのね、メディア。」
タマエはモジモジしながら話をする。
「私、メディアと一緒にいたいなぁ。」
「え・・・。」
メディアは驚いていた。まさか、あのタマエから一緒にいたいと言われたのだ。
もちろん、断る理由はない。上位種のネコ玉族ならむしろスカウトしたいくらいだ。
「もし、勇者パーティーの中にテイマーがいたらその人と契約を・・・」
カチン・・・
タマエの言葉にメディアの何かがキレた。
「・・・タマエ。あなたと一緒にいるのは問題ありませんし、むしろ歓迎しますが・・・その為に、私の仲間のテイマーに使役されたいとか馬鹿な事は言わないで下さい。」
「ひぃっ、メディアが怖いよぉ・・・私はメディアといたいだけで・・・」
「まだ分かっていない様ですね・・・くどくど・・・」
(2時間後・・・)
そこには引き続き説教をするメディアと説教されるタマエの姿があった。
正座するタマエとその前を往復し、右の人差し指を伸ばすメディア。
「・・・分かりましたか?あなたはもっと自分を大事にすべきです。」
「分かったよ、メディア。むやみに使役されたいとか言わないよ。」
「ふぅ、分かってくれて良かったです・・・それじゃあ、タマエ。よろしくね。」
メディアはタマエの前に右手を出して、タマエはその手を握り返した。
「(メディアは怒らせたらダメだね。)」
「何か言いましたか?」
「な、何でもないよ~。」
こうして、メディアとタマエの絆は結ばれる事になった。
(続く)
最後まで見ていただきありがとうございます。
クラウドが追放されてから従者にする1人タマエとのエピソードになります。